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第一章 信任状捧呈式

 まるで川を流される、一枚の木の葉のようだ。

 アストリア王国第三王子フィンシードは、その身の置かれた状況をそう思った。

 高く、頑強な造りの石壁と、居ならぶ群臣は、もちろんアストリア王国の物ではない。

 大国であるルーンバウム帝国の中枢で、その身はまさに川を流される一枚の木の葉のように頼りなく思えた。

 膝をつき、視線を上げた先には、意匠を凝らした玉座がある。

 そしてその上には、この世界で唯一、そこに座る事を許された者がいる。

 ルーンバウム帝国皇帝ランフォード二世。

 大陸を六つに分ける国の中心に位置し、最も強大なルーンバウム帝国の、その頂点に立つ男。

 すでに年齢は初老に達しているが、体躯はがっしりしており、立派な髭の中から覗く眼光は鋭く、大国の皇帝に相応しい威厳を備えていた。

 侍従官から手渡された、一枚の書類に目を通している。

 それはフィンシードが父であるアストリア王国国王アルバートから渡された信任状……フィンシードが国王から信任されたアストリア王国特命全権大使であり、ルーンバウム帝国における主権の代理人である事を証明する書類だった。

 そしてこの信任状捧呈式を終えて初めて、フィンシードはルーンバウム帝国において、大使としての活動が許される事になる。

「そなたがアストリア王国第三王子フィンシードに相違ないか?」

 ランフォード二世が重々しく口を開く。

「はい」

「各国の大使には重要な人物が配置されると思っていたが、まさか王子がその任につくとはな」

「それだけ我が君が貴国との関係修復を重要に考えている証だとお考え下さい」

「なるほど。そうでなければ、我が子をかつての敵国に送り込むなどできはしまい」

 ランフォード二世は大きくうなずく。

「貴殿のこれからの活躍に期待している」

「はい」

 フィンシードは頭を下げた。

 この身は川を流される一枚の木の葉のように頼りない物かも知れない。

 しかしその一枚の木の葉は、ルーンバウム帝国という大河のほとりに立つ、アストリア王国という小さな木の命運を託されているのだ……。

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