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ニギアス

その世界は、誰もが平等で、誰もが不平等だ。仕事、収入、その他の社会的地位が全て才能で決まる。人々は自分の才能を高める為に、七歳からイデュヒアと呼ばれる施設に行くことが義務付けられている。そこでは、自らが何を学んでも自由だし、学ばないのも自由である。そして、二十歳になると、自らの才能に合った仕事を政府から言い渡される。才能のある者ほど選択肢があり、より地位の高い仕事に就ける。逆に才能のない者ほど選択肢が絞られ、地位も低い。そこには自らの家柄も、資金も、何も絡まない。純粋な自分の力のみだ


「って感じで、あってるんだよな?」


この世界での七歳を迎える前日の夜、俺は部屋の窓から見えるイデュヒアを見上げながら、窓の側でフヨフヨ浮かんでいるアリミディアにこの世界についての情報をもう一回確認する


「そうだよー。一つ訂正するとしたらー、才能がある人間、じゃなくてー、自分の才能を見つけて開花させた人間ってとこかなー」


「どう違うんだ?それ」


「大体の人間ってー、必ず何かしらの才能はあるんだよねー。ただー、普通はそれが役に立つとは限らないしー、その世界で役に立つ才能が無ければ才能なしになっちゃうんだよねー。わかりやすく言うとー、科学の発達した世界で魔法の才能は役に立たないしー。でもー、この世界は魔法も科学もあるしー、例えどんな才能でもちゃんと活かし方を考えるのー。だからー、この世界はー、自分の才能を見つければー、役に立たないってことはないのー」


「自分の才能、ねえ……」


アリミディアの説明を聞いて、自分の才能というものを考えなおしてみる。転生する前の世界では色々な事に手を出してみたが、どれもイマイチだった。しかし、あの世界に魔法はなかった。魔法のない世界でそんなに活躍していなかったということは、逆に魔法のある世界なら大活躍出来るんじゃないのか?もしかしたら俺には魔法の才能があるのかもしれない、いやあるに違いない!


「とはいえー、魔法の才能って科学の世界でもそれなりに役立つからー、魔法の才能ある人ってどこでもそれなりに活躍できるんだけどねー。逆に科学の才能は魔法の世界でも役立つしー」


人が期待に胸を膨らませているところにこの発言である。確かに俺も年甲斐なく期待しすぎたかもしれないが、いきなりそんな否定しなくてもいいじゃないか。どうすんだよ、魔法を頑張って習おうという俺の意欲が、習う前から大分削がれちゃったじゃないか。大体なんで魔法の才能が科学で役立つんだ?俺には完全に正反対の物に見えるが


「それはねー、魔法も科学もー、実は根本にあるものは同じ数学なんだよねー。そもそも魔法も科学もー……」


と、アリミディアは魔法と科学について饒舌に語りだした。あー、いるいる。こういうウンチク話の時とか、自分の得意分野の話では滅茶苦茶饒舌に喋る人間。まあ話がそれなりには面白い分、まだマシか


ちなみに、アリミディアの長いウンチク話をまとめると、そもそも魔法も科学も実はやっていることは根本的には変わらないらしく、使ってるエネルギーが魔力かそれ以外か(例えば電気とか)の違いだけだとか。自らの起こしたい事象・現象や、それを起こすのに必要なエネルギー等を数式で表し、更にそれを複雑な記号や言葉に直したものが、いわゆる魔法陣や呪文だとか。厳密に言えば色々違うみたいだが、ざっとまとめるとこんなところらしい


「でねー、魔法使いのランクはー、四大元素の魔法をどれほど扱えるかで決まってー」


「いや、アリミディア、もう大丈夫、もう分かったから」


「えー、まだまだこれからだよー、今ようやく魔法の基礎の基礎が終わったとこなのにー」


「お前あと何時間話す予定だったんだよ……」


時計を見てみると、そろそろ日付が変わりそうな時間である。本来、まだ七歳の子供が起きていていい時間ではないし、何より俺自身かなり眠い。七歳の身体で夜更かしは思っていたより堪える。まだ話足りなそう顔をしているアリミディアをどうやって落ち着かせようか考えていると、部屋のドアがノックされ、それに続いて穏やかな女性の声が俺に話しかけてきた


「勇気、入るわよ?」


「うん、いいよお母さん」


俺が質問に答えると扉が開き、穏やかなお姉さんの様な雰囲気を持った女性が入ってくる。静音(しずね)さんという、この世界での俺の母親だ。母とは言ってもまだ二十七歳という、俺よりずっと年下の母親で、正直な話母親という実感が一緒に七年過ごした今も湧かない


「勇気、この部屋に一人しかいないのに、さっきから誰と話してたのかしら?」


「ううん、二人だよお母さん。そこにちゃんといつもの妖精さんがいるんだよ」


俺はアリミディアの浮いている方を指差す。まあ、アリミディアは俺以外の人間に見えないわけだから、指差したところでホントにいるかはこの人には分からないんだが


「勇気は本当に妖精さんと仲がいいのね、お母さん羨ましいわ。でも、いい子はもう寝る時間だから寝ましょうね?悪い子になっちゃうと今仲良くしてる妖精さんも見えなくなっちゃうわよ?」


静音さんは微笑みながら、俺に寝るように促して来たので、俺は無言で頷いて応える。ちなみに、魔法のあるこの世界では妖精は否定される存在ではないらしく、むしろ妖精が見える子供は立派な魔法使いになれるのではと有望視される。少し前に初めてアリミディアの存在をうっかり口に出した時は焦ったが、そういう事情が分かってからはアリミディアとのやり取りは家の中では隠さず行っている。バレないように気を使って隠すの疲れるし


「さ、お布団に入って、明日は勇気の大切な日なんだから、寝坊しちゃうと大変よ?」


「うん、おやすみなさい、お母さん」


「おやすみ勇気、妖精さんにもちゃんとおやすみの挨拶するのよ?」


彼女は俺をベットに寝かせると、上から掛け布団を優しく掛けて部屋から出て行った。母親という実感こそ湧かないが、彼女のああいう優しさに包まれるのは落ち着く。母親がいるというのは、こんな感じなのだろうか


「じゃあ妖精さん、おやすみなさい」


「もう子供のふりはしなくていいんじゃないのー?それとー、前から思ってたけどー、君子供のふり上手いよねー」


「まあな、繰り返すたびに子供からのスタートだし、子供の姿で子供っぽい行動しないと周りが面倒だったからな。千回も二千回も子供を繰り返してたら自然と身についた」


「ふ~ん。ところでー、君の最初のお母さんはどういう人だったのー?」


「さあ?何回繰り返しても、何故か物心つく頃には母親はいなかったからな。どういう人で、どういう経緯で俺が産まれたのかは俺にも分からない」


「んー?でも君この世界で産まれた時は意識あったよねー?前の世界で産まれた瞬間は覚えてないのー?」


言われてみれば、何故俺は前の世界産まれた時の事を覚えてないのだろうか?考えて見れば前の世界では三歳より前の記憶がない。一度気にしてしまうと、かなり気になり出したのでので理由をあれこれ考えてみたが、人並みのファンタジー知識しかない人間にそんな事がわかるはずもなく、気が付くといつの間にか寝ていた


そして俺は、才能の楽園へ、初めて足を踏み入れる

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