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オリバー・スウィフト異世界にいく  作者: 六文字白魔
第一章 旅の始まり・草原の風
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ライアー・ライアー

 オリバーはじっと黙っていた。

 黙って、しずかの澄んだ瞳を見つめていた。


 数分後、彼は口を開いた。


 「逃げるつもりは、ないよ」


 「どうして?

 山田の手に落ちるつもりなの?」


 緑がかった金髪の頭は、横に振られた。

 

 「そのつもりもない。

 誰も傷つかない方法を選ぼうと思う」


 「そんなこと・・・。

 無茶よ」


 しずかは目を伏せた。

 この時初めて、彼女の顔に、深い悲しみが刻まれた。


 「今から、ギルバート卿に相談しに行く。

 秋山さんも、一緒に行こう」



               *****


 「異種言語、シャドウブレイク、鑑定眼、未来予知・・・。

 あなた、元の世界で、見者だったのであろう?」


 しずかの前に大きな水晶を置いた、老宮廷魔術師は語りかけた。

 地球人は否定した。


 「魔法なんて、存在しない世界だったから。

 それより、金貨のことで・・・」


 ギルバートは、とたんに厳しい表情になった。


 「ならぬことじゃ。

 国王陛下の温情にかこつけて、盗賊まがいのことをするとは!

 死刑はやむをえんじゃろう」


 「あたしは、盗みを働いていません。

 信じてもらえますか?」


 ギルバートは、彼女の額に触れ、呪文を唱えた。

 すると、白い光が発生した。


 「その言葉、真実じゃ。

 しずか殿は、盗賊ではない」


 「ありがとうございます。

 でも、数日後、必ず罪が着せられてしまうでしょう。

 あたしが真実を叫んだところで、皆が、幻にかかったように騒ぐんですよ」


 「まぼろし?

 それって、惑乱系の魔法?」


 オリバーは、はっとした。


 「ギルバート卿、惑乱を破る魔法は・・・?」


 「ある。

 しかし、難しいので、使用者が限られてしまう。

 魔力の消費も激しく、最低300MP以上でないと、うまくかけられぬでな」


 「おれのMPは、400以上です。

 どうか、教えてください!」


 オリバーは、ギルドで印刷された用紙を、魔術師に見せた。


 「異世界から来たはずのオリバー殿。

 どうして、異種言語理解の能力がないのに、わしらの言葉が分かるのかな?」


 「ああっ!」


 老人は頭をふった。


 「まあ、よかろ。

 この本の記述通り、唱えてくだされ。

 数回やってみてもダメなら、まだムリということじゃ。

 なにせ、レベルが2、なのじゃから」


 「ギルバート卿、ここには、暗黒がひそんでいます」


 無表情のしずかが、ぽつりと言った。


 「誰だかは、今のあたしには分からないけれど。

 おそらくその人物が、あたしを処刑したがっているはずだと」


 「北川かな?」


 「シャドウスキルは、闇属性ではないゆえ、その可能性は低い」


 ギルバートは、額を抑えた。


 「ここに、霊力優れた神官さえいればのう・・・」



               *****


 しずかは一人、自室でうずくまっていた。

 あの時の、オリバーの言葉を思い出しつつ。


 「やつらの陰謀を教えてくれて、ありがとう」


 エメラルド色に変化した目は、まっすぐ彼女を見つめていた。


 「おれは必ず、まやかしを破って、秋山さんの潔白を守る。

 命を守る。

 だから、決してあきらめないで」


 「初めてだ」


 しずかは、細くはかなげな声でつぶやいた。

 いらない子扱いされない自分。

 守られる自分。

 こんなこと、予想もしなかったことだ。

 そう考えているうちに、深い眠りに落ちて行った。



 「金貨が盗まれた!」

 四日後、2-4組の生徒と安藤先生が、中庭に呼び出された。

 

 中庭の中央部分には、舞台のような台がある。

 そこに衛兵隊長が、顔を赤くして立っていた。


 「セオドア王子の、寝室からだ。

 盗難、それも王族から盗まれるなど、これまで聞いたことがない!

 おぬしら異邦人の仕業であることは、明白。

 疑わしい者を、告発するがよい!」


 「うそです、そんなの!」


 安藤先生が叫んだ。


 「うちのクラスの子は、泥棒なんてしません!」


 「黙れ、女!」


 傭兵らに怒鳴られ、先生は気の弱いプードルのように震えあがった。


 「それはこいつだ!」


 山田は声を張り上げた。


 「塩村だ!

 こいつは昔から、手癖が悪かった!」


 「根も葉もないこと言うんじゃないわよ!

 あんたがやったんでしょ、山田!」


 百合絵が怒り心頭だ。

 続いて、おとなしい流美までもが、参戦する。

 しばらくすると、クラスの半数近くが、山田の意見に反論し始めた。

 山田の白目が、真っ赤になっている。

 鬼というより、悪魔の形相だ。


 「秋山」


 男とも女ともつかぬ声が、こだました。


 「しずかだ。

 秋山しずかが、盗んだ。

 早く処刑してしまエ・・・!」


 「ライアーブレイク!」


 待ってましたとばかりに、オリバーは声を張り上げた。


 瞬間的に、中庭にいる全員の声が失われた。


 「ハートウィンド、出でよ、シルフィード!

 誇り高き水の姉妹らと共に、彼らに過去を見せつけよ!」


 流美が大きな大きな水球を高く打ち上げ、それに緑色の風がぶつかる。

 その瞬間、盗みの様子が映し出された。



 影と同化し、王宮中をさぐりまわっている、北川。

 メイドに痴漢したり、食堂の鍋に、得体の知れぬ虫を入れたり。

 彼はとある一室に入り込み、重たい袋を見つけた。

 袋の中身は、金貨。

 泥棒はシャドウ魔法に感謝しつつ、それを持って立ち去った。


 「北川くん」


 安藤先生は、乾いた声を出した。


 「はっきり言うわ、あなたは、過去に数回万引きの補導歴があるわね。

 でも、それは小学校のときで、中学では問題を起こしていない。

 だから、てっきり信用していたのに・・・」


 言った瞬間、先生は倒れた。


 影魔法を駆使した北川が、先生の後ろに回り込んで、短刀を突き立てたのだ。


 「へへっ、おれが見つかるかよ!」


 「あんた、なんてことを!

 シャドウ・ブレイク!」


 しずかの声がこだまし、悪党の姿は丸見えになった。


 「サンダーボルト!」


 オリバーは北川に電流を投げつけ、失神させた。

 すぐさま、衛兵らが捕縛にかかる。


 大混乱の中、そのうちの一人が姿を消していたのに、誰が気付いただろうか?

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