人だからと劇的に死ねるとは限らない
「リセットするー?転生するー?」
「どう考えても転生一択だろ!」
最初に出会った時のような、身体は動かず意識だけ目覚めてる状態の俺に、アリミディアが質問してきたので迷わず即答する。誰がゴキブリ姿で繰り返すんだよ。何回繰り返してもまともな冒険が出来る気がしねーよ
「というか、なんでこんな姿なんだよ……人間は人間に生まれ変わるんじゃなかったのかよ……」
「んー?同じ世界で転生するなら基本的にはそうだよー。でも今回は異世界転生だからねー。しかも姿は完全ランダムだったしー。その世界に溶け込む姿に生まれ変わるからー、虫とかに生まれ変わる可能性も十分あるわけだしー」
「ああ、もういい、俺の運がなかったっていうのは十分理解できたから……」
「あははー、じゃあ次の転生の準備しよっか」
「いや、ちょっと待て、その前に質問だ。次の世界で、エディットで姿の引き継ぎを選んで転生した場合、俺の姿はどうなるんだ?」
どう考えてもゴキブリの姿を引き継いでも転生してもデメリットしか浮かばない。まあ、仮に引き継ぐのはゴキブリの姿って言われると、俺は次の転生で完全ランダムの姿か100%ゴキブリの姿かなんて選びたくもない二択問題を迫られるわけだが
「そこは大丈夫だよー、君のオリジナル、つまり最初の姿はちゃんとデータとして保存してあるからー。これから先ー、引き継ぎを選んだ場合は全部オリジナルの姿で行くからねー」
「おお!流石は有能な天界職員アリミディア!」
「よしなよー、褒めても君のオリジナルデータくらいしか出ないよー?」
いやそれを出してもらわないと俺が詰むんだが。もうゴキブリだけは死んでもゴメンだ。いや、もう死んでいるけどな
「じゃあー、次の転生の姿はー、今までの君の姿ってことでいいんだねー?」
「おう、それで頼む」
「じゃあ二回目の転生の手続きしてくるからちょっと待っててねー」
「念のため聞くけどさ、もう一回転生する世界選べない?」
初回限定サービスで選んだ世界は転生早々終わったし。一分も経ってないんじゃないか、あれ
「だめ。転生後の世界決めるための手続きって凄い面倒なんだからー」
「やっぱりか……ちなみに、転生する世界って誰がどうやって決めてんの?」
手続きが面倒、ということは少なくともアリミディアが決めている訳では無さそうだが
「んーとね、私達の上司の神様だよー。私達が転生者の書類を渡して、その渡した書類を元に担当する上司が厳正な審査をして決めてくのー」
「本当なのか?それ。厳選な審査って一体どんな審査だ?」
アリミディアの態度を見ていると正直厳正な審査なんて真面目なことが行われてるとは思えない。そりゃ、アリミディアが特殊な可能性もある。実は口ではあんなんだが本当に有能だから周りから咎められてない可能性もある。或いは他の神様は真面目なのにアリミディアだけがふざけてる可能性もある。あるけどなぁ……やっぱり信じられないな
「んーとね、まず私達下っ端がー、転生者の情報を簡単にまとめてー、上司に提出するでしょー。ここまでが私達の仕事」
「うん、それで?」
「んでー、その書類の中からテキトーなの引っ張りだしてー、サイコロ振って決めるの-」
「待ておい!またか!またサイコロか!どっかの美人有能職員さんといいサイコロ好きだなおい!」
「むー、言ったなー。上司のサイコロはねー、私のと違ってただのサイコロじゃないんだよー」
ただのサイコロじゃない、ということは実は自動で色々見極める不思議機能とか付いているのか!?やっぱり天界でふざけてるのはアリミディアくらいで実は他の神様は真面目なのか?ああ!神様!疑ってすいませんでした!いや、目の前の不真面目なのも神様なんだけどさ
「上司のサイコロはねー、なんとサイコロにデジタル表示を用いる事で三桁の数字まで表示させる事が出来るすぐれものなんだよー」
ああ、うん。一瞬でも期待した俺が馬鹿だった。いつだったか神は時に人の期待を残酷に裏切るものだ、と言われたり言われなかったりしたが、まさかこんなタイミングで裏切られることになるとは
「あー、そろそろ転生の時間みたいだよー。まー、基本的にはそこまでおかしな世界に飛ばされることはないと思うからー、頑張ってねー」
基本的には、その一言に大きな不安を抱きつつ、あの暗い闇の底に沈む様な感覚が再び俺を襲う。頼むから次こそはちゃんとした人生を送りたい、俺は必死に祈りながらまた眠りについた
目が覚めたら、まず第一に自分の身体を確認した。手足は……うん、人間だな。身体も人間だ。ただ、何故か成長しきった状態で生まれている。この体はどう見ても高校生くらいの俺だ。なのに服は着ていない、生まれたままの姿だ。ついでに言えば場所だってオカシイ。何故こんな平原の真ん中に立っているんだ。しかも全裸で
「うーん状況がさっぱり飲み込めないな」
「まー場所も場所だしねー」
どうにも理解できないこの状況を理解しようと必死に頭を活動させていたところに、いきなりアリミディアが後ろから声をかけてきた。びっくりして慌てて飛び退いた拍子に尻餅をつく。小石が尻に刺さってちょっと痛かった
「うおっ!?いつからそこにいた!?」
「んー?最初からだよー。基本的に私は君がどの世界に転生しても側に居ると思っていいよー」
「最初に言ってくれよ……心臓に悪いから。ところで、俺はどうしてこんな訳の分からない状況で転生してんだ?あとなんで俺成長した状態で転生してるんだ?」
「んーとねー、それを一言で説明するとー、そうじゃないと都合が悪いからかなー」
「都合が悪い?」
「そー、この世界での君はー、突然変異種ってことになってるからねー」
突然変異?説明を聞いても訳が分からずに必死に悩んでいると、後ろの方からズーン、ズズーンと、地響きの様な音が聞こえてきた。というか地響きだな、足元揺れてるし。音のした方を眺めてみると、俺と同じような生まれたままの姿、ではないな。何か毛皮の様な物を着ている。原始人の服とかあんな感じなんだろうな。あと目立つ点は……サイズだな。うん。身長がどう見ても俺の30倍はある
「この世界はねー、君から見たらー、巨人の世界ってことになるのかなー」
「巨人って……巨人?」
訳の分からない事の連続に、とうとう思考回路がオーバーヒートしたようだ、開いた口が塞がらない。裸で口をパックリ開けて立ち尽くす、というのは多分他の人から見たら相当間抜けな光景だと思うが、人間はあまりに訳の分からない事に出会うと不思議と立ち尽くす事しか出来ないのである
「うーん、すっかり固まっちゃったねー、でもあんまりそんな暇は無さそうだよー?」
アリミディアの声でふと、我に返る。まあ、我に返ったところで目の前に巨人が居るって事実は変わんないんだが……ってあれ?あの巨人さっきよりでかくなってない?……おい、ちょっと待て!
「あの巨人こっちに向かって来てるじゃねーか!」
しかも結構早い!歩幅か!歩幅の問題なのか!?慌ててその場から逃げ出そうとしてみたが、スピードの差は歴然で、数秒もしないうちに追いつかれて、踏み潰された。どうやら俺は奴の視界に映ってなかったらしい。こうして、二回目の異世界は、一回目と同じ死因で終わることになった。まあ、スリッパから素足になっただけマシ……なのか?