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オリバー・スウィフト異世界にいく  作者: 六文字白魔
第一章 旅の始まり・草原の風
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能ある鷹は爪を磨く

 すさまじい火炎攻撃。

 容赦ないかぎ爪攻撃。

 臓腑をえぐる、恐ろしい鳴き声。


 さすがの山田たちも、火炎を避けるのに精いっぱいだった。

 

 「笠原さん、先生をバスの下に避難させよう」


 だらしがなく伸びている担任教師を抱えつつ、オリバーは言った。


 「そ・・・そうだね、バスの中じゃあ、かえって危険だもんね。

 蒸し焼きになるかも・・・」


 「ひ、ひえぇ!」


 女子の数人が、火砕流に巻き込まれた。

 すさまじい断末魔と共に、その姿はかき消えてしまう。


 「ううっ、み、水は?

 水、水ぅ」

 

 小清水流美はうめき、狂気じみた絶叫と共に、両手を広げた。


 「あ・・・、アクア・ブレス!」


 そういうと、人間の頭大の水滴が勢いよく竜にぶつかる。

 魔物は、一瞬ひるんだように、口を閉ざした。

 その背後にまわり、一気に攻撃する、遠藤。


 「その調子だ、小清水!

 もっと頑張って!」


 水滴は弾丸のように連射され、周囲の火を消していく。


 「あ、危ない!」


 背を深々と刺されても死なない竜は、首をのばし、流美にファイアブレスをかけた。


 誰もが、彼女の死を覚悟した。


 しかし。


 「ルミ、大丈夫だよ!

 火の防衛なら、私に任せて!」


 百合絵が赤い結界を前方にめぐらせ、守っていたのだった。


 「わたし、もしかして結界魔法をもらったのかも」


 のっぽの八田は、目を白く光らせ、叫んだ。


 「見えた!

 この竜は、頭頂部が弱点だ!

 誰か、攻撃しろ!」


 「んなこと、簡単に言うんじゃねえ!」


 山田は怒鳴った。

 彼もまた、白く光る剣を操りつつ、竜に斬りつけているのだ。

 しかし、その四肢は、やけどで痛々しい。


 「笠原さん」


 オリバーは、百合絵に相談した。


 「おれが、あの竜の頭を攻撃する」


 「え!

 あんた、何も魔法持ってないんでしょ?

 殺されちゃうよ、近づいたら!」


 オリバーは、彼女が見たことのない笑みを見せた。


 「自信があるんだ。

 悪いけど、安藤先生のことも守ってほしいな。

 一応担任だからさ、何かあったら、胸糞悪い」

 

 百合絵が答える前に、オリバーは目前から消え去った。


 「お、おい、塩ブタ!

 何しやがる!」


 皆が悲鳴を上げ、阿鼻叫喚の場面。

 悪竜の頭頂斜め45度上に、オリバーは浮かんでいた。

 竜は炎を吐き、少年は余裕で避ける。

 彼は、地上から3メートルは軽く浮いていた。

 その両足は、緑色の風に包まれている。


 「遅い、遅すぎるぜ」


 彼は魔力でつくられた、緑色の弓を出現させた。

 光の矢が現れ、竜の頭のてっぺんを射抜いた。


 「ぎゃあっ、塩村!

 塩村!」


 男子も女子も、羨望とも嫉妬ともつかぬ声でわめき散らしている。


 その後、竜はプラグを抜かれたおもちゃのように倒れて死んだ。


 「あんちくしょうめ・・・」


 山田とその取り巻きたちは、憎々しげに塩ブタをにらみつけた。

 それを、学級委員長・一条は、目を細め、満足げにうなずいた。


 「塩ブタ!

 あんた、見直したたよぉ!」


 クラスの女王、上村サリナは、大げさに声を張り上げた。


 (なんだ、このサル女。

 いつも山田のいじめに加担して、給食に汚物を入れたくせに)


 オリバーは吐きたい気分だったが、黙ってうなずくだけにした。

 実は、上村をひそかにサリナでなく、サルナと心で評していたのだ。


 「あ・・・あの・・・。

 倒してくれて、ありがとうございます」


 小清水流美が、ぺこりとお辞儀をした。

 黒髪をまっすぐ背中で切りそろえた、清楚な和風美人だ。

 その様子に、サルナとその取り巻きたちが、ふん、と鼻を鳴らす。


 「バカみたい。

 少しぐらい、水鉄砲ができるからって、調子にのりやがって」


 「ブスルミ、ブスルミ」


 「焼かれちゃえばよかったのに」


 「あんたたち、頭がとれちゃったの?」


 百合絵が、危険に目を光らせている。


 (そういえば、笠原さんと小清水さんは、幼馴染だったな)


 「ルミが水魔法を使ってくれたから、草に燃え移った火をみんな消せたんでしょ!

 命の恩人に、なんてこと言うのよ!」


 サルナは目を吊り上げ、興奮したチンパンジーみたく歯をむき出した。


 「おまえに言ってんじゃねえよ、ダサ女!」


 「そうよそうよ!

 ブスルミを必死にかばっちゃって!

 もしかして、名前通り、百合ィ~?」


 「おえっ、きんもーい!」


 「きもい、きもい」


 女子のいじめを目の当たりにしたオリバーは、しかし、意を決して口を開いた。


 「上村さん。

 小清水さんと、笠原さんに、謝ってください」

 

 

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