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機神エルベラ  作者: 楽音寺
第二章 戦え!機神エルベラ
17/71

「戦え!機神エルベラ」その5

-5-


全身鎧をかしゃり、とかすかに(きし)らせて頭を振る。頭痛がひどい。

なんだか長いこと眠っていたような気分だ。3ヶ月くらい。

ええと…僕はいま何をしているんだっけ?


そうだ。この僕、蒸気都市ラグネロから来たスパイ、ジョウ・ジスガルドは、

辛くも三姉妹の魔女の№2チルティスを突破し、エルベラに到達したんだった。

エルベラには魔術文字を操る領主ジーンがいて、僕に「故郷を裏切れ」と言った。

その夜、母ジェノバ、教育係カーズ、召喚兵器ミコトとともに

大陸記念パーティに参加して…


窓に、眼が…

(!! っそうだ!!バハムート!!)


僕はやっとこれまでのあらすじを思い出した。

我に返って目の前のモニタに眼を転ずる。


さらにサイズを増した魔獣が拳を振りかぶって──

まるでパイロットルームで椅子にすわる僕を直接狙っているかのように、

まっすぐにエルベラの岩でできた顔を打ち砕いた!


*めきめきめきめきめきっ!


鼓膜の耐久限界をはるかに超えた轟音が、椅子ごと、いや部屋ごと

カクテルのように揺さぶる。

モニタが力なく光を失いルームに暗幕が下りた。

メインカメラがやられてエネルギー供給を絶たれたのだ。


「くっ!走馬灯なんか見ている場合じゃない!」

僕は毒づき視点を《椅子の上の自分》から《機神エルベラ》に移し変える。


全身に血がいきわたる様な冴え冴えとした感覚とともに

巨人の皮膚感覚が僕に伝わってくる!


そよ風の吹く朧月夜だ。

エルベラは頭部の右半分を殴られたらしい。

ぼろぼろと崩れた損傷箇所は、地滑りを起こした山肌に似ていた。

まるで涙のように巨大な岩が転げ落ち、しばらくして巨人の足元で砂と砕ける。


(ぐ、う──痛…!!)


衝撃で傾いた体を無理やり建て直し、大地を両の足でしっかりと、

突き刺すように踏みしめる。


残った左腕(右はロケット兵器として飛んでいった)で顔を抑えていると

視界に僕を殴った魔獣の影が映った。


冷や汗。

目の前の魔獣をふたたび見上げる。


筋骨隆々な牛の身体。

ねじれた二本の角。

やや前傾で、アンバランスな直立歩行。

黒竜の鱗。

尾も爬虫類の…ドラゴンのそれだ。

筋肉で異様に盛り上がった背中からは突き破るようにして翼が生えている。


姿はなにも変わっていない。

――サイズだけが、この機神エルベラを凌駕するほどに増大している!



「よう…しばらく見ないうちにずいぶん大きくなったな。成長期か?

僕にはまだ来てないから羨ましいぜ」


バハムートは僕の軽口には反応せず、怒りの表情で荒い鼻息を夜空に躍らせていた。

以前は指先でつまむ程度だったバハムートの体長だが、

今は見上げなくては全貌がわからない。

並べば、ちょうどエルベラの額の角が魔獣のみぞおちあたりに来る計算だろう。


…くそっ!こんなむちゃくちゃな進化を遂げるなんて!あんなのと戦うのか!?

考えろ考えろ、僕はどうすればいい!?


魔獣が夜空に向かって咆哮すると同時に、僕は後方へ飛び退った。

大地を激しく蹴ると『ぐぅうううっ』と重心が移動し巨体が宙を舞う。

これだけの質量を持ったものがジャンプするのだから地面はめちゃくちゃになる。

木々が倒れ、地形がえぐられていくが構ってはいられない。

すまないアールヴ大陸!

巨人が地鳴りと土煙のなか着地すると、魔獣とは山脈をはさんで

20歩分くらいの距離で対峙している状態になった。

20歩。敵は牛だ。このサイズではもう翼での飛行はできまい。

ただ闇雲に突進するだけの牛のモンスターだと思えばいい。

やつがどんなに早く突進しても回避できる間合いである。



そのとき死んだモニタから音声だけが僕の耳に届いた。

『ふふ』

ミコトの声だ。


『神話によると、バハムートは神が天地創造の5日目に造りだした存在で

“あらゆる獣を凌ぐ完璧な獣”と言われています。

終末の日には料理されてみんなの食べ物になっちゃうらしいですが…

きっと味も完璧なのでしょうね』


「そ、そんなことはどうでもいい!

ミコト、魔獣を止めろ!エルベラが損傷している!」


『貴方の操縦がヘタだからですわ』

くすくすと笑う音がする。不愉快だ。


僕は怒りをおさえた低い声で、一言一言言い聞かせるように話した。

「おい…これはエルベラの性能を見るための模擬戦闘の筈だ。

テストにしちゃあちょっと敵が強すぎるんじゃないか?

それも、本来ならジーンが操縦してしかるべき所を、

初めて乗るこの僕が操縦してるんだぜ。

いいか召喚兵器ミコト。命令だ。魔獣バハムートを回収しろ!!」


『ヤ、で、す、わ』

僕に対抗してかさらに一言ずつ区切るように言うミコト。

その口調は悪戯な子供のようだ。

こいつ…階級が無いから僕の命令も聞かないのか。


「っ、あのな、ふざけてる場合じゃないんだ。

既に右腕と頭半分を失っているんだぞ」


『別に構いません。ここでエルベラが負けるパターンも

作戦のシナリオには含まれています』


なに?


『わたくしは自ら葬った敵を支配し、30分間だけ生前のままの姿で

召喚する能力を持っています。

この魔獣バハムートもそのようにして手に入れました。

わたしはそうして己のコレクションを増やしているのです。

…さて、ではそれを踏まえて、今ここで貴方が負けたらどうなるでしょう?』


声が弾んでる。実に嬉しそうだ。


『わたくしの召喚獣であるバハムートによってエルベラが破壊された場合、

エルベラはわたしのものになるのです』


(!!!)

僕は息を呑んだ。


僕が負けても──死んでも、作戦は進行するようになっていたか。

捨て駒──なのか。



「くっ…しかし…それは本来の作戦からは外れているルートだろ!

デメリットはいくつもある。

召喚獣となったエルベラに30分の活動限界がつくこと。


情報を引き出す前に強奪してしまえば、ジーンの協力は得られず、

エルベラの性能が解明できなくなること。


貴様(ミコト)に戦力を持たせすぎることで

運用上の不便さや裏切りのリスクが生じること…。


そしてもちろん、エルベラを破壊する過程で(ジョウ)という駒が失われること」


ミコトが小さく笑う。うるさい。

僕の死だってラグネロにとっては痛手だと言って間違いではないだろう。

そう信じたい。


「対してメリットは、作戦が早い段階で成功することだけ。

上層部はあくまで僕がこのままエルベラを操り、

バハムートを撃破して現地民の信頼を得ることを望んでいる筈なんだ。

魔獣を止めないのは貴様の収集欲が理由だろう。

ふざけるなよ、こんなところで死んでたまるか!」


『ふふ…邪推するのは構いませんが、とりあえず、

貴方はその戦場から生還することを考えるべきですわ。

では御武運を、ジスガルド二等指揮官殿』



ふつっ、と通信が途絶えた。

そしてそれと同時に魔獣が侵攻を開始する。ミコトから指示があったのだろう。


(やるしかない…!)


身体は思い通りに動く。

武装の知識はないが──ロケットパンチ以外。あれはもう御免だ──

肉弾戦はできる。


僕は低く腰だめに構え、孤拳…ただそれのみを対手に向けた。

※リアル執筆時、前話から3ヶ月ほど間が空きました。

冒頭で主人公が不自然なあらすじ回想をしてるのはそのためです。


※章立てが間違ってるっぽかったので投稿しなおしました。

ポイントくれた人よ…すまぬ…すまぬ…。

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