序章 始まりの出会い
「こんなラノベあったら読むんだけどなー。・・・そうだ、だったら作ってみりゃいいのか」
元々は、そんな思いつきから始めたのでした。
別サイトで学生時代に書き出し、止まっていた作品をリハビリ替わりにこちらでリファインしようと思い始めます。
構想だけは長年考え続けていたので、まぁリハビリついでにつらつらと。
尚、この作品の世界感は自分の独断によるものです。多少ぶっとんでてもお許しを。
――つまらぬ
眠りから覚めると当たり前のようにそんな言葉が湧いた。
もう幾度この言葉を呟いただろうか?
この世に生を受けて幾星霜。
生まれたばかりの頃、それは楽しく世界を駆けずり回っていたが、長すぎる『生』はそれすらも飽きさせてしまった。
ここは『中国』と呼ばれている国にある、いくつもの霊山が並ぶ地。
この場所は神気がたちこめていて、居心地がいい。
だからーいつからだったかはもう思いだせないがー特に居心地のよかった霊山に結界をはり、その山の最奥の洞窟で、多くの時を過ごすようになった。
しかしそれもまた飽きてきた。
元々、一ヶ所に留まるなど自分の性にはあっていなかったのだ。
それでも、百年余りは過ごせたが。
――何か、我が心を満たすようなことはないのだろうか……
その時だった。
結界に異変を感じたのは。
――……何だ?
ここの結界は自分が張ったものだ。どんなささいな異変でも容易に気付くことができる。
――……何かが入ってきている?
この『何か』は結界の中に侵入している。
完全には壊さず、必要な箇所だけを破って。
しかし、この結界は自分が作り出しのだ。
神の眷属である『精霊』の自分が。
並の者に破れるはずはない。
得たいのしれない『何か』からは呪力が感じられた。
この呪力の質には覚えがある。
この感じは――
――……人間、か?
内心で自分の感覚を疑った。
そんなことがあるはずはないと。
結界を破るには、その結界を張った者と同等以上の力が必要だ。
もし力の足りないものが破ろうとすれば、力のはね返り受け、下手をすれば命を落としかねないからだ。
確かに人間にも高い呪力を持つ者は存在する。
その高い呪力を持った人間でも、精霊の持つ霊力とでは大きな差がある。
従って、人間には精霊のはった結界を見つけることは出来ても、破ることはできるはずがない。
感じられる呪力は間違いなく人間のもの。
それなのにこの人間は、確実に自分の結界を破ってきている。
しかもこの呪力は……。
――我と同等、いや……それ以上か
信じ難いことに、この者が放つ呪力の量は自分の宿す霊力よりも、更に上をいっているのだ。
数多く存在する精霊の中でも高い呪力を持つ自分よりだ。
そして、それがもうすぐ側まで来ているのも分かった。もう洞窟の入口の当たりまで来ているのだろう。
――ならばその姿、しかと見せてもらおう
足音が洞窟に反響している。
ゆっくりとした、それでいて迷いの無い足音が。精霊である自分と対峙するというのに。
足音が止む。
目の前にはやはり、一人の人間が立っていた。
いたのだが……。
「見つけた」
そう呟くと人間は微かに笑みを浮かべた。
―馬鹿な…子供、だと!!
茶の髪に、それと同じ色の眼をした少年がそこにいた。
人間の歳だと16か17だろう。
しかしその顔に幼さは無く、身体の線は細いが、しっかりとしていて力強い。
が、外見がどうであろうと、人間の子供には変わりない。
しかし、先ほどまで、そして今も感じている絶大な呪力は、間違いなくこの少年から放たれている。
――いったい何者なのだ?
こちらの驚愕に気付いた様子も無く、少年は口を開いた。
「あんたが幻獣・麒麟かい?」
『……だとして、我になんの用だ』
「短刀直入に言う。オレの式神になってもらいたい」
式神。
聞いたことがある。
確か、退魔師たちが従える、使い魔のことだったか。
『……それは我が神の眷属、精霊であると知った上でのことか?』
「ああ。そうだ」
『断る、と言ったら?』
「その時は、力ずくでもなってもらうだけだ」
不敵な笑みを浮かべて言うと、少年の放っていた呪力が、更に大きなものになった。
放たれた膨大な呪力が、まるで津波のように押し寄せてくる。
永い、永すぎるほど生きてきたが、こんなことは初めてだ。
本来、精霊とは力がかけ離れているはずの人間。
だが、目の前の少年は自分よりとてつもなく強大な呪力を持っている。
しかもこの少年は、自分の張った結界をいとも容易く破り、姿を表したかと思うと、なんと「使い魔になれ」と言ってきた。
そして、拒むのならば力ずくでも従わせると言う。
そのような人間見たことも、聴いたこともなかった。
つい先刻までは。
――面白い
永い間感じることのなかった感情が、ふつふつと湧いてくる。
こんなに心踊るのはいつぶりだろう?
この少年ならば、自分を愉しませることができるのではないか?
この少年の傍にいれば、満たされなかった心を満たすことができるのではないか?
理由はそれだけで充分だった。
『良いだろう。貴公の式神になろう』
言った途端、呪力の奔流がぴたりと止む。
少年は意外そうな表情をしていた。
『……どうした?』
「あぁ、いや、大抵の霊は式神になれ、って言えば抵抗するって聞いてたんだけど……しないのか?」
強行手段に出る、とまで言い放っておきながら、これはまたおもしろいことを言う。
つくづく愉しませてくれる。
『貴公の身に宿すその呪力。たとえ我でも敵うものではあるまい。勝てぬ相手に闘いを挑むほど、我は愚かではない』
呪力・霊力の差とはすなわち力の差。
その絶対の法則に揺るぎはない。
「そうかい?」
軽い調子でそう言うと少年は突然、手をポンと打ち合わせた。
「そうだ。オレの式神になってくれるんなら名前を付けないとな。う~ん……そうだな……」
退魔師は自分の使い魔に、必ず名を授けるという。それは使い魔に対する信頼の証なのだそうだ。
「確か、麒麟は雷を司る精霊だったよな?……雷の皇……。『雷皇』ってのはどうだ?」
――雷の皇、か
『……そうだな。悪くない名だ。気に入った』
「よし、決まりだ。よろしくな。雷皇」
『ああ。よろしく頼む。我が主よ』
……そういえば、まだ名前を聞いていなかったか。
『それで、貴公の名は?』
「オレか?オレは――」
口元に自信を表すかのように不敵な笑みを浮かべ、少年はこう名乗った。
「天馬――九劉天馬だ」
それこそが、精霊・麒麟『雷皇』と、少年陰陽師『九劉天馬』との出会いだった。