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機神エルベラ  作者: 楽音寺
第四章 蹴散らせ!お宝ハンター
37/71

「蹴散らせ!お宝ハンター」その4

-4-



★★★

「エルベラの住人への思想侵略は(おおむ)ね上手くいっている。貴様らの方は?」


「街を包む山脈のいくつかに攻略できそうなルートを発見。門兵はいないわ。

地形解析率は現在7割程度ね」


「孤軍要塞はジョウ殿が盗み、領主はジェノバ殿が暗殺するとして、街の通常戦力を壊滅させるのがわしの役目ということになりますな。ミコト殿は…」


「わたくしは祖国と連携し兵站・補給・武器の輸送ラインを引率しておりますわ。ちゃくちゃくと到着中です。あと3日も要りません」


「ふむ、いいだろう。いつでもエルベラの喉笛に噛み付けるよう心を冷たく研いでおけ。僕たち軍人は──殺すのが仕事なのだからな」


「了解」

「了解」

「…りょーかい」(…ジョウ、まるで自分に言い聞かせてるみたいですわよ?)

★★★




『ジーザス・クライスト・トリックスター』というやたら長い名前のその劇場は、大きな白い貝殻を伏せたような建築物だった。



穏やかな風の吹く農地に、黄金色の穂とあざやかな緑色をした茎が、うねり、(そよ)ぎ、海原のような豊かさを(たた)えている。遠くに山並み。その真上に太陽がある。看板には矢印と今宵の演目の(うた)い文句。農地にはほそい(うね)があって、ずっと奥の街道から続いているその道を、劇場へ向かう人々が賑やかに練り歩いている。

手を繋いだ家族連れ。仕事を終えた農夫。犬を引いた少女。

みなこれから始まる旅芸人のサーカスへの期待に胸を躍らせているようだ。


青空に数発、花火が上がった。

畝を歩く人々がわっと喜ぶ。どこかで笛の音がする。


その牧歌的な風景だけで、既に一幅(ひとはば)風景画(タブロゥ)のように完成されていてて、僕はまぶしさに眼を細める。


「いいところだな」

「ええ、エルベラの西側もなかなか綺麗でしょう?」


エルベラの地図を蝶に例えたとして、主に街の施設や商店街は右羽根部(東側)に集中しているから、西側は地味な農地ばかりが続くのだと思っていた。

こんな風に農作物に埋もれるようにして巨大な劇場があるなんて結構珍しいんじゃないかな。



「はいお兄ちゃん、チケットだよっ」

ベルディッカがぴょこんと僕の横に顔をだし小さな切符を渡す。


「ちぃ姉ちゃんもミコトさんも、はいっ。

失くしちゃだめだよ、席に座れなくなっちゃうから。

あと飲み物も買わなきゃ…」


てきぱきと動く優秀な妹。よしよし、便利なやつ。

それに常識的だ。その背中に担いでいる釘まみれの凶器を覗けば。



そう、謎の釘バット。

ベルディッカは胸までしかないチューブトップ、へそ、太ももむきだしのホットパンツという軽装な13才の女の子なのだが、武装をするときは容赦なく凶悪な武器を身に纏う、というポリシーの持ち主らしいのだ。


防具は着ない。武器職人の誇りにかけて、あくまで武器しか所持しない。


その結果、よくまぁ身体を傷つけないものだと他人事ながら感心してしまうようなファッションになってしまうのだった。


今日のベルディッカは金棒のようなそれを荒縄で結って背中に担いでいた。

領主の生まれ故郷のオニという妖怪を女の子の姿に擬人化したみたいな格好だ。

髪の色からいって赤鬼とか青鬼ではなくピンク鬼か。

(そんなのいるか知らないが)。

虎じまパンツを履いている可能性すらあった。


「なぁ…それ、なんなんだ?いい加減見なかったことにするのも限界なんだが」

「あ、これ?へへー、これはねっ、魔法剣エスカリボルグちゃんだよ!」

「ちゃんて」

女の子かい。


「まぁいいけど、なんでよりによってそんな凶器を持ってきたんだよ」

「この子をジョウお兄ちゃんのサーベルくんに会わせてあげようと思ったの。

はい、こんにちはして?」


そう言うとベルディッカはくるりと振り向き僕に

(正確には鞘に納まったサーベルに)お尻を突き出すようにしてぴこぴこと振る。

背中の金棒が重そうに揺れる。


「……」

僕もしょうがなく腰のサーベルをかしゃりと鞘ごと抜いて前に掲げる。

こんな感じでいいのか…?


「よかった、話が弾んでる。ボルグちゃんとサーベルくんは相性がいいみたい」

「そうなのか?っていうか、武器の声がわかるの?」

「うんっ。《臓物》とか《血》って単語ばかりでちょっと怖いけどね」

「おい!? 僕の剣はいったいどんな性格なんだよ」

「わからないけど、でも初対面のボルグちゃんを熱烈にナンパしてるよ」

「《臓物》って単語を使ってナンパ!? 僕の剣、はかりしれねぇー!」


気付くと困った様子のチルティスの背中にミコトが顔を押し付けて震えていた。

真っ赤だ。どこが(ツボ)(はま)ったのか。笑いを我慢しているみたいだ。


「…っ、ぞ、ぞうもつ…」


そこかよ。




僕らはそんな四方山(よもやま)話をしながら4人並んで歩く。

──もうすぐ劇場前広場である。

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