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機神エルベラ  作者: 楽音寺
第二章 戦え!機神エルベラ
13/71

「戦え!機神エルベラ」その1

《機神エルベラ》シリーズ

第二章

「戦え!機神エルベラ」



★★★


風の大陸アールヴは、古代種族の幻想(ごっこ)遊びによって

形作られ創られた、という神話がある。


山脈も森も湖も砂漠も雪原も溶岩地帯も滝も奈落も、

あらゆる地理が無秩序に揃ったこの箱庭のような大陸は。


人間も亜人種も幻獣も魔獣も神獣も魔法生物も機械も神も、

あらゆる種族が無遠慮に並んだこの実験場のような大陸は。


遥か昔、誰かがおいた積み木の街や砂バラや郵便ポストや車輪やマナの剣によって

産み出されたイメージであるという。


まさに箱庭。幻想世界。


そんな場所だから──

魔法少女とロボとファンタジー、

混沌めいた3者が共存するのも、無理からぬ事だった。



月光の中、ジュレール大渓谷へと続くシュワルツ大森林・・・

通称"まっくら森"を、モーターバイクで走破する者がいた。

馬でも轢き殺せそうなごつい車輪。夜空を叩く排気音。

内燃機関(エンジン)の唸りが森の動物達の眠りをことごとく邪魔した。

絡まった根っこで凸凹した道を、落ち葉を蹴散らしながら疾走する鉄の機械。


はためく漆黒のドレス。


乗っているのは12歳の少女だった。


瞳の色はブラウン、髪の毛も黒で、

肩に掛かる程度の長さで軽くウェーブがかかっている。

たれ目で一重まぶた、眉毛は細い。 前髪に分けはなく、眉の少し下の長さ。


バイクが森を抜け山岳地帯にさしかかり、しかし少女はブレーキをかけない。


前方の崖に向かって──躊躇なく突っ込んだ。


かすかな傾斜をジャンプ台に、重量3桁を越える鉄の化け物とともに

空中に踊り出た彼女のシルエットが、月に映し出される。


「いやっっほーーーーう!ですわ」


はしたなく嬌声をあげていても律儀に「ですわ」をつける事は忘れない。

彼女はどうやらお嬢様であるようだった。


★★★



-1-



「あれ、ジョージ様、お義母さまはどこへ?」


「あの女、しばらく"エディプスの恋人亭"に泊まるらしく

荷物もそこに置いてあるんだとよ。

僕をここに送り届けたあと、今夜の大陸記念パーティの準備をするからって

宿に帰っていった」


「えー泊まるならウチに泊まればいいのに。ジェノバさんなら大歓迎ですよー!」


「(ジーンを警戒しているんだろうな、まさかもうバレているとは知らずに・・・)

それより貴様、酒は抜けたのか?」


「えっへっへ、あれしきの酒、いや毒だって病気だって

私は変身の魔法でリセットできるんですよ」


「ふん、そりゃいいな・・・僕はまだ頭が痛いよ」



酒の所為ばかりではない。母の言葉を思い出す。


──今夜、魔獣バハムートが街を襲うからね。

──あんたは領主ジーンをいいくるめて孤軍要塞"エルベラ"を起動させなさい。



大陸記念パーティはエルベラ領主館"エンガッツィオ司令塔"の大広間にて

盛大に行われていた。

テーブルクロスが掛けられた円卓。巨人の絵。

ピアノ奏者が奏でる曲はあのいけすかないウェンディングマーチだ。


各大陸から集められた参加者たちはそれぞれの文化における正装に身を包んでいる。


ぱりっとした黒のタキシードの洗練された紳士は巨大陸ダイアルの出身。


着物とハチマキ、五芒星を染め抜いた羽織をきた黒髪の男性は、

ジーンの故郷、東の大陸ヒノマル出身。


水着のようなセパレートドレスを着たねこみみ少女は

亜人種天国と名高い獣人の大陸ヤパの出身だろう。


そして帯刀+全身鎧が正装の僕はまぎれもなく鉄の大陸クレッセンの人間である。


(ここに集められた全員が・・・もしかしたら今夜中にも死ぬかもしれないのか)


もし僕が孤軍要塞エルベラを起動させられなかったら。


責任重大だ。そりゃあ頭も痛くなる。



(お・・・いたな、あそこだ)


大広間の一角に遊技場を模したテーブルがあって、

ビリヤードやカードゲームが楽しめるようになっている。

魔術のような手つきで札を配る双子のディーラーの、その向こうに──

僕が会うべき3人の使者がいた。


白いマーメイドドレスを着て、長い黒髪を結い上げたジェノバ。

あちらも僕をみつけて嬉しそうに手を振っている。

ちいさな儀式用の短剣をネックレスにしているのは

『武装が正装』というクレッセンのマナーの為だ。


その隣に、紫のマフラーを…こんどは顔面に巻きつけることはせず

普通に首に巻いた壮年の男。カーズだ。

老いてなお頑強な体つきをしているのが鋲だらけのマントの上からでも分かる。

こっちは長剣を腰にさしている。

しわだらけの顔に刻み付けるような嫌味な笑顔。

うっ……酒場での一件を恨んでやがる…。


そして・・・あれ?その見慣れたふたりの間に見慣れない少女がいる。



漆黒のドレス。肩や胸元が網目状のかたびらになっている。

陳腐な表現だが黒い薔薇を想像した。


彼女の右腕にはリングが嵌まっていて、

そこから細い金鎖が伸びて太ももくらいの位置に剣が揺れている。

アクセサリーだろう。刃はない。鍵のような奇妙な形のナイフだ。


すらりと伸びた足。ブラウンの髪。革の指抜き手袋は、お嬢様には似合わない。


なんだか・・・白い花嫁衣裳のチルティスとは真逆な、鋭く尖った印象の少女だな。


とりあえず合流しよう。

僕はチルティスにその場で待つよう命令して3人に接近した。




「はっはー、これはこれはジョウ二等指揮官殿。

ご機嫌うるわしゅうございますなァ。もう酒は抜けたのですか?」


「多少はな。思考はクリアだが頭痛が残っている程度だ」


「ちなみにわしはまだ体が軋みますぞ。

ずっと平伏した体勢で放置されましたからなぁあ!

ああ肩が凝る。あれは老体には辛い姿勢でした。

おや、あれは一体どこのどなたがやったのかお忘れかジョウ殿、

少しくらい気遣いのお言葉を頂きたいのですがなぁ?」


もう本当に嫌味ったらしいにやにや声でカーズは言う。

ちなみにこいつにも"休め"の命令は出してあるので素の口調だ。

素でこんな嫌な喋り方をするやつだと言うことは、酒場での一件で察して欲しい。


「ふん、あれは貴様が悪いのだカーズ。なぜあんな下手な演技をした」

「わしは教育係ですからな。

ジョウ殿の成長を見たいと考えるのは自然なことでございましょう」


だから看板娘にちょっかいをだして挑発したのですよ、とカーズ。

いやあの苛めっぷりはただの趣味だろ…。シーナ涙目だったぞ。

あいかわらず性格が悪いじいさんだ。


「そういや貴様、僕に死ねェとか言ってなかったか」


「はて、覚えておりません。

女子供に優しいと評判のこのわしがそんな物騒なことを言うとしたら、

お気に入りの靴をどこかの性格の悪い小僧に蹴っ飛ばされた時くらいしか

有り得ませんなぁ。ジョウ殿はそんな覚えはありませんか?」


「・・・・・・ふふん」

「・・・・・・くっくっくっくっく」

同時に笑う僕とカーズ。まったくこいつは。


「にひひ、ジョウとカーズさんは仲よしこよしねぇ」


「そんなことよりそこの娘を紹介しろよ。

僕の部隊では見ない顔だな。誰だ?階級は?」


もし僕より階級が上ならすぐにでも態度を改めなくてはならない。

まぁこの娘がそんなに偉い奴ならジェノバやカーズも

もっと畏まっている筈だから、それは無さそうだけど。


「ああ、この子はね」

「自己紹介なら自分で致しますわ、ジェノバさん」


しっとりと落ち着いた、絹のような手触りの声。

「わたくしの名はミコト。蒸気都市ラグネロに住まう者ですが、階級はありません」


なに?

階級がない──だと?

ラグネロの者でありながら?


「そんな馬鹿な、ありえない!」

「馬鹿という方が馬鹿です。ありえます」


言い返された。意外に気が強いな・・・

じゃなくて!こいつは一体なんなのだ!?



「わたくしは、兵器ですから」



「・・・兵器?」


「そう、この子は兵士じゃなくて兵器なの。

階級はない。そもそも人間じゃない──魔獣を召喚するための兵器」


「人間じゃ──ない?」


「ごらんなさい」


そういって少女の背後を指差すジェノバ。


少女の背後には大きな縦長の窓があって、月の灯りとジュレール大渓谷の全景が

額縁の絵のように収められている。

(・・・?なにも無いじゃ)


ふっ、と窓を横切るものがあった。


黒い──鱗──?なにかの体表面?

それは音もなく窓全体を覆っている。移動している。



*ぎょろっ*



「!!!!」

突然眼が現れた。窓枠いっぱいに!爛々と光る爬虫類の瞳!

な…きょ…巨大すぎる!


まさか!


まさかこいつが、魔獣バハムートか!



「わたしが呼びました。おびえないであげて下さい。優しくて可愛い子ですわ」


漆黒のドレスの少女はそこで初めてにこりと微笑んだ。

スカートの端をつまんで上品にお辞儀。


「召喚兵器ミコト・サモンナイトです。以後、お見知りおきを」



…。

……ジュレール・チルティスと同じ挨拶だった。

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