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機神エルベラ  作者: 楽音寺
第一章 響け!ウェディングマーチ
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「響け!ウェディングマーチ」その6

-6-



鳥居・・・というものが東洋の大陸にはあって。


僕らが見上げる巨大な"門"は、それに酷似した奇妙な形だ。


ジュレール大渓谷の黄色い砂にかすんで頂点までは見えにくいが、

絡みついた古びた縄が魔術的な印象を与える門だった。


緋色の門はひろい道幅いっぱいに堂々と鎮座して、

両側は石壁にそって笹が生えていた。


ところどころに星のもようの刻まれた照明器具が吊るされている。



「そういえばエルベラの領主ジーンは

世界地図の東南の大陸ヒノマルの出身らしいな・・・ふん、趣味は悪くない」


「へぇーオジイチャンって別の大陸のひとだったんですかー」

「ん、知らなかったのか?」

「私たち三姉妹は養子で、オジイチャンとは住居も違うんですよー。

だから意外と知らないことも多かったりしまして…」


ヴェールを巻いて胸元を隠した(あまり隠れてない)チルティスがのんびりと答える。

ついこいつのペースに乗せられてノンキに会話してしまったが、

僕たちはいま、結構ピンチな状況だった。



槍。

槍。

槍。

槍・槍・槍。


数十名のエルベラの門兵が長柄の戦槍をかまえて、

少女を背負った鎧の少年(僕だ)をぐるりと取り囲んでる。

鋭い穂先が僕らを中心に綺麗に円を描く。

なかなかの錬度の兵士達だ。ひとり部下に欲しいな。


「こら!貴様ら、何をごちゃごちゃと話している!」

「通行許可証をみせろ!」

「おい、早くしろ!証がなければ敵とみなし攻撃するぞ!」


「うるさい奴らだ・・・貴様らはもう喋るな。僕と口調が被るではないか」

「な、なにぃっ!?」

「もう、ジョージ様ったら、無駄にひとを怒らせるのはやめましょうよ」


まったくこいつまでうるさいな。

挑発して隙をつくのは僕の常套手段なのだ。断じて趣味ではなく。

ふむ、しかしこいつらチルティスの事は知らないのか?

12歳の姿に変身してるから分からないのかも知れないな。


ということは人質作戦が通じるのは、

12歳の頃のチルティスを知る者だけ、ということか・・・。


まぁそれで十分だ。魔法使いの"門番"とジーンにさえ人質が通じれば良い。

それでエルベラは掌握できる。



──と。



そこまで考えて、

(さぁこの門兵どもを蹴散らしてやろう、3秒くらい要るかな)

と構えたちょうどその時。


どこからともなく、石肌の地面をリズミカルにたたく馬のヒヅメの音が響いた。


「はっ・・・あれは!」「なぜあのお方がここに!?」

とか何とか兵どもがざわざわと騒ぐ。ん?なんだ?


音の主は、石造りの関所の奥──砂色の街が窺える──から、

兵士達を掻き分けてこちらに向かっているようだ。


大柄な鎧武者だった。

鷲のような眼と、ゆるやかにして泰然な態度。

たなびく銀色の髪と、ながい髭は・・・白髪だ。老いているのだ。


(まさか…ッ)僕は息を呑む。


アールヴ名産の赤馬に騎乗したその姿は、遠くクレッセン大陸にまで

軍神の名で通るほど凛々しい。


赤き門から赤馬にのって赤い全身鎧で完全武装した・・・こいつが、こいつこそが!



「──無事だったか、我が孫よ。

どうやらそこの小僧に殺されずに済んだみたいじゃな」



騎乗したその高みから、重厚な低い声で乾いた空気を震わせる。

気付くと回りの兵士は皆、槍を地面に並べ、跪いて頭を伏せている。

エルベラの領主、《五芒星》ジーンを前にしての最大限の敬意というわけだ。


「き、貴様がジーンか…!」


しかし・・・僕の戦慄と、周囲の緊張感も、この祖父と孫娘にかかっては

あっさりと台無しになる運命のようだった。



ジーンは僕に眼もくれずニコニコと孫に語りかけ、

チルティスも僕の背中から身を乗り出して祖父に手を振る。


「あ、おじいちゃーん!帰ってきたよただいまー」


「なーんじゃチルちゃん、破廉恥な恰好をしおってw

この爺を喜ばせるのも程ほどにせいw」


僕は思わずずっこける。


「えへへ、別にこれはオジイチャンの為じゃないですよーだw」


「…おい」


「ふむ、その傷、その幼い姿…激しい戦闘があったようじゃな。

かわいそうに・・・

よしよし、今直してやるぞい」


「ありがとー!」


「おいっ!人の背中で和気藹々とするなっ!」なんだ、何なんだこいつら!?



僕を完全に無視して、ジーンは馬上から、ついついっと指を動かす。

? なにか文字を書くような動作だ。


途端──僕の背中にいたチルティスが煙をあげて炸裂した。

って・・・なんだとっ!?炸裂!?



*ぼうんっ*



「う・・・わ・・・」


ずっしりとかかる体重!伸びる手足!

バランスを崩して僕は地面に倒れてしまう!

・・・しかしチルティスは同時には倒れない。


自らぴょんと跳んで。


瀕死のはずの体で、今は傷ひとつない体で、

花嫁衣裳すら新品の20歳の姿で──地面に降り立った。


宙に浮いた極楽鳥花のヴェールが(これも無傷だ)・・・

淡い金髪にふわりと重なる。



「いっえーいっ!魔法少女チルティスちゃん、復活でーーすっ♪」



な・・・なにが起こったんだ・・・詠唱もなく、あんな簡単に・・・。


呆然とする。

わざわざ無力化しておいた人質が、あっさりと瀕死の重傷から立ち直ってしまった。

これで"変身"の魔法の封印まで解かれて──

僕のジーンに対する切り札は一切無くなったのだ。



「あ・・・今は少女ではありませんね。えへへ・・・

渓谷の魔女チルティス復活です。ひさしぶりですね、ジョージ様」


にへらっと笑うチルティスの頭に、いつの間にか馬から降りたジーンが

ぽんと手を置く。



「まぁ、ほら、あれだ…互いに色々言いたいこともあるじゃろ?

君を領主の館に招待しよう。

積もる話はそこでするのが相応しかろうよ。

何にもないが酒くらいはご馳走するぞ、"ジョージ様"」



あっけにとられた僕はこう返すのが精一杯だった。

「残念ながら酒は飲めないんだ…未成年だから…」

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