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機神エルベラ  作者: 楽音寺
第五章 受け継げ!領主の赤き鎧
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「受け継げ!領主の赤き鎧」その2

-2-




──この機神エルベラという物語は、

言ってしまえば支配と裏切りの物語だ(キリッ)。


よし。





あの後、しょんぼりしていたベルディッカに普通にサーベルを見せてやって

(すぐに機嫌は直った)僕は部屋をあとにした。


全身鎧に、いつもより少し異なる雰囲気を(まと)ったサーベル。


そう、いつかした約束の通り、武器職人たるベルディッカに僕のサーベルを強化してもらったのだ。いまや僕のサーベルは[[生きている武器]]になった。


人格──剣格?も存在し、所有者である僕もついに、

“彼”と喋ることができるようになった。

そのキャラクターは…まぁ、伝聞のとおりの第一印象だった。

とやかく言うまい。

いまや僕のキャラクターの方が…その、なんというか危機的な感じでもあるし。





がしゃん──と音を鳴らして僕は赤い絨毯(じゅうたん)を踏み、目的の場所に向かう。

気が重かった。


領主館は1階が社交場で、

巨人の絵が掛けられた大広間、舞踏会場(ダンスフロアー)、厨房、大浴場などがある。


2階は知識の中枢であり、古書や伝説を蒐集(コレクション)した図書庫が

広間から続く吹き抜けの渡り廊下にぐるりと展開している。


3階は客間であり、いくつもの宿泊部屋と生活施設が並ぶ。

談話スペースや娯楽室、鍛錬場のほか、ちょっとした出張商店すらある。



その──2階。

図書庫への扉に埋もれるようにして存在する《会議室》。




扉を開く。




からっぽの騎士鎧が並ぶ物々しい部屋。霊廟(れいびょう)にも似た冷たい空気。

大広間とは意匠(デザイン)が異なる、厳格な雰囲気をもった長方形のテーブル。

巨大なエルベラの地図が掘り込まれたその机を挟んで、なんとこの物語の主要人物が一同に(かい)していた。


呉越同舟(ごえつどうしゅう)どころか。

不倶戴天(ふぐたいてん)の天敵──である。


皆が一様に沈痛な表情をしていた。



先に到着していたベルディッカもだ。

思えば朝のおふざけなんて、これから起こる嫌なイベントを乗り越えるための

現実逃避に過ぎなかったのだろう。


彼女は彼女なりに不穏な空気を感じ取っていたのかもしれない。


あるいは優秀な彼女のことだから僕を慰めるために、()えてあの演技過剰なじゃれあいをしに来た可能性すらあった。


とにかく──。



機神都市エルベラ側の人間、総勢4人。

変身の魔女チルティス。

化身の魔女ベルディッカ。

分身の魔女ユリティース・クラディール。

赤き鎧の領主ジーン。


蒸気都市ラグネロ側の人間、総勢5人。

紋章を継ぐ者ジョウ・ジスガルド。

傀儡の母ジェノバ。

教育係カーズ。

召喚兵器ミコト。



そして──鬼軍曹ルドルフ・イージューライダー。





「では――これよりラグネロとエルベラの今後について

本気のホンネで語り合うという所なんだけど──


へへ、まずはお集まりの皆様に感謝を申し上るっスよ。

よくぞこのテーブルに着いてくれました。


我々も卓を挟んで顔をつき合わせて、まともに外交するのは久しぶりです。

なにせ我々蒸気都市ラグネロの外交術ときたら、相手の喉元に刃を押し当てることから始まるんスからねぇ。


ああ御心配なく。そんな慌てて席を立たないで欲しいッス、魔女の長女さん。

今回に限っては我々は最大限ことを荒立てず、穏便に、友好的に対処するつもりッスよ。

オイラはむしろエルベラ側の人間に敬意すら覚えているッス。

よくラグネロを前にして逃げなかったな、とね。


《1に降参2に譲歩、3、4がなくて5に妥協》と恐れられるほどの、

超逃げ腰外交でのらりくらりやってきた、

臆病者の機神都市エルベラにしては、上等ッスからねぇ──ねぇジーンさん?


へへへ。


さて、この面子(メンツ)の中にはオイラの事を知らない人もいるみたいだし、

ジョウ君、前夜にあった出来事を説明してあげて欲しいッス」



こどものような奇妙な口調で、

しかし断ることを許さない強制力を(ともな)いながら、

話す鬼軍曹殿だった。



「…ええ…判っています、軍曹殿」


僕は敬語で答える。

まるで昨日のことなんて忘れてしまったかのように、

平然と話しかけてくる鬼軍曹殿に、

戦慄を覚えながら。



前夜にあった出来事。


あの日──


トーナメントに優勝して、表彰式を辞退して、

後夜祭(フィナーレ)にも参加せず、ボロボロの体をひきずって、

領主館《エンガッツィオ司令塔》に帰還した僕たちが、体験した出来事。



いま思い返しても鮮明だ。たとえどんな些事(さじ)であっても忘れられるはずがない。

僕の運命の日──だったのだから。


長い長い夜の出来事について、僕は回想を始めた。

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