田中姉妹の夏休み
ピンポーン
八月。蝉もうるさく外に出るとすぐに肌が焼けるこの季節。唐突にチャイムの音が鳴り響く。
「お姉ちゃん。チャイムなったよ~。」
「めんどい。あんた行って来てよ・・・」
あまりの暑さにチャイムの音がしても動こうとしないこの二人は田中姉妹。
そんな様子を知っているのか、チャイムを押した当人はもう一度田中家のチャイムを押し鳴らす。
ピンポーン
「はいは~い!今出ますよー。もう、お姉ちゃん、アイス一個私もらうからね。」
「はいよー。それでいいから、行っといでー。」
ドアを開けると、さわやかな青年がそこに立っていた。青年の名は太郎。太郎の手には小ぶりなケーキボックスが下がっている。
「いらっしゃい太郎さん。どしたの?てか暑くない?とりあえず、中入ってって。お姉ちゃん!太郎さん来てるから中入れんね!」
田中家は環境に優しくないらしい。クーラーに加えて扇風機も回し、なぜか毛布も敷かれている。
「それじゃ、お邪魔しようかな。それでね、この前田中さんからアイスの詰め合わせもらったからお返しにケーキでもって持って来たんだけど。」
そう言って太郎は手に持っていたケーキ箱を姉妹の妹。満の方に手渡す。
「ヒュー!でかした太郎さん!では、さっそく中身を拝見させていただきます。」
中には、ショートケーキ、チョコレートケーキやチーズケーキ。他にもタルトやプリンもあって満の顔はだらしなく緩みきっていた。
「うわっ!結構、数多いね。それも、どれもおいしそうで目移りしちゃう。」
「ちょっと満!アンタだけの物じゃないんだから私にも見せなさいよ!」
そんなケーキを独り占めしようとしていた満に声を上げるのは、姉妹の姉。海未。
「まぁまぁ、ふたりともケンカしないで仲良くしなよ。というか、ふたりとも僕の事忘れてない?」
「「そんなことより、今はケーキが大事に決まってるでしょ(じゃん)!」」
「そうですか・・・まぁいいや。とりあえず渡したからね?それじゃ、僕はもう行くから、重ねて言うけどケンカしないで決めるんだよ。」
田中姉妹はケーキ分別討論をやめて、玄関に向かう太郎に訝しげに問いかける。
「どったの?これからどっか行くん?」
「え?あぁ。これから友達と市内プールに行く約束してるんだ。」
姉妹の妹、満はまさに頭に電球が灯った様な顔をして叫ぶ。
「そう!それだ!そっか~。この夏なにかしてないことがあるんだよなって思ってたんだよね。プールなんだ。ねぇねぇ太郎さん。私もプール行きたい!」
それからはあっという間だった。
満が言い出した事に海未も乗り出して、三名で待ち合わせの市民プールに向かい、性格はあれだが見た目は近所では評判の田中姉妹の水着姿は、姉妹と付き合いの長い太郎でも見惚れるほどで、言葉を失った太郎にいつも通りの振る舞いをする姉妹に我に返る太郎はこう思う。
「田中姉妹は成長しても、今までと変わらないんだろうな。」