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オリバー・スウィフト異世界にいく  作者: 六文字白魔
第一章 旅の始まり・草原の風
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影と歩む者

 「ああ~!超腹立つ!」


 「山田、いい加減にガラスをたたき割るの、止めろよ!」


 「いいじゃねえか、おれには、この」


 山田快人(かいと)は言い、鉄パイプで窓を割った。

 じっと集中してそれを見つめると、数分後、窓は元通りになった。


 「リペア、修理の才能があるんだから。

 にしても、塩ブタめ!」


 歯ぎしりしつつ、うろうろと歩きまわる。


 「あんな魔法、使いやがって!

 しかも、あれ以来全く、攻撃が当てられねえ!」


 「あいつら、昨日、馬車で出かけてったよ。

 ギルバートじじいの、召使の赤毛を連れて」


 遠藤は、食堂からくすねてきた骨付き肉を食いちぎっている。

 彼の頭は筋肉で出来ているので、何の肉だかは気にしない。


 「あいつをシメてみるか?

 塩ブタの弱点を探るために」


 「やめとけ、そんなことしたら、ここから出されるだけだ」


 山田が静止した。

 この男、非常に暴力的だが、後先のことも考えるずるさも持ち合わせているのだった。


 「おれの魔法・・・。

 治癒だけだなんて・・・」


 イケメン長沢が、がっくりと肩を落としている。

 心眼および、弱いながらも鑑定眼を持ち合わせている八田に、幾度となく見てもらったのだ。


 「おめえ、本当は弱虫なのかもな」


 八田は目を白く光らせ、歯をむき出して笑った。

 治癒魔法=弱いという、貧弱な思想の持ち主だ。


 「ヤクザの一人息子なんて、止めちまえばいいのに」


 「ここにいる間は、止められるかもな」


 長沢は、目をしょぼくれさせてつぶやいた。


 「そういや、北川がいねえな。

 あいつ、生きてたよなあ?」


 「昨日のゆんべから、見てねえぞ。

 おおかた、酒蔵でも見つけるつもりなんじゃね?」


 「それとも、女の部屋で、ムフフとか・・・」


 山田は、眉をしかめた。


 「くだらねえ。

 そこの、ションベン色の空を見てみろ!

 おれら好みの、まともな女なんかいるわけないだろ」


 しかし王宮のメイドたちは、彼らの中学の女子たちよりも、はるかに美人揃いだと、山田以外の四人は思った。


 「奴ら、冒険者ギルドに行ってたみたいだぜ!」

 

 突然声がこだまし、実は小心者の長沢は飛び上がった。

 すぐ隣に、北川(ひそか)が立っていた。

 浅黒い顔に、いやしい笑みを浮かべている。


 「冒険者ギルド?

 やつ、働くつもりなんだ!?」


 「笠原と小清水のオンナ二人連れて。

 あいつらも、鑑定してもらってみたいでよ、そろいもそろって、ダサい腕時計なんてつけてやがんの!」


 「もっと詳しく教えろ」


 山田は鬼の形相になり、北川を揺さぶった。


 「い、いてえよ、しゃべるから、そんなに肩をつかまないでくれよ!

 塩ブタ、あいつ、人間じゃないみたいなことを言われてた」


 「ブタだろ」


 遠藤が骨をなめつつ、うなずいた。


 「フハハ、そうじゃなくってさ。

 人間族が扱えない魔法を持ってるらしい。

 で、鍛えれば、国一番もしかして、今の時代で一番の風使いになれるって」


 「風使い?

 それって、そんなにすごいのか?」


 「強くなるかどうかは、塩ブタ次第だってさ」


 「で、あとの二人は?」


 「笠原と小清水は、まだレベル1のまま。

 笠原が防御術に長けていて、小清水が水魔法持ち。

 これから鍛えれば、どんどん伸びるって」


 「おれらも、ギルドで鑑定してもらうか?」


 長沢はもごもごと言った。

 この男、治癒魔法だけしか持ってないのを、そうとう気に病んでいるようだ。


 「それより、これで、遊びに行かないか?」


 北川は話をさえぎり、テーブルの上に、金貨をぶちまけた。

 20枚以上はあるだろう。

 山田の獰猛な目は、見開かれている。


 「お前・・・、これ、どこで手に入れた?」


 「さあね。

 でも、決して見つからないさ。

 おれのものになったんだ、みんなで楽しもうぜ。

 どうせ、ゲームの中なんだからよ」


 「火傷で苦しんだり、目の前で人が死ぬゲームが、どこにあるんだよ!」


 長沢はそううめくように言い、遠藤に思い切り殴られた。



               *****


 「塩村」


 オリバーが自室に戻る途中、女子が声をかけた。

 秋山しずかだ。

 その小さな顔は、仮面のように無表情で、なんの感情も表わしていない。


 「ここから出て行って」


 「は?」


 オリバーは首をかしげ、推定身長148センチのしずかを見た。

 この女もまた、いじめに関わっていたのか、と。


 「いじめじゃない。

 でもあんた、ここじゃ危ない」


 「何を言いたいんだ?」


 しずかは、周囲を見渡し、低い声を一層低くした。


 「あんたの部屋、入っていい?」



 「北川が、王宮の金貨を盗んでる」


 部屋に入るなり、彼女は言い始めた。


 「あいつは、シャドウ系のスキルをもらったみたいで。

 他人の目の前で、堂々と盗みを働くことができる。

 でも、あたしには効かない」


 オリバーは黙って彼女の話を聞いた。


 「あたしは、異種言語理解の他、シャドウブレイクの能力をもらった。

 だから、あいつの術に惑わされることはないの。

 それで・・・」


 北川が馬車に乗り込み、冒険者ギルドについて行ってしまったこと。

 オリバーを妬む、山田らがひそかに、事故に見せかけた暗殺計画を立てていること。

 しずかは意外なほどしゃべり、そして黙りこくった。


 「あたしは、金貨泥棒の罪を着せられ、近々、処刑される。

 でも、あんたはここから逃げて。

 この城には、闇がとりついてる!」

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