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オリバー・スウィフト異世界にいく  作者: 六文字白魔
第二章 湿った温風と緑の空
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サークレットの秘密

 「おい、みんな、大丈夫か?

 目は見えるか?」


 覆面ザップは、声を張り上げた。


 「な、何とか無事です。

 セディ、平気か?」


 「うーん、ちかちかするけど、大丈夫でし」


 「私は、すぐに目をそらしたので、平気ですわ」


 オリバーは立ち上がり、伏せっているユリエとルミに声をかけた。


 「大丈夫?」


 「頭が痛くなるような光ね。

 うん、もう平気よ」


 「ユリエは・・・」


 セミロングの少女は、うずくまったままだ。

 ザップが駆け寄った。


 「ユリエ・・・?」


 反応がない。


 「どうしましたか、ユリエ様?

 まさか・・・」


 エルフのセラの唇が、わなわな震えた。


 「目が、見えないの」


 セミロングの少女は、起き上がり、顔を上げた。

 澄んだ茶色であるはずの瞳が、灰色に曇っている。


 「そ、そんな・・・!」


 セラは、視力回復の呪文を唱えた。

 しかし、効果がない。


 ユリエは、泣きはじめた。


 「ごめんね、ごめんね・・・」


 「どうして泣く?

 おまえには、何の落ち度もないだろう」


 ザップは彼女の肩をやさしく抱いた。


 「奴は、自爆して果てたようだ。

 まさか、強烈な閃光弾を使うとは、なんて卑劣な女だ」


 「早く街に戻ろう。

 ユリエの目、専門家に診せないと。

 ユリエ、おれとセラが両脇から支えるから、歩いてくれるか?」


 オリバーが青い顔で話しかけた。


 「じゃ、ここのボスが死んだ証拠を取るか・・・。

 なんだこれは!」


 ザップは声を張り上げた。


 「どうしましたの?」


 覆面オークは、黙って椅子の隣を指差した。


 「なんてこと・・・!

 これは、生身の人間ではなかったのですね!」


 セラは恐怖と怒りの声を出した。


 「あの・・・」


 セディは、おずおずと小声で話そうとするが、誰の耳にも入らない。


 椅子の隣にあったのは、黄ばんだ古い白骨死体だった。

 黒装束に、ルビーの付いたサークレットを身につけている。


 「たった今死んだ者ではないな。

 これは、幻術だったのか・・・」


 「死霊術かもしれません」


 ザップの言葉を、セラが締めくくった。


 「あの・・・。

 さっきの女、見覚えがあるでしゅ」


 セディが遠慮がちに言った。


 「あの女、をれの父親と最も親しい女にそっくりでし」


 「親しいって?

 まさか、この前話してくれた、アデルというお妾さん・・・?」


 セディは、遠慮がちにうなずいた。


 「それに、このサークレット・・・」


 そう言い、頭蓋骨からそれを取り上げた。


 「これは、をれの一番上の兄・リチャードの私兵が身につけているモノと同じでし。

 転移装置が付いているんだけど・・・」


 ルビーを、ぐりぐり回している。


 「さっきの爆発で、壊れているでしゅね。

 メルーカの職人を招聘(しょうへい)して、作らせたものでしゅ」


 「い、痛い・・・」


 ユリエは頭を押さえ、吐きはじめた。


 ザップはセディの話を遮るように、片手を上げた。


 「いかん!

 早く戻るぞ。

 犬耳小僧、あとでその話、詳しく聞かせてくれ」


 「ここの床、変な模様があるわ。

 水滴が描いてる!

 まさか、ここに何かがあるのかな?」


 言うが早いが、水属性魔法をぶつける。

 その部分の床は、ぱっくり割れ、地下へと続く階段が現れた。


 「探索したいのは分かるけど・・・。

 今はそれどころじゃない。

 ユリエは心配だから、戻るよ」


 オリバーは言い、ユリエを抱えた。


 「小僧、おれに任せろ」


 ザップは小声で言い、少女を軽々と抱えて、走った。



               *****


 「頭を打ったみたいですね」


 寝台に横になったユリエを診断し、ヒーラーは話した。

 紺色装束を着ている、青髪の人間の女性だ。


 「治りますか」


 ルミは心配のあまり顔をゆがませ、聞いた。

 

 青髪はうなずいた。


 「大丈夫ですよ。

 でも彼女、とても疲れているみたいですね。

 神経が・・・」


 「近視ってことですか?」


 ヒーラーは、眉を上げて困った顔をした。


 「キンシって、何のことですか?」


 「遠くのものが、見えにくくなることですが」


 オリバーは説明し、はっとした。

 

 (そういえば、ここに来る前に、メガネを落したんだった!

 メガネなしでも見えるようになったのは、どうしてだろう?)


 「オリバー様。

 目が見えにくくなったら、特殊な魔法で回復できますわ。

 外傷でも平気です」


 「そうね。

 そういえば、ここの世界、目を怪我している人は見かけないものね」


 ルミが納得した。

 

 「ただ、頭を打ってしまったら、見えなくなることがあります。

 そちらのほうが、視力回復まで時間がかかってしまうのです」


 「その通り」


 セラの説明に、ヒーラーはうなずいた。


 「ユリエさんは、動体視力をもっと鍛えるべきでしたね。

 だから、目が疲れやすいのでしょう。

 アオノミの錠剤を、一日三回服用してください。

 10日ほどで、完全回復しますよ」


 「と、10日もかかるんですか!」


 「外傷でも、目の病気でもありませんからね。

 頭を打った分、治りが遅いのです」


 ヒーラーは言い、薬を処方して退出した。

 

 「治るから、まあ安心ね」


 ユリエは横になったままつぶやいた。

 氷枕に頭を乗せ、清潔なタオルを両目の上に置いている。

 

 「本当にごめんね・・・」


 「ユリエ様が謝ることはありませんわ」


 セラは少女の手を握り、やさしく話した。


 「にしても、ルミの魔法で助かったよ。

 氷まで出してくれたなんて!」


 「技術が役立って、よかった・・・」


 ルミは、ユリエに毛布をかけた。


 「ユリエ、ここで休んでいてね。

 ギルドの屋根裏だから、安心よ。

 ユリエの視力が回復するまで、ここにいられるから。

 ・・・ザップさんが、ドンガさんに話をつけてくれたの」


 「女の子たちはここに入られるからね」


 オリバーは言った。


 「セディとおれは、宿に泊まるよ。

 さて、では、『青フクロウ』の人たちに、事の顛末を説明してくるね」


 「ごめんね、私が足を引っ張っちゃった」


 「ユリエ、もう謝らないで。

 おれなんか、ヴァンパイアになりかかって、それこそ迷惑かけまくっただろ?」


 「ユリエ様、あとでまた参りますので、お休みになってくださいね。

 あとで、いい物を持ってきますわ・・・」

 

 彼らは部屋の戸をそっと閉め、地下室へと向かった。



              *****


 「クエスト終了、ご苦労さま」


 女オークのスパークスが、壁にもたれかかり、満足の笑みを浮かべた。


 それを見て、エルフの少女は激高した。


 「なにが、ご苦労さまですって!

 恥知らずな女ね。

 この無理難題を押し付けて、自分たちは楽をしていて!

 ユリエ様がどうなったか、見せてさしあげたいわ。」


 スパークスの黄金の目が、おかしそうに細められた。


 「無理難題・・・かしら?

 でも、あなたたちは、無事にクリアしたわ。

 結構レベルアップしたでしょ?」


 「ああ、そういえば、ユリエとルミとおれは、3つくらい上がりました。

 セディとセラは、元が高めなんで、あまり上がっていない・・・」


 「ちょっと、オリバー様ぁ!」


 エルフは顔を赤くし、少年を軽く小突いた。

 

 「とにかく、です。

 私たちは、ユリエ様の容体が回復したらすぐに、この国から出ていきますわ。

 『青フクロウ』の方々とも、これでおさらば・・・」


 「あら、ヒベルニアに来るっていう話は?

 あと、モール・ウェイの魔女について、もっと聞きたいんだけれど」


 「セディ、父上の『いい人(ラバー)』は、死霊術の使い手なのか?」


 ザップの衝撃的な言葉に、犬耳王子は飛び上がった。


 「あの人については、全く知らないでしゅ。

 ただ、女官たちが、こうおしゃべりしているのを聞いたことがあるでし。

 アデルは、先代の王の姫君にそっくりだって・・・」


 「先代の王って、おまえさんの祖父だろう?」


 「違うでし」


 セディは赤っぽい金髪頭を横に振った。


 「チャールズ8世は、父上とは血がつながってないでし・・・」 

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