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機神エルベラ  作者: 楽音寺
第五章 受け継げ!領主の赤き鎧
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「受け継げ!領主の赤き鎧」その15

-15-



(ギター)に二人乗りした魔女と鬼は荒野のやや上空、朝霧が満ちた空間を飛んでいる。


太陽はまだ(あわ)い。


眼下には、何事もなくマイペースに歩く黒き鎧の放浪者アロウ・アイロット。



(オイラを投げ飛ばした事も忘れてるみたいに…本当に適当でいい加減ッスねぇ)

(敵にとどめも刺さない。復讐心もない)

(なんだか生きてる感じがしない奴ッス)


鬼軍曹殿は(さすがにもうお姫様だっこではない)箒を操縦している魔女に耳打ちする。


「魔女さん魔女さん」

「なんだ(おに)いさん」

「地面に降りる前に、ちょっとあの鈍感(ドンカン)な鎧君にもう一度窒息攻撃を…いや、

なにかガス系の攻撃を仕掛けてみて欲しいッスよ」

「ああ?」

「お願いッス」


鬼軍曹殿は放浪者が“絞首刑”から立ち直った秘密を解き明かすつもりだった。

あれはただガマンしたとか、耐えたとかいう問題ではない。

最初は通用していた攻撃が徐々に通らなくなった、という感触だったのだ。


(無限に強くなり続ける敵。奇策を次々と打ち破って、どんどん攻撃が効かなくなって、攻略して克服して成長し続ける敵。

──放浪者がそんなタイプではないと良いのだけれど)


そんな伏線会話がしっかり存在している以上、放浪者がまさに“そんなタイプ”であることはもう絶対に間違いない。

愛弟子と同じ思考過程を辿った鬼軍曹殿はさっそく確かめてみることにしたのだった。



「へっ、しゃあねぇな…よく判らないけど了解(わか)ったぜ!」

と魔女は呪文を唱え始める──!



【──響け森の歌】【──水の踊り。】


(かわず)の鳴く()】【(とり)宿(やど)。】


【遥かな夕暮れも】【あの恋も。】


【──朧月夜(おぼろづきよ)は君がため! っは!】

逢魔刻(おうまがどき)もなんのその! っよ!】


【【あ、今宵 (わたし)悪戯(イタズラ)色の、着物を()して手を鳴らそうっ!】】



魔女たちの輪唱曲に呼応して、周囲の大気がモスグリーンの(もや)へと変貌した。

じわりと紙にインクが染み入るように濃密な(もや)は触手を伸ばし、朝霧と交じり合い広がっていく。


充分にガスが分布したのを見計らって、魔女が、


【遠い御里(おさと)のあの人に──手紙届けて──くれりゃんせ!】

と唱えると、


*すぽぽぽぽーんっ!


もやの中に淡い桃色の花弁が咲き乱れた。

ぼんやり光る魔力(マナ)の花。

ランプに似た形の魔法植物が()じらいながら(つぼみ)を開き──解き放たれたのは──ホタルのような精霊。


無人の荒野はにわかに祭りの夜のようになり、

放浪者のまわりには精霊が賑やかに飛び交った。


《──わ、なにこれ。きれーだなー》

光に照らされた影の鎧の戦士はのんきに辺りを見渡す。声が弾んでいる。





…しかしどんなに綺麗でも、彼らは見た目ほど無害な存在ではない。


(ほーっ、(みどり)魔術の“枯葉落ちる季節”ッスか)


それは森の妖精を操って、敵から霊氣(れいき)吸収を行いHP・MPを奪う魔術だった。


継続ダメージ+吸収効果+範囲攻撃。

多くの自然動物に有効であり、耐毒・耐元素の属性をもっている敵にも効くオールマイティな攻撃術である。

妖精は呼吸器官だけでなく毛穴などからも侵入するため防御が困難。

威力はやや物足りないものの、優れた術者が使えば小さな村ひとつを不毛の地に変えることもできる。


ましてや個人に狙いを絞って使えば──!


(珍しい魔術ッスねぇ、ほとんど在野(ざいや)の魔術師には

継承されてないマイナーな半禁呪なんスけど…

機神都市エルベラの守護者さんは勉強熱心ッス)



(もや)と花と精霊を撒き散らしながら箒に乗った魔女はおおきく旋回して、放浪者の頭上を飛ぶ。もう十分。


──きっ…とブレーキをかけ(なぜ地を()る音がするのだろう)箒を空中で停止。


興味なさげにそれを見上げていた放浪者と、ばっちり目を合わせて見下す。



現在時刻は朝の8:48。


放浪者はさらに25mほど進攻(ゲイン)していたが──機神都市エルベラはまだまだ先。



「はっはー!さっき知ったんだが、てめーまだ3歳なんだってなぁ?」

「羨ましいわその若さ!魔女のおねーさんにも吸わせてちょーだぁい?」


サキュバスか君達は…と鬼軍曹殿が呆れるのも構わず、魔女は箒を握ってるのと逆の手、二本指を揃え相手を指し示す。

当然、いつでも精霊に“獲物を食い荒らせ”と命令を下せるようにだ。



《────なんだよもう、まだ邪魔するのかぁ?》


放浪者は面倒臭げに視線をめぐらせ、自分の背中に手を回す。

ぞろりと出てきたのは鎧と同じ質感の──

つまりは影のように残像を引く、両手剣だった。

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