第五章その15
その頃、フィンシードとハーディングは与えられた控え室で休んでいた。
ずっと控え室で待っていたフィーナがコップに冷たい水を入れて二人に差し出す。
「それでお兄様、交渉は上手くいっていますか?」
「ハーディングががんばってくれたおかげで、何とかなりそうだよ。なあ?」
ええ、まあ、と謙虚にうなずくハーディング。
「すまないな、嫌われ役をやってもらって」
「構いませんよ。男に嫌われるのは慣れてますから。女に嫌われなければいいんですよ、俺は」
フィンシードは苦笑いを浮かべる。
最初はハーディングが無理な要求を突き付け、時に罵倒するような発言もし、あえて反感を買う。
その後でフィンシードがもう少し緩い要求を提示すれば、自然と助けられたように思い、その要求を受け入れやすく感じる。
もし最初からフィンシードの案を提示していれば、もう少し賠償金が高くなっても、賊の無罪放免を突っぱねる方向に考えるだろう。
そんな駆け引きが繰り広げられていたとは知らないフィーナは訳がわからず、首をかしげるばかりだった。
ハーディングがふと思い出したように口を開く。
「ところで殿下、ひとつ伺ってもよろしいですか?」
「なんだい?」
「賠償金の額……あれは何か意味があるんですか?」
「別に深い意味はないけど……」
「けど?」
「あれだけあれば、小さな料理屋のひとつくらい出せるかなって」
そうこうしている内に、交渉団の代表が戻ってきた。
宰相に会って恩赦を与える確約を得た事を説明し、フィンシードの案を土台にして交渉を進めていく事を確認する。
休憩が終われば、詰めの交渉に入る。
順調に進めば明日には調印にこぎ着けるかも知れない。
フィンシードとハーディングの、剣を交えない戦いもあと少しだった。




