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オリバー・スウィフト異世界にいく  作者: 六文字白魔
第二章 湿った温風と緑の空
34/35

モール・ウェイの魔女

 「やっぱり来やがったな!」


 「な、何だ、おまえら。

 う、ウゲッ、ボフッ!」


 「フラタニティって、アホですわね」


 洞窟から出てきたならず者は、即座に戦闘不能に陥った。

 覆面した男があくびをし、エルフのセラがクスッと笑う。


 「お、お姉ちゃん!」


 アンジェは、栗色の髪のエルフに抱きついた。


 「信じてたニャ!

 絶対、助けに来てくれるって!」


 「アンジェ、みんなの前で感情をむき出しにするのは、はしたなくってよ」


 そういうセラの目にも、涙が溜まっている。


 「オリバー、ヘビの鱗と舌を少し、持っていったらどうだ?」


 覆面が少年に言った。


 「薬屋に売れば、いい値段になるぞ。

 もちろん、自分たちでポーションを制作するのにも使えるし・・・」


 少年は、その言葉をきかず、まずは泥だらけのヒナノを立ち上がらせた。


 「大丈夫?」


 「う、うぇーん!」


 ひきこもりは、再び泣き出した。

 当惑するオリバーに、リースルは言った。


 「泣き虫が喜んでるんだよ。

 ま、わちきらからも、お礼を言っとくよ。

 あんた、レイモーンの衛兵なの?」


 「いや、単なる冒険者だよ。

 それに、ここはレイモーンじゃない。

 ランゴヴァルト国なんだ。

 ここの隠し道を通って行けば、ガスベラス郊外の墓地にたどり着く。

 さあ、早く」


 「あとは、私らに任せてください。

 スパークス様の言いつけどおり、彼女らを保護しますんで」


 背後からついてきた紺色装束が、少女らをガスベラスまで送るという。

 オリバーはうなずいた。


 「じゃ、よろしくお願いします。

 おれとセラ、ザップさんは、モール・ウェイに向かいますから。

 ユリエたちが、途中で待っているはず・・・」


 「お、お姉ちゃん?」


 アンジェの目が、不安そうに開かれる。

 エルフの歌い手は、微笑し、話しかけた。


 「大丈夫よ、アンジェ。

 すぐ帰ってくるから。

 そうしたら、ずっと一緒にいられるわ・・・」



              *****


 「しーっ、ここから、奴らの様子がわかるでし」


 モールウェイのすぐそば、出っ張った岩の陰に隠れつつ、セディは話した。


 「ちょっと、敵が多すぎるでしゅね」


 「オリバーの魔法でふっ飛ばせば、簡単でしょ」


 ユリエはふくれっ面で言った。


 「いいなあ、全体攻撃出来る人は!

 私なんて、一人ずつしか倒せないから・・・」


 「でも、威力は大したものよね。

 私からしたら、とてもうらやましいわ。

 補助魔法もどきばかり、レベルアップしちゃって・・・」


 「ごめん、待たせた?」


 オリバーが現れた。

 背後から、覆面の男がついてくる。


 「待たせたか、悪いな。

 なにせ、大蛇の口をこじ開けてたから・・・」


 「話はあとで、でし。

 それより・・・」


 セディは、フラタニティの集団を指差した。


 「ざっと見た所、40人はいるでしゅ。

 どう攻めるのが、いいでしゅか?」


 「正面からは、ムリですわね。

 おや、ザップはそうしたがってるみたいですけど」


 「むむ、嫌味なエルフのお嬢さんだ。

 おれはそんな脳筋じゃないぜ。

 そうだな・・・。

 だれか、おとりになるか?」


 「おとり?

 誰が、でしゅか?」


 みんなの指先が、セディを指名した!



          *****


 「おい、おれの食べかけの菓子パン、どこへやった?」


 フラタニティのデブ男が、のっぺりした顔の男に怒鳴った。


 「は?

 知らねえよそんなの。

 おめえがさっき食っちまったんだろ。

 いつも、体動かさんで、口だけ動かしてるもんな」


 「おかしいな。

 確かに、ここに置いてたのに・・・」


 「お、そういや、ここに置いてた本もなくなってる!

 あれ、苦労して手に入れたんだぜ。

 誰だよ、かっぱらったのは!」


 「何の本?

 まさか、『処女・マリーチェの日常』かぁ?」


 「そのまさかだよぉ!」

 

 悪漢はくやしまぎれに、近くの樽を蹴っ飛ばした。

 

 (樽から、グエッと声が漏れる)


 「あれ、変な音がしたぞ?

 不審者か?」


 (チュウ、チュウ・・・)


 ならず者らは安心した。


 「ドブネズミかよ、驚かせやがって。

 あれ、今度は、ソフトチーズがなくなってる!」


 「チュ、チュウ・・・うまいでし。

 あ、ああっ」


 「なんだてめえは!」


 エロ本を抱え、口いっぱいに食べ物を詰め込んでいたセディは、思いっきり煙幕玉を破裂させた。


 パンパンパン!


 「侵入者だ!

 追え!」


 「わあい、捕まえられるものなら、捕まえろでし!」


 ならず者どもは大騒ぎし、視界不良の中を互いに衝突しながら追ってくる。


 「全然、全然!」


 セディは赤い舌を出し、戦利品を懐に詰めつつ、走り去ろうとした。


 「残念だな、バカモノ」


 極太の腕がにょきっと伸び、セディをつまみ上げた。


 「そ、そんな!

 離せでし!」


 巨大な悪漢は、笑った。


 「そりゃ、いけねえ。

 ボウズ、どこのモンだか知らねえが、ここで肉になってもらう」


 セディの目の前に、これまた巨大な戦闘斧が迫ってくる。


 「グァアッ!」


 悪漢は泡を吹き、地面に崩れ落ちた。

 背中に、緑色の矢が刺さっている。


 「お、オリバー!」


 「ありがとう、セディ。

 さ、みんなこちら側に渡ったから、あとは盛大に・・・」


 「オオオオオオ!!!

 ぶ、ブッキィ!!!」


 トルネードが、煙幕の中の悪漢・推定40人を直撃した。


 「よし、トルネード・カッター、レベル12になった!」


 「いつ見ても、残酷な結末でしゅね・・・」


 セディが、恐れとも驚嘆ともつかぬ声を上げる。


 「さて、先に進もう。

 右側の悪漢たちは、ザップさんたちが全員始末したからね。

 あとは、左の道をずっと通って、奥に攻め入る」


 「これ、あとで見るでし・・・」


 セディはにやにやしながら、戦利品の本を差し出した。


 「なんだこれ?」


 「よく分からないけど、やつらの秘蔵の品らしいでし。

 きっと、魔法の書かもしれないでしゅ・・・」



               *****


 「全体攻撃がうらやましいのか?」


 フラタニティ構成員5人を、まとめて斬りつつ、覆面ザップは言った。


 「はい。

 だって、私」


 ユリエは目の前の悪漢をなで切りしつつ、答えた。


 「こんなに効率が悪いから。

 囲まれたら、おしまい」


 「アクア・ポイズン!」


 ルミは、覚えたての魔法に満足している。


 「魔力の減りが早いわ。

 でも、全体攻撃って、覚えてよかった」


 「ほら、ルミも習得してるし。

 私だけだよ、役立たずは」


 「ユリエ、横に気をつけろ!」


 ザップは叫び、短刀をぶん投げた。

 それは、悪漢の首にぐさりと刺さり、男は倒れた。


 「よし、これで、80人か。

 もう一息だな」


 「本当は、私たち5人の仕事なんですよね」


 ルミは、灰色のまなざしで言った。


 「ザップさんがいなければ、絶対不可能よ、こんなクエスト!」


 覆面男は笑った。


 「まあ確かに、スパークスの依頼は、無茶なものが多いなあ。

 けれど、おれがついて行くことに、反対しなかっただろう?

 ああ見えて、優しい所もあるんだぜ」


 「この百人斬りが、優しいとおっしゃるの?」


 セラは、手に持った細剣を振り、血を落としてきれいにした。


 「大した妹さんですわね。

 これで、洗濯してお風呂に入らざるをえなくなりました。

 水のバカ高い、へぼべラスで!」


 「私、水を清められるよ。

 浴槽一杯ぶんなら、割と簡単に・・・」


 ルミは唐突に言った。

 ザップの目が、やや見開かれた。


 「魔法使いのお嬢ちゃん、それは秘密にしないとな」


 「秘密?

 どうしてですか?」


 「ここ、環境破壊の楽園・ランゴヴァルトでは、浄水師はほとんどいない。

 おまけに、人間は奴隷だと言ってはばからないお国柄だ。

 お嬢ちゃんは、いずれ、濡れ衣を着せられて犯罪者に仕立てられ、奴隷にされるかもしれない。

 命が尽きるまで、ひたすら、国の汚水を清める・・・。

 そんな人生、嫌だろう?」


 「ああ、確かに・・・」


 「ルミ、気をつけてね。

 何でもありの国だからさ」


 ユリエも心配そうに言う。


 「さっさと、この国から出ていくのが、一番です」


 セラは続けた。


 「土地を汚くするのは、そこに住む民の心も汚れているからですわ・・・」



 オリバーとザップたちは合流し、ついに最深部の広間にたどり着いた。


 「おやおや、どこのどなたかしら」


 艶っぽい声が響き渡り、中央の立派な椅子に、黒いフードマントをつけた者が座っていた。

 

 たった一人だ。

 フードを深くかぶっているため、顔は分からない。


 「覚悟するでし!」


 セディは金の斧を構え、叫んだ。


 仮面の者は、高笑いした。


 「まさか、本当にここに来れたとはね!

 ほめてさし上げましょう」


 「おまえなんかに、ほめられる覚えはありませんわ!」


 セラがキッとなって、言い返した。

 武器をしまい、両手に光の弾を出現させる。


 仮面の者は、黒いマントを脱いだ。

 黒装束に、ルビーの付いた銅製サークレット。

 若い女だ。

 セディの目が、狂気のように見開かれている。


 「ああっ!」


 ユリエとルミは、山田たちの装備を思い出し、叫んだ。


 「はじめまして、そしてさようなら。

 わたしは、モール・ウェイの魔女と言われていた者です」


 閃光がさく裂した。

一ヶ月間、毎日3000字程度を更新してきました。

とても大変だったけれど、楽しかったです。

これまで読んでくださった方々に、お礼を申し上げます。

これからも、よろしくお願いします。

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