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機神エルベラ  作者: 楽音寺
第五章 受け継げ!領主の赤き鎧
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「受け継げ!領主の赤き鎧」その13

-13-


…ごくり。

鬼軍曹殿は喉を鳴らす。


それは放浪者の言葉に対しての戦慄と、

(うるお)いなき荒野の風のせいで口中が乾いたからであって、

薬菜飯店(やくさいはんてん)》のジェラートの涼やかな甘味を思い出したからではなかったが。



「か…観光気分で街ひとつ潰すつもりッスか…さすがは世界三奇人。

《常識?なにそれおいしいの?》ってカンジッスねぇ。同じ奇人でも、

世界中のあらゆる資源を保護しているメノウ男爵とは違うってことか…」



三奇人は皆それぞれに性格が違う。


世界をナチュラルに自分の所有物だと思ってるメノウ男爵。

世界が崩壊しようがまるで構わないと思ってる放浪者アロウ・アイロット。


未だこの物語には登場していないけれど、

残る三奇人のひとりである[[絵画人(かいじん)オルカ]]もまた、

『世界から逃げ出し、一切の関わりを断って引きこもっている』

という、やや不名誉な評価をされることが多いらしい。



世界(せかい)――。


思えば誰もが、世界と向き合い、どう生きるかを決定づけている。

ここから遥か離れたジュレール大渓谷の入り口に置かれた、

あの[[碑文(ひぶん)]]にだってそう刻まれている。



(オイラも、ついさっき自分の生き方を思い出した所だ──)


生意気な生徒に教えられて。(そその)されて。

(強い存在に憧れるだけじゃなく、強い存在にこそ挑みかかる、

そんな昔の自分を取り戻した所だ──!)



蒼穹の空のなか、馬よりふた周りほど大きい白銀の鱗のドラゴンにまたがり、

肩に羽織った白い軍服を風に揺らす。手には茨の手綱。

そしてどこに隠し持っていたのか、剣のように携えている長いマスケット銃。

鬼軍曹殿は詩人の英雄譚(サーガ)に登場する天界の騎士さながらに──朗々(ろうろう)()える。



「生き方ってやつは人それぞれッスけどね…だが放浪者さん!

望むと望まざるに関わらず、あんたが通った後はぺんぺん草ひとつ生えない廃墟になるらしいじゃないッスか? だったらせめて誰にも会わず何処にもいかず、絵画人のように引き篭もってて下さいよ。


世界三奇人…その多大すぎる影響力を、

男爵はちゃんと制御し、絵画人は封印している──

なのに、あんただけが一切の自重をしない!」


きゅろろろっ!呼応してナパームもまた吼える。


「あんたに敵意がなくとも、悪意がなくとも、その無神経さだけで十分世界を滅ぼせてしまうんスよ。ならばあんたは悪といわれても仕方が無い。世界の敵と呼ばれても仕方が無い。子供じゃないんだ。エルベラ銘菓のジェラートごとき我慢できないようでは、いつか痛い目をみるッスよ──!」


じゃき!と長筒の銃を構える。


放浪者は何を考えているのかまったく読めない。


通常通りの眼で、つまりは面倒臭そうに銃口をちらと見て。

日常会話の声色で、つまりはだるそうに間延びした喋り方で。

平常運転の態度で、つまりはまるで鬼軍曹殿を脅威と思わぬ太々(ふてぶて)しさで。


《痛い目なんか見ないよ。この邪魔っけな鎧がある限り》

…と、呟いた。


少し笑ったのがわかる。鎧越しでも。その巨体を揺すって嘲笑している。


《あとね、おれ子供だよ。3歳。

この鎧に閉じ込められた時の年齢のままなんだ。

外ではもう三桁くらいの年が経過してるっぽいけど……いくら無敵の鎧だからって、時間系の攻撃とか老化まで拒絶しなくていいのにね》


「……そうなんスか。ふうん。で、ジェラートは諦めてくれるんスか」


鬼軍曹殿の冷酷な最終警告に。


果たして。


にやりと、駄々(だだ)()そのものと言った仕草で──放浪者は首を横に振った。


《いやだっ!》




*がきゅううん!


銃声が、早朝の荒野に果てしなく遠くまで鳴り響いて、それがそのまま戦いのゴングだった。



鬼軍曹殿が剣のごとく切っ先を向けているのは、

昨夜使われた処刑用の拳銃(リボルバー)とは威力・精度ともに段違いの小銃(ライフル)だ。

吐き出された流線型の銃弾は貫通力に特化した鎧通し弾(アーマーピアサー))で、

先端に含まれた地の精霊力が(かす)かな傷すら左右に押し分けて敵装甲を分解する。


戦車殺し。要塞潰し。一発の銃弾にも関わらず(やかた)よりも高価い。

この弾薬こそが、とある精霊剣を参考にしてラグネロ科学班が独自に開発した

鎧斬(がいき)盾割(たてわ)り》である!


それが空気の壁を突き破り、音速を超えて黒き放浪者の鎧に衝突する!──が。


*──ッキン!


激しく火花を散らして鎧の表面に一瞬埋まった様にみえたがそこで完全にストップ。わずかの後、あっさりと落ちるぺしゃんこに潰れた銃弾。

(はじ)かれも、()れもせず、真正面からぶつかって負けたのだ。


「──」鬼軍曹殿は表情を厳しくする。


まさかこの鎧に銃撃などが効くとは思ってはいなかっただろう。

しかしそれでも爪痕くらいは付けれる筈だとは思っていた。

この特殊銃弾《鎧斬り盾割り》であれば、

その小さな傷だけで致命傷を与えられるはずだったのだ!


それがこのザマだ。

地の精霊の分断効果(ディバイン・エフェクト)すら見受けられなかったという事は、あれだけの衝突エネルギーをもってしても鎧表面にひとすじの傷すらつかなかった──という証明である。




こき…と首を鳴らして。ぽりぽりと銃弾のあった場所を掻いて放浪者は一言。

《なにこれ?せんこー花火?》



不敵極まりない態度。



しかし!

我らが鬼軍曹殿のほうがもっと抜け目無く不敵な男であることを、放浪者は次の瞬間に思い知る!



「花火――まぁ──そんな所ッスね」



ぶわっと熱気が広がり荒野全体が溶解しかねない炎の渦が出現した!


まだ追撃があった──あらかじめ撒かれていた魔獣ナパームのブレスだ!


不可視の可燃ガスに火をつけたのは勿論かの銃弾から生まれた火花である!


どろどろ、ぐるぐる、蛇がとぐろを巻くかのような、液体と気体の性質を(あわ)()ったそのブレスは、放浪者の黒き鎧を熱く抱擁し、風の大陸アールヴの空と大地をシチューのように掻き混ぜてしまう!

具材は放浪者。調理人は鬼軍曹殿。

遠くに見える荒野の終わりや森が現実の風景なのか蜃気楼(しんきろう)なのかさえ判らない。


*きゅろろろろろろろろろろ!!


犠牲者を中心核に巻き込みつつブレスは連発される。どぱぁん!と時折溶岩が噴き出す様が本当に花火のようだ。もしもその場を天の高みから見下ろす者がいたとしたらこう表現したであろう。

――まるでこの世の、地獄(じごく)だと。




《わぁー、これはたまらないぞー》


だが──だが!なんという事だ、放浪者には地獄ですら生ぬるいようだった。

きゃっきゃと楽しそうに、子供が遊んでいる風に。


黒き巨体は紅蓮の炎を()わせ(おど)らせ()(まと)い……溶岩の中で(うごめ)いていた。


沈む足先をがぼっ…がぼっ…と重く持ち上げて。

歩みは遅くなったがまだ進んでいる。

芋虫(キャタピラー)のごとくゆっくりと。


見るもの全てが思わずぞっとしただろう──不死身(マイペース)すぎるその姿。



《さすが灼熱の季節で有名なエルベラだぁ。

あつはなついねぇ、わびさびを感じるねぇ。

その土地の空気を肌で感じる、これが観光の醍醐味だね。

あはは。

でも、こんなに熱いとますます美味しいジェラートが食べたくなっちゃうよ》



「……へへ、熱なんて届いてないでしょうに。

しかしそんなに余裕ぶってていいんスか?

死刑執行人(エクスキューショナー)たるオイラの狙いは銃殺刑でも火あぶりの刑でも無く──」


《…へっ?》


「“絞首刑”ッス」




がくん──と。

放浪者は膝を折った。



《…っ、うう、ぁっ…! かっ…!》


「つまりは窒息死ねらい(・・・・・・)、ってことッスよ。

鬼軍曹のレッスン1。絶対防御を(うた)う相手には対篭城(ろうじょう)戦術──

兵糧攻(ひょうりょうぜ)めが有効。


あらゆる攻撃を拒絶する相手でも、

外界のものすべてを拒絶するワケにはいかないッス。

(ヒカリ)空気(クウキ)(ミズ)食料(ショクリョウ)足場(アシバ)娯楽(ゴラク)刺激(シゲキ)(コイ)──

へへ、こんなにも多くのものが必要なんだから生きてくってのはしんどいッスよねぇ……」




鬼軍曹殿は白銀の甲殻魔獣から焦土と化した荒野へと降り立つ。


「ありがとう。もういいよ」茨の支配を解くと一瞬ぴりっと電撃が(ほとばし)り、ドラゴンは眼を瞬かせると、きゅろーん!と一声鳴いて空へ逃げていった。


荒野をぐつぐつのシチューに変えた事など覚えてないだろう。

暴れ狂う炎の渦によってその中心部の酸素をねこそぎ奪ってしまった事など……理解してすらいまい。



《…ぐぅうっ…は、はは、なるほどね──

鎧は無敵でも中身(おれ)は無敵じゃない…し……!》


「ほら足場もどろどろに溶けてしまってるから早く脱出しないと溶岩に沈んでくッスよ? 銃殺・火炙り・絞首刑に生き埋めまで追加されちゃうッス。

とんだ過剰攻撃(オーバーキル)だ。

──ま、聞き分けのない駄々っ子に対するお仕置きとしては妥当かな」



言って、鬼軍曹ルドルフ・イージューライダーは、

まばらな顎鬚(あごひげ)をいじりながら眩しげに笑った。

いまだ燃え盛る炎がその表情を凄惨に照らしていた。




★★★



ちなみにその頃、僕ら2人は風の中。


『えへへっ、ねぇジョージ様、

こんな風にゆっくり話をするのも久しぶりな気がしませんっ?』


「そうかな。劇場にサーカスを見に行ったのだってほんの昨日の出来事だぜ」


『だっていっぱいヘンな事が起こったんですもん…。

ジョージ様は一度死んじゃうし、放浪者さんは来るし…』


「ふん、確かにしばらくお互い忙殺(ぼうさつ)されてて、話す機会が無かったな…」


『せっかくだから聞きたいことをお聞きしてもいいですかっ』

「なんだよ唐突に」

『魔女っこチルティスちゃんのQ&Aコーーーーーナーーーーーーっ』

「なんか始まった!?」

『“どんどんぱふぱふ♪”とかいって(はや)してくださいよ』

「死んでも嫌だが…で、何を聞きたい」


『いつも怖いものなしって感じのジョージ様ですけどっ、

一番怖い敵ってどんな人ですか?』


ふむ…と僕はしばし考え込んで。

「──無限に強くなり続ける敵。これが一番怖いな」

と答えた。


『えっと、つまり……成長する敵ってことでしょうか』


「ああ。奇策を次々と打ち破って、どんどん攻撃が効かなくなって、攻略して克服して成長し続ける。そんな敵が現れたら意表をついて戦う策士タイプは手詰まりになってしまう。僕や鬼軍曹殿にとっての天敵だな──放浪者がそんなタイプではないと良いのだけれど」


僕の返答に、ふむふむと相槌を打ちながらもチルティスは風に乗って羽ばたく。


『じゃぁ…次のしつもん!

私、いま大鷲の魔獣に【変身】してジョージ様を乗せてる訳ですけれど、

乗り心地はどうですかっ?』


「まぁまぁだ。次!」


『そんなぁ、もうちょっとしっかりした感想をお願いですよ!

せめて60文字くらいはー!』



「ふん…うるさいやつめ。


ただまぁ、おおきく羽ばたいている割には上下運動も意外と激しくはない所は認めてやってもいいかな。僕が酔ったりしないように最大限の努力をしてるのが見て取れる。この翼の付け根のあたりから背中一面が綿毛になってて体を埋めていると暖かいのも高ポイントだ。空は冷えるからな。うなじの羽毛ももふもふしてるし、撫でると(くすぐ)ったそうに身をよじるのが可愛いぞ。いじめたくなるではないか。ふふん、それに色合いのバランスがいい。頭頂部はほんのり黄色で瞳はブラウンふさふさの胸元は輝かんばかりの純白そして翼の先はコントラストも鮮やかな漆黒の闇色で尾羽のみがほんのり赤い正統派(スタンダード)にして王道な配色だ。さすがは鳥の王だと評価してやろう。胴体は手をまわしてぎゅっと抱くのにちょうどいいサイズで抱き枕にしては大きいが寝室に運びたいぐらいだ。大鷲というのも鳥好きの僕の好みを押さえた心憎いチョイスであるぞ。褒めてつかわす」



『うっ、うわーーーーーーーーーーいっ!!!

ジョwージw様wにww褒wwめwらwwwれwちゃっwwたwww』


*ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる!


勢い余って400文字近くも褒めてしまった鳥派の僕の台詞にチルティスは(きり)もみ回転で答えた。喜びすぎだ。普段どれだけ僕が冷たく当たってるのかと疑われてしまうではないか…。



っていうか。


『えへへへへっ、嬉しいなっ』

「……」


『?どーしましたジョージさまっ』

「……(ぎゅっ)」


『ふぇ!?』

「……」


『きゅ、急に抱きしめられると照れますよ。どきどきしてうまく飛べません!

ちちち(ちな)みにジョージ様の手が回っている其処(そこ)

人間の体で考えるとおっぱいのあたりですがっ……!』


「うん。あのな。ぼく、いまの錐もみ回転で酔った」

『…え?』

「吐く」


『え──えええええっ!? だ、だめですよっ! わたしの背中で出しちゃっ…!

もももうちょっとで戦場に着きますから我慢してくださいジョージ様っ!

てやースピードアップ!』


「スピードアップされると尚更(なおさら)酔う…」


『きゃー!ジョージ様がすでに(ほお)(ふく)らませて涙目ですっ!

えまーじぇんしー!えまーじぇんしー!』



★★★




…何はともあれ。


鬼軍曹殿が最初に接敵してから、放浪者の進攻(ゲイン)距離はまだ10mほど。


現在時刻は朝の8:30。


機神都市エルベラまで、直線にして残り68km地点の無人の荒野でのことである。



かの鬼軍曹殿は最善の手を打ったはずだった。最高の目を出したはずだった。

しかしながら──運命というものは実に厄介で理解不能なもので。

効率よく定石(じょうせき)どおりに動いても勝てないことがある。

最悪の事態が狙い済ましたかのように勃発することがある。


何が起こるか分からない。


現在行われているバトルの行方もまた──

この僕ジョウ・ジスガルドが大鷲の背に乗って現場に駆けつける(まで)に、

更に二転三転するのだった。

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