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機神エルベラ  作者: 楽音寺
第二章 戦え!機神エルベラ
21/71

「戦え!機神エルベラ」その9

-9-



★★★


有体(ありてい)に言えば、魔術文字パネルはこの街の地図なのだ。

エルベラの地形と一致する。

ここに侵攻する前に何度も確認したはずのこの蝶の形に思い至らないなんて、

はっ、僕もどうかしてたな。


そしてそれに思い至れば、各兵装の起動キーが町の重要拠点のイニシャルだって

ことにもすぐに気付く。

文字や綴りはアールヴ大陸でポピュラーに使われている民族文字のアレンジだった。


風の大陸アールヴ、

その大陸をおおきく横切るようにして存在するジュレール大渓谷。

その渓谷周辺の地形と、秘境《機神都市エルベラ》をまるごと組み替えて、

この巨大なゴーレムは構成(でき)きているのだ。


例えば右腕は街の中心地《旅のラゴス通り》を媒介にしている。

商店街や住宅地が、魔術で空間的に保護され、強化された状態で

エルベラの前腕部を担っている。

『旅のラゴス通り《Traveler the lagos》』の『τ』だ。


魔術文字パネル…地図を参照すると、やはり旅のラゴス通りの位置に『τ』が

あり、それは右腕を飛ばす兵装だった。



では、エルベラの秘剣【エンターキー】に該当するポイントは何処だろう?


機神エルベラは、その額にらせんの尖塔のかたちをした領主館、

《エンガッツィオ司令塔》を一角獣の角のように生やしている。

僕がいま居る操縦室(コックピット)


『エンガッツィオ司令塔《Engerzio control tower》』。

イニシャルは『Ε』。


エルベラのE。

エンガッツィオのE。

そして【エンターキー】のE。


捜し求めていた剣は、勝利の鍵は、意外なほど近くにあった──。


★★★



「以上、おおざっぱだけど解説終了っ!」

叫びと共に、目の前に顕現した翡翠(ひすい)色に輝く大振りの幅広い剣を、

コックピットの地面に突き立てる!

溶けたバターにナイフを突き立てたような感触があり

鋼鉄の床に抵抗なく刃先は埋まった。


──キィィィィィィィィイイイイイン──


澄んだ福音が大気に満ち、ふわっと体が浮く。

あふれ出す膨大なマナが反発しあい、剣の周囲に

雪のように光る精霊をたくさん生み出す。

熱い。額の紋章が──柄を握る手が──頬の涙のあとが──


「…っ起きろ…目覚めてくれ!僕は新しい主人だ!」


埋まった刃先から魔方陣が広がる。

緑の光。

真珠の粒が転がるのに似た音。輝き。

見えない神の手がコックピットの床一面に巨大な魔術文字を描き出す。

円と文字と樹形図と絵と…

僕は渦巻く波動に吹き飛ばされそうになりながらも、

(離すものか…!)

さらに深く剣を両手で握り締め、突き立てる力を強めた。


「いままでうまく操縦(つか)ってやれなくて悪かった!

もうこれからはお前を傷つけたりしない!

だから…っ」


(だから!)


この【エンターキー】は鍵なのだ。もうひとつの起動キーだ!

僕は大きな雄たけびと共に剣を一気にひねった。


「戦え!機神エルベラ!」



*ゥウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!



僕の叫びとエルベラの咆哮がリンクして、一瞬で全システムが復旧し、

同時に僕の意識は外界へと飛び出していった。

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