「蹴散らせ!お宝ハンター」その8
「お兄ちゃん、動かないでねっ…!」
控え室にもどるとベルディッカは口早に呪文を唱えて釘バットにして魔法剣を構えた。
「《プラスの女神に我は代わり、虚構に満ちたマイナスの海を消し去り、埋め立て、天地を創造する──実行──完了》」
青魔術の初歩、[[傷の治療]]だ。
僕の唱える鉄魔術とは味わいが異なる、理知的で数学的な詠唱でわかる。
ほぉ…こいつ、己の魔法だけでなく、各色の魔術もそれなりに使いこなせるのか。
魔王の末裔ってのは伊達じゃないな。
唱えた呪文は、直接僕にかかるのではなく、ベルディッカが構えた鈍器に松明のように青い炎となって灯った。
「そのまま掛けたんじゃ効果が足りないから…存在の核めがけて叩き込むよ!」
「ああ、頼む」
「ジョウの足は私がくっつけたまま押さえていてあげますわ」
平然とやり取りする僕ら。
「えっ──ちょ、ちょっと待ってベルちゃんっ!?
そのやり方、ジョージ様はとっても痛いんじゃあ…っ?」
チルティスだけがおろおろしてた。
気にしなくていいぞ、と僕は妹に目配せする。彼女も頷く。
「えい!」
ごきんっ!
ひゃううっ!とチルティスが悲鳴をあげる。うるさいな、当事者の僕より痛がってどうする。
とはいえ、僕のほうも洒落にならないくらい痛くはあった。
ミコトが支えているちぎれた足と、右足の断面、それらを叩き潰して接着するように青い炎を纏ったエスカリボルグは傷口を釘まみれの表面でえぐっていた。衝撃とマナが芯まで伝わる──。
「……」
「だ、大丈夫ですかっ!?いたくないですか?さすりましょうか?」
痛いから黙ってるんだろうが…。
僕はうるさそうに手でチルティスを追い払って、魔術が浸透しきった右足を観察する。しゅわしゅわと煙があがり──骨同士が急速に互いに組織を絡ませあい、修復する。まわりの肉も盛り上がって骨を覆い、しだいに血管も繋がる。
どくん。
体温が通ってきた。
「…ふん…どうやら、成功したようだぜ。助かったぞ、ベルディッカ」
しゅるしゅると僕の右足に魔術文字が刻まれた包帯を巻きながら、優秀な妹は可愛らしく照れ笑いをうかべた。
「お、お兄ちゃんにお礼言われると照れちゃうよー」
「普段めったに人を褒めませんからね、この男は」
おいミコト、そりゃどういう意味だ。
「あら?ジョウ、そういえばわたくしにも礼を言うのを忘れてるんじゃありませんこと?第一試合の勝利は8割方わたくしのペイルのおかげですのに」
漆黒のドレスに身を包んだ召喚兵器の少女ミコトが、ここぞとばかりに薄い胸をはって大威張りしていた。
口元に揃えた指先を添えて、いまにも高笑いしそうな嬉しそうな表情である。
こいつ、こんな顔もするのか…憎ったらしー!
「あらあら?お礼は?感謝は?ありがとうミコトさま、は?」
つんつん。肘で僕をつっつく。僕は乱暴に肘で突き返した。
きゃあっ、なんですの、このやばんじん!とか何とか騒ぐミコトの抗議を華麗にスルーして、僕は次の試合に臨む。
「さぁ足も治ったことだ、僕はいくぜ。次の敵にも楽勝してくるから待ってな」
「ふんっ、よく言いますこと!」
「ジョージ様、チルティスは応援してますからねー!」
「お兄ちゃん、怪我や武器の修理はわたしにまかせてね。
──じゃあ、いってらっしゃい!」
頼もしい僕の嫁と、妹と、相棒がそれぞれの言葉で送り出してくれる。
ミコトは器械ユニットを貸与してくれるスポンサー。
ベルディッカは戦術面を補完してくれるセコンドといった所か。
チルティスは……まぁ、応援だな。うん。




