第三章その5
それから数日後の事。
ハーディングとクリーズの二人が揃って食堂にやってきた。
居合わせたのはメイド三姉妹の次女ルナである。
「ルナちゃん、ちょどいいところにいた! お祝いだ! 酒持ってこい!」
「こら! まだ昼間だろ! ルナちゃん、麦茶を持ってきてくれないか?」
「は~い♪」
ルナは元気に返事をすると、軽やかなステップで厨房へ駆けていく。
程なく、琥珀色の液体が入ったコップを三つ持って戻ってきた。
コップの中身に口を付けて、ハーディングは相好を崩し、クリーズは眉をひそめた。
ルナもちゃっかり自分のコップに口を付けてニコニコしている。
「アリシアさんには内緒ですよ♪」
「そうだな。俺達はもう立派な共犯者だし」
「俺は巻き込まれただけなんだが……全く、しょうがない奴らだ」
ぶつぶつ言いながら、クリーズも結局は「コップの中身」にちびちびと口を付ける。
「ところで何か良い事があったんですか?」
「うん、実は自警団ができる事になったんだ。これで治安回復の道筋ができた事になる」
「わあ! おめでとうございます! これで安心して出歩けるようになりますね!」
「……いや、自警団はまだできてないし、できても効果が上がるのはそのまた先だよ」
「ええ~、そうなんですか~? がっかりです~」
しょんぼりと落ち込むルナ。
「まあ仕方ないんだ。急いでも良い事は何もない。何事もゆっくり焦らず、だよ」
苦笑いを浮かべるクリーズ。
自警団を提案するまでが自分達の仕事であり、実際に作るのはルーンバウムの人達である。
自分達にとっては肩の荷が下りたところだが、ルーンバウムの人達にとってはまだまだこれからという事になる。
成果が得られるまでは指をくわえて見ているしかない。
「やあ、みなさんお揃いですね」
「あっ、アルドさん」
「ルナちゃん、麦茶をもらえるかな?」
「は~い♪」
パタパタと駆けていくルナ。
アルドは適当な席に座る。
「えらくご機嫌じゃないか。薬師の手伝いは慣れたのか?」
「ええ、薬師の勉強も楽しくなってきたし、何よりシルヴィールさんが良くしてくれますから。知ってました? 服装も髪型も無頓着な人だから気付かないかも知れないけど、シルヴィールさんって結構美人なんですよ」
「……………」
「……………」
「アルドさん、麦茶ですよ」
「ありがとう。いただくね」
アルドは麦茶のコップを受け取ると、ぐいーっと一気に飲み干してしまった。
「じゃあ行きますね。シルヴィールさんは午後からは留守だけど、勉強しなくちゃいけないんで。怪我とかしたらすぐに来て下さい……とは、まだ胸を張っては言えませんけど」
「……………」
「……………」
「……………」
そしてアルドはしゅたっと片手を挙げると、呆気にとられる三人をよそに食堂を出て行った。
クリーズとハーディングは呆然としながら言葉を交わす。
「……医務室で何があったんだ?」
「……俺が知りたいよ」
「……女は魔物だな」
「……その通りだな」
「あのう……何がどうしたんですか?」
「ルナちゃんは知らなくて良い事だから」
「そうそう、できれば知らないままでいてくれ」
「はあ……」
二人はしみじみと語り、ルナは首を傾げた。




