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機神エルベラ  作者: 楽音寺
第四章 蹴散らせ!お宝ハンター
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「蹴散らせ!お宝ハンター」その7

-7-



(いな)


蹂躙されたのはマントだけだ!


僕のマントだけが爪に引き裂かれ、宙を舞い、肝心の僕自身は奇術のように消え去っている!


《なっ…!?》

爪を構えたゴーレムが急停止。彼の周囲に展開された猛獣の爪痕たちも獲物を見失ってぐるぐると(むな)しく旋回していた。


『あ…


あ、あ、あーーーんびりーばぼーーーーーっ!?

可笑(おか)しいです、妙です、奇妙ですっ!


劇場にお越しの皆様っご覧になられたでしょうかっ!?きっ、消えました!消失いたしましたっ!

いま確かに爪に追い詰められ、敗北せんとしていたジョウ選手が、まさに風前の灯火ともしびといったこの街の英雄が──

なななんとっ、ほんとうに灯火のように音もなく消え去ってしまいましたぁーーーっ!?

あとに残ったのはマントだけ!何らかの方法で回避したのでしょうか!?それともわたしの眼が可笑しいのか!?なぁぞっ!』


《馬鹿なっ、あいつは足が片方吹き飛んでいるんだぞ!?

どこにも逃げられる訳がねぇっ!》


ふん、無様だな。

僕はその様子を──上から目線で、見下していた。


『あーあー、テステス。解説のユリティースだ。おまえらちょっと落ち着け』

ショッキングな展開に驚愕しきりの観客たちに対し、三姉妹の魔女の長女、極道女のユリティースが声を掛ける。


目敏(めざと)い奴は気付いてると思うけど、世の中には目ン玉を家に置き忘れてきたうっかりさんも多いだろうから解説してやるぜ。

いまジョウの野郎がどうやって爪を避けたか?

再現VTRはねーが各自しっかり想像しな。それくらいはてめーらみたいな能無しどもにも出来るだろ』


『こ、こらユリティース、お客様にあまり失礼な口は──むぎゅっ』

『うるせーなてめーは!あたしの指でも舐めてろ!

…悪ぃ、ちょっとした姉妹喧嘩さ』


目を白黒させてる観客たち。ピアレー。魔女は続ける。


『このトーナメント、当ったり前だがゴーレム使いのゴーレム使いによるゴーレム使いのためのイベントだ。

当然選手はみな機械乗りということになる。

だがちょっと待ちな──いままでの戦いを振り返ってみて、この街の英雄…“ジョウ・ジスガルドが何かに乗っていた場面”を見た奴はいるか?』


はっ…と息を呑む音。

《そ…そういえば…》


『あいつは生身でも平気でゴーレムに挑みかかるからあまり違和感が無かったかもしれねーな。

だが、普通は12歳の少年とゴーレムの戦いなんて成立するわけねーんだよ。

ましてや生身なんてありえねぇ。

みんなそこを忘れてたんだよ──だからこの現象に驚く──


ヘッ、あいつはただ規則(ルール)に乗っ取って己の機体を使用したに過ぎねぇのにさ!』



勝気に、ハイテンションに、そう叫んで──劇場の特別席、天井に近い所で解説していたふたりの魔女が、さっと立ち上がって指をさす。


観客が視線を誘導されたその先に──肩に竜型の器械(きかい)ユニットを(たずさ)え、翼を広げて浮遊している僕の姿があった。


わああああっ!

湧き上がる歓声。飛び交う菓子やジュース。オーディエンスは総立ちだ。


ふふん、こうもおおげさに反応されると嬉しいものがあるな。


マントを失ってむきだしになった僕の肩には、ミコトから貸与(たいよ)された彼女の召喚獣──

魔獣にして機械、機械にして魔獣、

その名も器械ユニットというタイプの生物が寄生していた。


名はペイリュシュトン。

腕はあるが足がない、全身を薄い青色の鱗が覆う竜。

このスタイルだと全長1m、翼を広げた状態だと最大4m。

背中に二枚腹に二枚の四枚羽根を持ち、腹側の二枚の翼を僕の腹に巻き付けて固定している。

さらにかぎ爪で肩をがっちりと掴んで──360度の自由立体駆動──“飛行”を可能にしていた。



『やっとゴーレム使い同士のバトルトーナメントらしくなってきやがったな!

さぁ行けジョウ!

噛ませ犬と本物のドラゴン、その格の違いってやつを思い知らせてやんな!』


「了解だ、“お姉ちゃん”」

《さっ…させるかよぉぉぉっ!》


三度(みたび)ピアレーは三連爪を放ち、リングの床一面に幾筋(いくすじ)もの爪痕を自走させるが──


「おい、その技は空中にも届くのか?」

《はっ──しまった──》

「…貴様、すがすがしい程頭が弱いんだな」


まぁシンプルな奴は嫌いじゃないぜ、と僕は言い。

双肩の竜がもつ角──機関銃の筒先を、地を()う獣に向けた。



ペイリュシュトンは雨天時に最高の力を発揮する。

大気中の水分を回収し、氷に変えて機関銃の如く発射する能力があるのだ。



現在この劇場は人いきれで充満し──何度か描写したが、興奮してジュースを投げる阿呆もいる。

灼熱の季節でもあり、水分の少ないこの山岳地帯の街のなかでも、この劇場は例外的に湿度が高かった──。


僕の足から(したた)る血液も。


それを手伝ったかもしれない。


よって。


「さよなら、僕の敵」

《ぐ…ぐあぁぁあああああっ!!!!》



僕がこの後圧勝したのも、当然の摂理(せつり)だった!



──第一試合 勝者 ジョウ・ジスガルド。

──次の試合 VS 千川(せんせん)(わた)()ミューミュー。

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