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機神エルベラ  作者: 楽音寺
第二章 戦え!機神エルベラ
16/71

「戦え!機神エルベラ」その4

-4-



★ ★ ★


少年は荒野で空を見上げていた。月がでていた。


(あれ・・・?僕、こんなところでなにをしてるんだろう)


砂埃を含んだ風がさぁっと少年の頬をなでる。

すこし煙たくて彼はくしゃみをした。


まわりを見渡すけれど何もない。

地面に小枝や藪やちいさなトカゲがあるばかりだった。足元は岩場だった。


水溜りがあった。


なんの気なしに、少年は顔を映す。


――角のはえた鬼の姿がこちらを睨んでいた。


★ ★ ★



「・・・・・・うわぁああああああっ!!!!!びっくりしたぁああああっ!!!!!」


僕は我に返る。すると三面鏡に似た全面スクリーンや

魔術文字パネルの浮かんだ椅子が目に入った。


(くそっ・・・どんな悪夢かと思ったぞ!

非現実すぎて夢っぽく思えたがいまのは紛れもなく・・・)


スクリーンにはルルイエ大湖畔の荒れる水面が大写しにされていた。

僕の咆哮で乱れたのだ。

正確にはこの巨大ゴーレム・・・"エルベラ"の発した咆哮によって。


(現実だ!リアルな感覚がまだ残っている・・・!僕は巨人になっていた!)


いや、いまも容易にその感覚は取り戻せる。

軽く集中するだけで、

椅子に座っている自分の視点から、再び巨人の視点になる。


足元の砂まみれの小枝は、よくよく見ると地面にくっついている。

ジュレール大渓谷のつづら折りの坂道だろう。

その周囲の背の低い草で満ちた雑草のかたまりは、

よくよく見るとシュワルツ大森林で。

そして巨人の僕が覗き込んでいる水溜りこそがルルイエ大湖畔だった。


あの大広間に掲げられた巨人の絵そのものの風景だ。


(僕は機神エルベラと一心同体になっているのだ――!)



自分の身体を見る。

領主館の司令室で椅子に座っている(ジョウ)じゃなく、荒野に立ち尽くす(エルベラ)の身体。


砂色の巨人だった。


肩を含む上半身にかけては山岳地帯を利用して構成されているのだろう。

ごつごつした感触で、断崖や岩場の起伏がそのまま残っている。

ときおり生えていた潅木すら確認できる。うぶ毛のように細かい。


拳は巨大な岩石の塊で、砂も詰まっているようだ。鉄より重く堅く密度がある。


鎖骨のあたりに滝があり泉ができている。鳥が棲んでいる。

これ、もしかして僕とチルティスが休憩したあの水場じゃないか?


背中には竜の骨のような突起が並ぶ。灼熱に耐えて歩んだ渓谷の道。


都市としての民家や街はすべてその身の内側に収めているようだ。

…いや、ただ一点。


僕(本体)がいるエンガッツィオ司令塔だけは、その白亜を汚すことなく

巨人の額に鎮座している。角みたいだ。


(おお…嘘みたいだ・・・こんな兵器がこの世界にあるなんて…!)


手を握る。開く。そのたびに轟音が大気を混ぜる。砂が滝のように落ちる。

動作は緩慢には感じない。巨大さに負けない速度で動いているのだ。

岩でできた顔に山脈の(かすみ)(まと)わりついてむず痒い。


身長はどれくらいになるんだろう?

体重はどれくらいになるんだろう?


いずれも僕より大きいことだけは宇宙の真理よりも確かだった・・・。


『かかか。凄かろう?ええ?声もでないんじゃないかジョウ君よ』


「ああ。こればっかりは認めてやってもいい・・・エルベラって凄いな、ジーン」


ぽかんとしてつい本音を言ってしまう。

畜生、素直になるくらいだったら死んだ方がマシだと常々考えているこの僕が。



・・・いや!

「!! そうだ呆けてる場合じゃないぞ!魔獣バハムートはどこだ!!」


『君の足元に這いつくばってるそれがそうなんじゃないかのう?』



んんん?

地面には(といっても普段の視点とはスケールが段違いだが)

小枝や水溜りに混じってトカゲがいた。


僕は大地を揺らしながらしゃがみ込んで

左手の一指し指と親指でそいつをつまみあげる・・・あ、本当だ。


それは鱗やシッポのせいで一瞬爬虫類に見えるけど

紛れもなく牛の体をもった魔獣バハムートだ。


ぴーぴーと鳴いている。

・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・どうしよう、普通に可愛いんだが・・・。



「僕はこれと戦うのか?ジーン・・・

そもそも戦い方っていうか、兵装とかも知らないんだが」


『簡単じゃよ。右手側の魔術文字パネルの『τ』に触れてみろ』



右手・・・ああ本体の右手か、ややこしいな。僕は視点を生身の僕に戻す。


『τ』・・・。



『それを押すと』

「うん」押した。くりん、と僕(巨人)の右手が勝手にあがる。


『ロケットパンチが出る』


*ぼしゅううううううう!


肘からまさに活火山のように噴火したマグマの噴射力によって、

僕の右腕がばきんと音をたてて間接ごと分解(パージ)され、飛んだ。

空気の壁を次々に突き破りながら熱と衝撃波を撒き散らす。

周囲の地形に同心円状にひろがるその熱波は、

森を焼き、一瞬で湖を干上がらせ、飛んでいった拳は地平線の果てで爆発し

大陸の形を変えた。


音もなく上がる火柱で明るくなった夜空は、なんというか終末の光景じみていた。

音がこっちに到達するまであと数分はかかるだろう。

当然、左手の指でつまみあげていた魔獣(トカゲ)など消し炭すら残っていない。


世界をちょっとだけ破壊したその余波たる風を頬にうけながら、僕は呟いた。


「僕の右腕・・・」


『待っても帰っては来ないぞ。撃てばそれっきりの単発兵器じゃからのう』


かかかと笑うジーン。


「き、貴様──マジで悪魔か!

ただのトカゲ相手にここまでやる必要がどこにあった!?

というか今の攻撃すげぇ無駄に威力高い!

何でこんな兵装がボタン一個で撃てるんだよもっと何重にもプロテクトしろよ!」


『かっかっか!いやー久し振りにエルベラを動かすもんじゃから、

各兵装の風通しをよくする意味で、つい』


2文字(つい)で済ますな!風通しっていうか大陸に風穴が開いたわ!」


『いいじゃろどうせ地平線の向こうのどっかだろうし。

わしゃ知らーん。エルベラが無事ならそれでいいわい』


「地平線の向こうのどっかのひとが可哀想だー!」


こいつ、ラグネロより性質(たち)が悪いぞマジで。

さっきヒトは解り合えるとかなんとか言ってたけど貴様とは解り合えそうにない。




ぴきゅん!


もうもうと煙のあがる終末の光景を映したスクリーンに、

ジーンのとは別のもうひとつの窓が出来る。ん?

そこに映ったのは切り揃えられたブラウンの前髪、眠そうなたれ目の少女。

魔獣召喚兵器ミコトだった。


『ムーちゃんの撃破、おめでとうございます』


ムーちゃんて誰だ。あ、バハ"ムー"トか。阿呆か。


「貴様、なぜこの場に・・・(下手に顔をだすとラグネロの使者であることがバレ

『残念ながらもうバレてしまいました』

ってもうバレてるのかよ!」


『この作戦のことも全部。実はわたくしとジーンは旧知の仲でして・・・

迂闊で不覚で無用心でしたわ』


『そうなんじゃ。パーティ会場でミコトちゃんの顔を見た時は

さすがのわしも驚いたわ』


そ、そうなのか?


まぁジーン相手に祖国(ラグネロ)からの使者のことを隠し通せるとは思ってなかったし、

どっちかと言うと母達にジーンやチルティスとの関係を隠すほうが大事だ。

敵と通じてると粛清されてしまう。



『で、もう開き直ってせっかくだからと通信に参加させて頂いたのです。

わたくし、どうしても貴方に一言いいたい事があります』


やれやれ。僕はスクリーンに向かって言う「なんだ?恨み言なら聞かないぜ」


「たしかバハムートは貴様が召喚したんだったよな。

だがこの通り、孤軍要塞エルベラの力を引き出して臨終したんだから

召喚獣として役目は果たしたんだ。悔いはないだろ。

ふん、まさか死に方が酷いなんてクレームをつける気じゃないだろうな」


『違います。死に方なんてどれも同じでしょう。

残酷に死のうが安息に死のうが、死は死です。

そこのところをわたくしが間違えることはありませんわ』


そもそもあの子はとうに死んでいます、とミコト。? 意味がわからないな。



『わたくしが言いたいのはただ一言』


彼女がそう言った途端。

サイレンが鳴った。

画面端の計器類が稼動し、

世界の果てで燃え上がる火柱のなかから生体反応を見つける。

僕の首筋に突き刺さった神経接続針(マトリクス・パイル)からぞくぞくと悪寒。

まだ死んでない。誰が?


僕は巨人になって目を凝らす。

かしゃかしゃと拡大(ズーム)されていく視界。その奥に――


(──!!!!!!)



『あまり魔獣を舐めないほうがいい──ですわ』



怒りの表情をあらわにした手負いの魔獣バハムート。

ただし、そのサイズは既にトカゲなんてものじゃない。



――魔獣バハムートの唯一の特殊能力は、

――獲物にあわせて自分のサイズを増大させること。


その自分の言葉を思い出しながら僕は魔獣を見上げた。



・・・・・・首が、痛くなった。

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