「響け!ウェディングマーチ」その12
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いつの間にか夕方になっていて山脈の空は赤く染まっていた。
綺麗だ。
雲がどこまでも遠くに続いている。
僕は母に背負われているようだった。
まだ頭がぼーっとする。酒の魔力か。
おんぶされるのは照れくさいが体が動かない。
目覚めたのね、と彼女は言う。
「ん・・・チルティスは?」
「先に帰ったわよ。彼女、いい娘ね。つきあうの?」
まさか。ばかばかしい。
「そうよね。まだちょっと早いわ」
短く言う。
なんだ、心配してるのか?
「あたりまえじゃない。母親だもの」
あっそう。
「ところで」
ジェノバは、僕を振り返ることなく、低い声で言った。
「──バレてはいないでしょうね」
どきん。
心臓が高鳴った。
僕がラグネロの刺客であることが露見していないか。そういう問いだ。
「もしバレていたらあんたも始末される。
エルベラの人間と必要以上に仲良くなるのはやめときなさい」
「……」
仲良くどころか結婚しようとまで言われている。
しかもジーンが出した条件は都合が良すぎて、破格すぎて、
僕が故郷を捨ててエルベラ側についたと憶測されるには十分なものだった。
作戦上の嘘だという言い訳が・・・果たしてラグネロ上層部に通用するだろうか?
僕は・・・「わかった」とだけ言って、沈黙した。
「そう、ならいいよ・・・
ああそうだ、今夜、魔獣バハムートが街を襲うからね。
あんたは領主ジーンをいいくるめて孤軍要塞"エルベラ"を起動させなさい。
一度エルベラの力を見ておきたいとの、上層部からの命令よ」
え。
非情なる運命の歯車は、ちっぽけな僕の思いなどお構いなしに回り始める。
少しづつ打ち解けてきたチルティスも。
好きになってきた街の住民たちも。
全てを破壊する力が──その夜、エルベラにやってきた。
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