「蹴散らせ!お宝ハンター」その16
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場所は劇場から市街地への帰り道、
月明かりがふんわり落ちてくるような畑の畝のあいだ。
濃紺の夏の夜空に古い星座が瞬いて、なまぬるい風が、
畑の青々しい香りを運んでいた。
土は潤み、泥は心地よい感触とともに靴を汚した。
紋章を継ぐ者ジョウ・ジスガルド。
【変身】の魔女ジュレール・チルティス。
【化身】の魔女ジュレール・ベルディッカ。
召喚兵器ミコト・サモンナイト。
黄金の尾の狩人フリアグネ。
僕たちは並んで歩く。
遠く背後にある劇場ではまだサーカスの後夜祭が行われていて、
音楽と歓声が聞こえてくる。歌って踊れるアイドル魔女、ユリティースとクラディールによるバンド演奏だろう。
まったく派手好きな連中だ…。
「うふふ、フィナーレまで見ていかないんですか?」
僕の肩を支える花嫁衣裳のチルティスが言う。
「そうだよー、ユリお姉ちゃんとクラ姉ちゃん、
『司会失格の汚名挽回だ!』『解説失格の名誉返上だぜっ!』
って凄く張り切ってたのにー」
とこれはベルディッカ。
突っ込む気力もない。疲れている。
「…ふん、冗談じゃないぜ。さっさと帰って怪我を治す。
あんな連戦はもう懲り懲りだ」
僕は夏の夜の夢みたいに過ぎ去っていった試合を思い返す。
特別試合が終わったあとの決勝戦、僕はAブロックの覇者として、
Bブロックの優勝者と戦わなければならなかった。
――いままで地味に説明してこなかったBブロック!
存在していたのかよBブロック!
一体どうするんだ、四天王はもう倒しちゃったぞ、紙面もないぞ、
今更ながら新キャラ登場か!?
──と危ぶまれたが。
果たして、そのBブロックの優勝者こそが──狩人フリアグネだったのだ。
Aブロックが正統なゴーレム使いの部であるのに対し。
実はBブロックは非ゴーレム使いの部。
純粋なアイテム使いの為の、裏トーナメント。
出場権すらない者達の為の──敗者復活戦。
そういう振り分けになっていた。
会場は《ガスパール古戦場跡》。
誰も観客のいない寂しい場所で行われていた、もうひとつの戦いに、
フリアグネは既に勝利していたのだった。
登場時に【ふぅーーん…こっちにはこんなに観客がいるんだ】と
呟いていたのはその伏線だったのである!
……。うん、まぁ、我ながら少々強引な伏線ではある。
およそ放送コードとかルールといったものを遵守する気の無いあの変態が、僕達を守るために正統な手続きを踏んで孤独な戦いを勝ち抜いてゆき、絶体絶命のピンチに颯爽と駆けつけ、しかもその傷や疲労を秘密にしたまま戦うなんて格好いい事するはずがない。
そんな【ここは僕にまかせて先に行け!】みたいな態度は、
あいつには最も似合わないものだ。
どうせまたエルベラの正式な後継者の座を狙って僕と戦うつもりに違いない。
油断ならない変態め!
──と。
僕は必死でそう思おうとしたけれど。
自分に言い聞かせたりしたけれど。
しかし、Bブロックの優勝者たる狩人が、
【良かった、これでジョウちゃんを助けることが出来た…
じゃあ僕は棄権するね】
といって、あっさりと背中を見せ、ひらりと尾を翻し、
とても格好よくリングを降りたその姿を見て…。
【優勝おめでとう】と言い残したその子供のような無邪気な笑顔を見て。
なんだか…なんと言うか、
ますますこの男を理解することができなくなった──
という…まぁ、それだけの話だ。
ふん。
回想シーン終わり。
狩人は今僕たちより3歩先、月が照らす道を歩いて、
尾をふりふりと機嫌よさげに振っている。
あいかわらず真意は読めない。
(こいつ、もしかして本当にただ僕達を助けにきたのか…?)
噂の後始末をつけに。
機神都市に殺到したハゲタカのようなお宝ハンター達を一掃するために。
歪みきっている癖に、全ての命を愛する事のできる博愛主義者。
良いも悪いもごちゃまぜな愛の狩人。
もしこの尾の持ち主とかいう神様がいたとして──
そいつはたぶん、この変態の上位互換のような存在なんだろう。
似たもの同士とも言えるだろうか。いや、それはないか…。
「でもさでもさ、ゴーレム機操術士トーナメント、面白かったねー!」
「ええ、わたくしの機界ユニットもおおいに活躍できましたしね」
「敵も凄かったですよー!
もう、ミサイルがどーんと襲って来た時はどうなることかと思いました」
周りにほとんど人がいないのを良いことに、わいわいと騒ぐ魔女たち。
身振り手振りも交えての熱狂的な感想戦だ。
まったく、見るほうは楽だが演るほうは大変なんだぞ──と、そうだ。
「フリアグネ、そういえば貴様、
あの《ブレーメン》の連携攻撃をどうやって消し去ったんだ?」
大事なことだ、聞いておかなきゃな。
今回の大ネタと、そして──狩人の手に入れた新しいアイテムについての情報。
肩に炎を纏い、純白のタキシードを装備し直した狩人は、
夜風にまだら模様の髪をなびかせながら振り返り。
うふ、それじゃあ種明かしをしてあげようか──と、
解決編にさしかかった探偵のように語りはじめた。




