「蹴散らせ!お宝ハンター」その15
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鶏と猫と犬と驢馬。
劇場のリングには、塔のように聳え立つ4体のゴーレムがいた。
それに対するは首輪をかけられた狐。
誰が見てもピンチなのはフリアグネの方──しかし!
大胆不敵に格好よく、心底楽しそうにくすくすと笑っているのもまた、
フリアグネの方なのだった!
ごくり、と喉が鳴って、僕は初めてそれが自分の唾を飲む音だということに気付いた。今まで遠ざかっていた劇場全体の喧騒が戻ってきて、熱気をひりひりと皮膚で感じる。
(ふん…この変態ストーカーめ…
最初に会った時からずっと得体の知れない奴だったが、
今のコイツは、何というか…
さらに“凄み”が増していやがるぜ)
真っ赤に輝く戦装束に身を包んだ狩人。
タキシードを脱ぎ捨ててまで装備しているその仮装は、今のいままで
ケンタウロスに蹂躙されていたにも関わらず、
破れも、解れも、汚れもしていなかった。
天衣が無縫であるように、ただただ美しい着物。
装束の背中のあわせ目からは、黄金の尾が伸びて空中で遊んでいる。
敵からの攻撃であるワイヤー付き首輪を、まるでアクセサリーだとでも言うように意にも介さず。
金髪と、左右で色の違う魔眼を──その内に《嫉妬の炎》を揺らめかせて──
(外見だけなら)彫刻がごとく整ったフリアグネは、天に聳える塔を舐めるように見上げ、笑う。
【あーあ、君達の責めは物足りないなぁ──
こんなんじゃ観客も僕も満足しないよ、驢馬くん】
《な、なにおー!マゾ野郎め!なにがサディストだ、
《シルヴィア》こそ真の女王様だって事を教えてやる!》
オルロゾは、狩人の首を拘束しているワイヤーはそのままに、そのケンタウロス型ゴーレムの上半身──女神像の右手首をばくんと折り開き、さらに単分子鞭を取り出した。紡がれた8mほどの鋼線。右手の得物の先端には、首錠ではなく蛇の頭部のような三角形。電撃を放つ仕組みだろう。
馬手に血刀、弓手に手綱の喩え通り。
目に残酷な光を宿す遊牧民は、首輪に続いて電気鞭を、
次なる責め具として選んだらしい。
しかし狩人は平然としたものだった。
【うふふっ!鞭もいいねぇ!でも悪いけど――真の御主人様は僕さ】
《…っ》
オルロゾが息を呑んだ瞬間──
《ああ、我が支離滅裂の韋駄天よ──恐れる事はありません!!》
突如として響いた声に、オルロゾははっと己が背負う塔の頂上を見上げた。
鶏の魔獣が、福音のような言葉を降らせている。
ちっ。厄介なやつめ。
僕は歯噛みした。同じ指揮官だから奴の有能さがわかる。
せっかく乱れた統制を即座に立て直しにかかりやがった。
なかなかやるじゃないか──詩人──4人のゴーレム使いの長――
──戦劇帝都カブラックス!
《我らは合体したのです。貴方ひとりで先走らずに、
力を合せて戦おうではありませんか!》
《リーダー…!そうだね、ボク達はチームだもんね》
よく考えると一人の敵に多勢で襲い掛かって殺そうと言ってるだけなのに、
さすがリーダー!
良い台詞みたいに聞こえるなぁ!と。
オルロゾは指揮官からの声に元気よく答えた。
《さぁ!それじゃ皆さん参りますよ!》
ゴーレムの塔がひしめく。
驢馬が、犬が、猫が、鶏が──皆一斉に吼えたのだ!
びりびりびり!と空気が震える。
《おーらおらおらおらぁ!塔の二段目にして二番手はこの俺様だぜ!
*ブレイドランナー!!!》
僕と第一試合で争ったピアレーの自走する爪による襲撃が、口火を切った。
驢馬の背中から犬が思い切り身を乗り出しその長い爪を伸ばして床を薙ぎ払う。
劇場の床を走る3連の刃!
それが塔とフリアグネの間にある瓦礫をざぐざぐと切り裂きながら螺旋を描きフリアグネへ向かってくる!
【ふーん、芸のない攻撃だね】
当然フリアグネは宙へと跳躍するのだが──
(バカ、それじゃダメだ!)
それは僕が第一試合でやってしまった失敗なのだ──着地を狙われてしまう!
案の定、回避しても爪はまたサメのように獲物の影を追って旋回する。
3連の爪痕はフリアグネを中心に渦を巻き収束し始めた。
しかし焦る僕とは裏腹に、狩人は顔のまえに広げた掌を掲げた。
【[[海の風のトリトン]]!】
跳躍している狩人の体が、急に、
まるで水中にいるかのように緩慢なものになる。
おお、落下速度がゆるい!
どころか、尾をスクリューのように回転させ重力に逆らった方向に推進している! 空中遊泳が可能となった狩人は襲い掛かる爪に捕獲されることなく[[水棲の民]]さながらに劇場の空を泳いでいる。
これはフリアグネが登場した際、
劇場の天窓から無傷で着地したときのあの効果か!
髪も揺らめき、狩人の唇からもときおり泡が吐き出される。
しかし呼吸は出来ているようだ。
狩人の指に嵌っているイルカ型の指輪が《海の風のトリトン》なのだろう。
──さすがはお宝ハンター、やるじゃないか!
【うふふ、そんな可愛い顔して喜ぶなよジョウちゃん。
胸がどきどきしてしまうよ】
あいかわらず腹が立つほど気持ち悪い奴だったが。
──が、しかし!
《へっ、油断したな狐野郎ォ!言ったろ、ボクらはチームだって!》
遊泳しているフリアグネの、その首に嵌ったままの首錠がぐいと引っ張られる。
空中でがくんとバランスを崩す狩人!
そこに、水中現象を切り裂きながら果てしなく長い電気鞭が襲い掛かり、
その体をがんじがらめに(なぜか亀甲縛りに)拘束した。
もちろん鞭を握るのは拘束のプロ、《九尾狩り鎌》オルロゾの機体だ!
【…あらら?】
《喰らえっ!》
電撃が炸裂する!
爆発音がして戦装束のあちこちから一気に黒煙があがった。
【お、お、お、おおう…これは…なかなか効くねっ…!】
狩人が(こころなしか嬉しそうに)うめく! あの踏みつけ攻撃を防御したときほどにはダメージをカットし切れてない! フリアグネの周辺にだけ顕れている水中現象の所為なのか、さらに電撃が通りやすくなっている様だ。
くそっ、こいつら、リーダーに檄を飛ばされてから本格的に集団戦をし始めやがった!
そして──
《や、やったねオルロゾちゃん…そのままそいつを離さないで…
後は三番手ミューミューにまかせて!》
突如、塔の三段目、千川の渡り手ミューミュー操るスフィンクス型ゴーレムが、
その体を濡れた猫のようにぶるぶると振るわせた。
臆病な乗り手が恐怖で震えているのかと思いきや──そうではない!
振動とともに肩口が二の腕が鼻先が額が頬が──
全身が余すところ無く扉のように“開門”し!
しゃきんと音を立てて開いたシャッターのその奥には、
奇妙な紋章入りのミサイルの弾頭が、その凶悪な顔を覗かせている!
(あ──あれは!)
地階の控え室で見ている僕、ジョウ・ジスガルドはその兵器に見覚えがあった。
僕の故郷、鉄の大陸クレッセンは常に戦争が耐えない紛争地帯で、だからこそ武器・兵器の類は他の大陸よりずっと進化していた。
クレッセンの戦場ではもはや剣や槍や弓などが通用しない。
主流となっているのは人型戦車、ゴーレムである。
特に一世を風靡したのは、第3世代のゴーレムに搭載された、空中で樹形図のごとく枝分かれしながら大増殖する多段ミサイル!
一発の親ミサイルは300発の子ミサイルに分かれ、
さらに1200発の孫ミサイルになる!
今まさに、同時に発射された168発の親ミサイルが空中で
クラッカーのごとく炸裂し、蜘蛛の巣のごとく広がり、極彩色の煙を棚引かせて獲物に襲い掛かるところだった──!
そして──そして、さらに!
やっちまえっ!》
《リィィィィィダァアアアアアアアアアッ!! 4連携だにゃぁ!》
格好よく決めておくれよっ》
《い い で す と も !!》
詩人の朗々とした詠唱が響く!
《──眼・耳・鼻・舌・身・意の六根!
──好・悪・平の三神!
──浄・染の二性!
そして現在と過去と未来の三種をかけて108──!》
ゴーレム機操術士四天王のリーダー、戦劇帝都カブラックスが連携のラストを飾ろうとしていた。
この詠唱!
[[どれにもあてはまらない魔術]]のひとつ、108の光弾を放つ呪文!
物量攻撃にさらに物量攻撃を重ねあわせようというのか──!
まずい、容赦がなさすぎる!
塔の頂点に立つ鶏の魔獣の周囲に、みるみる内に光弾が生まれ、それが渦巻いて…
《煩悩の犬は追えども去らず、されど煩悩あれこそ菩提あり!
こころの波は動く球となりいざや色魔を調伏せん!
喰らいなさい!
*[[百八式波動球]]!!》
叫びを合図に、急流を下る鉄砲水のようにリング全体に降り注いだ。
天には無限に枝分かれする多段ミサイル!
地には獲物を求めて疾駆する爪跡!
人には(つまりフリアグネの体には)絡みつく電撃の単分子鞭!
それらすべてを包むように、詩人の歌から生まれた108の光弾が空間を埋めつくして──観客の網膜を焼き──!
「ふ…フリアグネェーーーーーッ!!!!!」
思わず怒鳴った僕に対して、しかし狩人はあくまでも余裕だった。
【108?──甘い甘い、僕の煩悩は1080個まであるぞ】
何処かで聞いたような台詞を吐きながら狩人は。
閃光に塗りつぶされて逆光で影しか見えない狩人は。
鞭で縛られながらにやにやと、変態めいた恍惚の笑みを浮かべる狩人は──!
ゆるやかに尾を持ち上げ──そして一振りした。
【タネもっ、仕掛けもっ、ごっざいっま──せんっ!】
*ぴきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん!!!!
その後に起こった事を、僕はうまく描写することができない。
ただ──
光って。
眩しくて。
思わず目を閉じて。
次に目を開けたとき、《ブレーメン》の放った全ての攻撃は、神隠しにでもあったかのように消失していた…としか言いようが無い。
(な…)
《なんだってぇーーーー!?》
『なんじゃこりゃーーーー』『ーーーーゲホゲホッ ぁあーーーーーーっ!?』
*おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!???
僕と《ブレーメン》と観客と司会と解説(っていうかまだ居たのかよ)が、
同時に叫ぶ。
いずれも困惑に満ちた声だ。無理もない。
このゴーレム機操術士トーナメント…いままでだって結構な見世物はあった。
珍しい機体、兵装、戦術、魔術、あらゆるものが百花繚乱に咲き乱れ。
ハンデ戦も残虐シーンも逆転劇も、あらゆる要素が詰め込まれ。
機界ユニットを操る天才少年パイロットやら(僕だ)、機神エルベラ市街戦モードやら、合体ロボやら、いきなり飛び入りで参戦してきた変態やら、それこそどんな旅芸人にも負けない一大奇術ショウさながらの興行が行われてきたことは間違いない。
しかし…ここにきてこんな大掛かりな消失トリックを目の当たりにするとは、一体誰が予想できただろう?
そして、夢か幻かいまだに定かじゃないこの現象に、皆があっけに取られている間に──
【縛ったくらいで征服した気になるなよ…忘れたか?僕は変態なんだぜ】
塔のゴーレムの背後で、いつの間にか拘束から脱出したフリアグネが、
(懐かしき"縄抜け"の特技――!)
“尾”を再度持ち上げていた。
《うあっ…!?》
【手本を見せてあげよう――――“攻め”というのはこうやるんだ!】
“尾”によって、ただ一撃。
しかし、神の鉄槌のような、稲妻のような、隕石の衝突のような、
ジュレール山脈が根こそぎなくなりかねない超出力の黄金色の一撃を喰らって、
――塔のゴーレムは完膚なきまでに爆砕したのだった。
高く聳えた塔は中ほどから折れ、自壊し、地面に崩れ落ちると同時に
大爆発を起こした。
いやもう本当に、『ちゅどーん!』みたいなベタな効果音を発して、
あまつさえキノコ雲まで昇らせて、悪役たちのリーサルウェポンは崩れ去った。
砂塵と熱風、そして4体のゴーレムの破片(歯車やワイヤーやオイル)が雨のように観客席に降り注ぐ。魔女たちが魔術でそれをリフレクトしたので被害はなかった模様。
ただ、パンツを残してぼろぼろに焼け焦げた4人のお宝ハンターたちが破片ごと観客席からリングへと弾き返されていたのが哀れではあった。
僕はといえば…劇場に満ちる砂煙にかるく咳き込みながら、ぽかんと間抜けに口を開けていた。圧倒されていたのである。
「い…一撃…だと…」
【うふふ、どうだいジョウちゃん。ジャスト180秒だったよ?】
にぱっ!とこちらを振り向いて、傑作の笑顔。
僕は言葉も無い。
狩人のその台詞が、僕が試合開始前に言った
『折角合体してもらった所だが、180秒でバラバラに崩してやるぜ!』
という大口叩きに対する発言だという事に、しばらく気付けないほどに。
──特別試合 勝者 狩人フリアグネ。




