「蹴散らせ!お宝ハンター」その1
《機神エルベラ》シリーズ
第四章
蹴散らせ!お宝ハンター・その1
★★★
歌鳥の如く美声な誰かが言う。
「ふっ…ピアレーが死にましたか。
しかし彼は我々ゴーレム機操術士四天王で最弱のザコ──」
駄犬の如く乱暴な誰かが言う。
「ちょ、俺まだ死んでねぇし!つか戦ってもねぇし!」
迷猫の如く弱気な誰かが言う。
「ててて敵さんすっごく強そうだよう…!
ややややだよう…にげにげ逃げたいよう…!」
驢馬の如く愉快な誰かが言う。
「ビビんなって!機操術士が4人もいるんだ、
誰か一人くらい奴に勝てるさっ(ボクとかね)」
★★★
-1-
この僕、ジョウ・ジスガルド二等指揮官(この自己紹介も何度目だろうか)が、
機神都市エルベラを訪れてから多少の月日が経過した。
具体的には、街を襲った魔獣を撃退した勇者として
しばらく領主館に逗留するようになって、15日ほど。
思ったよりも忙しいらしい老領主ジーンは、街の問題修復や(あるいはその魔術文字によって物理的に民家等の破壊痕・老朽化を修復することも多かった)市民からの相談事請負、食料自給率や経済の調整、法整備、裁判、治水、森林保護、魔女たちのスケジュール管理、他国との貿易・交渉…と息つく暇もない様子だった。
殺人的な労働量だったが、
毎朝僕とチルティスにエルベラについての講義をしてくれたりして、
そこは流石領主といったところか。
面倒見がいい。
今日も猫の足跡がスタンプされた水色パジャマとナイトキャップ姿で
(だから何で寝起きのこいつは萌えキャラみたいな格好なんだよ)
眠そうな目をこすりながら解説を続けるガタイのいい老軍神、ジーン。
「あ~…それでじゃな、エルベラはこの街周辺に息づく魂によって
スキルや機敏さ、統率力などの《ソフトウェア》を決定し…。
同じように、この街周辺の地形や重要拠点…
街角の巨人像だったり古戦場だったり、機物によって
《ハードウェア》を形成する事ができるんじゃ」
「《ハード》…?つまり、エルベラというゴーレムの機体構成を、僕が改造することが出来るのか?」
問うと、ジーンは急に眼をきらきらさせて早口で喋り出した。
「そうじゃよ!よくぞ聞いてくれた。
婿殿が最初に乗ったときはいわば“基本設計”の状態でな。
上半身の殆どを耐衝撃防御力の高い《ネオ・ヌル山脈系》で覆い、
内部に収めた市街地部分をプロテクトしておるんじゃ。
特に両拳に《神の球戯場》と呼ばれる遺跡…
これは古代巨岩信仰民族が残した超重量の鋼球群じゃな、
それを魔術的に機能するよう埋め込み、拳を鈍器化!
また、背骨にはジュレール大渓谷の竜に似たつづら折の道を採用し、
脅威の柔軟性とバネを実現しておる!
わし的に渋いと思う配置は鎖骨部のラジエーターたる滝で…」
うわっ…面倒くさいテンション…。
「OKジーン,それ長くなりそうだから明日にしてくれ。
貴様も眠いだろうからさっさとベッドへ行けよ」
んが、とジーンは口を開けたあと、
まったく何と言う傍若無人なお子様じゃ!王様か!?
とぷりぷり怒りながら退場していった。
すまん。おやすみ。ご苦労であった。
僕とチルティスの生活はおおむね上手くいっていた。
食の好みは近く、ふたりとも朝食からがっつりいくタイプ。
好き嫌いなし、鯨飲馬食。
ちょくちょくシーナの店にも顔を出すが基本的に交代で毎食作った。
チルティスが門番の務めを果たしにいく時は僕が弁当を作ってやることもある。
中身は…まぁもちろんトカゲや泥水ではない。
それなりに評判は良かった。熊さん型のハンバーグが特に。
買い物に行くときは揉めた。
雑貨屋で「ジョージ様、この服どうですかっ?」と聞かれて
「防御力が低そう」と答えて怒られたりした。
いちいち感想を求めたり時間をかけて悩む女の買い物にうんざりして、
最近は買い物にはミコトを連れて行くことにしている。
人柱だ。
無理に話をあわせるより、話が合う奴に適当に相手をさせておいておくに限る。
やれやれ、自分の趣味にばかりのめり込んで周囲が見えない奴って困るよなぁ。
僕は早く武器屋が見たいのに。
「なぁ見ろよチルティス!このダガー、湾曲してるから敵の首を
一動作で掻っ切れるんだ!ほれぼれするぜ!」
「……へ、へー、そうなんですか?」
「うわぁ機械弓の試射場がある!
珍しいな、一回やってきていいか!?」
「…はぁ…どうぞ、お気の済むまで…」
次の日から武器屋へ行く時はなぜかベルディッカが着いて来るようになった。
チルティスが頼んだらしい。? 変な奴だ。
入浴も楽しかった。
領主館には中庭の井戸、1階の大浴場、3階の剣術鍛錬場にある簡易シャワー室
という、3箇所の水場がある。
魔術文字による治水技術が徹底してるんだろう。高山地帯なのにも関わらずお湯もたっぷり使える。僕は(あくまで平和な時には、だが)自分の体が汚れてるのは我慢できない性質なのでありがたい。
チルティスとは既に互いの身体を洗いあった仲なので、
(詳しくは[[響け!ウェディングマーチ]]を読め)
遠慮はあまりない。
一緒に入浴する。
「さぁ僕の頭を洗うがいい。シャンプーを眼にいれるなよ。絶対だぞ」
「はいはいっ、ジョージ様もちゃんとおめめぎゅっとしてて下さいね」
エルベラの民には黒髪の者が少ないらしく(シーナは移民)
チルティスは珍しがって泡立てた僕の髪で角をつくったりリーゼントにしたり。
おい、遊ぶな…。
身体を拭いて着替えて、洗髪の礼にチルティスの長い淡い金髪を梳いてやって、そして夜が来れば就寝する。
寝る部屋は別だ。
チルティスの部屋は魔女にとって特別な《魂の棲家》という結界であり、なんと領主館の地下にある。いちいち蝋燭をもって暗い螺旋階段を下りていくことについて、フードを被ったチルティスは苦笑いして「面倒ですけど仕方ありませんね」と答えた。
その部屋に入ったことはまだ無い。
時計と鏡と魔女の大鍋がある陰気な場所──らしい。
そんな所にひとりで可哀想だな、と僕は思う。
僕の部屋は3階。中庭に面した、爽やかな風が吹く角部屋。
昼となく夜となく、しょっちゅうジェノバが遊びに来るので、
他人に見られないよう注意しなくてはならない。
この悪戯好きな母親が窓の外のツタまみれの外壁から
忍者のように登ってくるのを、一度
庭掃除をしているミコトに見られそうになったが
「あっ!あんな所に格好いい究極無敵万能パイロット少年がいる!」
とあらぬ方を指差して叫び、ミコトがちらっと(興味なさそうに)
そちらを見た刹那、
窓を開けジェノバを蹴り落とすことで目撃されるのを回避。
「あれ?ごめん、窓に映った僕の姿だったよ」と誤魔化したことがある。
あの時のミコトの病人を診るような眼が忘れられない。
──まぁ、そんなわけだから、
僕とチルティスはまだ寝床を共にしたことは無い。
したところでなんだという話でもあるが。
ジョウ・ジスガルド。忘れがちだが、第二次性徴もまだ来ない12歳である。




