沼地の救世主
「へえ、ここに手をかざすと、別の場所が映るんだ・・・」
「おい、壊すんじゃねえぞ。
貴重な戦利品なんだからな!」
「魔法道具だニャ。
初めて見たニョ」
逃亡中の少女らは、周囲に気を配りつつ、貝型の魔法道具をいじくっていた。
ヒナノの目が、異様に輝いている。
「これ、パソコンみたい!
文字は打てないみたいだけど
不思議な宝石が、キーボードの代わりについている。
あれ、白い光が出ちゃった」
「パソ・・・?
アナタの国、こんなのを使ってたのニャ?」
麻袋を被った少女が、ネコの尻尾をゆらゆらさせた。
ヒナノはうなずいた。
「とてもよく似てる。
たとえば、このボタン。
これと、銀のボタンを同時に押したら・・・」
「あ!
前に閉じ込められてた洞窟じゃねえか!
あの吸血鬼ヤロウ、けっこうイケメンだったよな!」
「え~!
男はダークヘアのほうが、かっこいいよぉ」
「しーっ、静かにするニャ。
この画面を見るニャ」
「こ、この人たち!
もしかして、救出に来たの!?」
魔法道具の鏡に映っていたのは、グリーンブロンドの少年や、黒髪の少女二人、犬耳の子供と、栗色の髪のエルフだった。
それぞれ手に、武器を握っている。
(あ、この人!
塩村くん・・・、だっけ?
どうして、あんな所に?)
ヒナノの心臓は、緊張のあまり高鳴っている。
場面は変わり、居残り組のごつい少女ら23人が、牢から解放され、喜んでいるシーンが映された。
「あのあと、こんなことが起きてたなんて」
見ていた少女のうちの一人が、ねたましげに声を上げた。
「お、お姉ちゃん!
お姉ちゃんニャ!」
「えーっ!!!
あんた、エルフなの!」
麻袋の言葉に、残りの6人が仰天した。
彼女はうなずき、ゆっくりと袋を脱いだ。
「げーっ!」
金髪の山賊娘は驚き、尻もちをついた。
彼女の横に立っているのは、まぎれもないエルフだった。
年のころは、12、3くらい。
身長は小柄で、150㎝くらいだろうか。
さらさらのオレンジ色の髪は、ツインテール。
白いリボンで結んでいる。
風切り羽のようなエルフ耳がみえる。
目は、イエローグリーンで、きらきらと輝いていた。
ネコの尻尾が、リズミカルに動いている。
「エ、エルフ?
獣人?」
赤毛はうなずき、麻袋を拾った。
「どっちもニャ。
ダディがネコ族の獣人で、ママンがダークエルフだった。
2人とも、ドラゴンが襲ってきたときに、死んじゃったけどね」
「まあともかく、名前を名乗り合おうぜ。
わちきは、リースル」
「わたい、アンジェラっていうニャ。
アンジェと呼んでニョ」
「グリン」
「イーロニャ」
「リヴァーサ」
「ヴィクトリア」
彼女らは、最後の一人に注目した。
異世界から来た少女は、もじもじとしつつも、自己紹介した。
「ヒナノっていいます。
アッシュクリフ近郊の、ゲーンズ農場で働いてます」
「へえ、割としっかりしているんだ」
「服装以外はね。
そこの農場、ケチだな~。
そんな、ジャガイモ袋みたいな、男物の服を支給するなんて」
「・・・。
・・・」
ヒナノは黙った。
おしゃべりは苦手だ。
「おい、もうここからずらかろうぜ。
バカが追いかけてきたら、困るからよ」
金髪のリースルが、荒っぽく言った。
「あんたも、ズボンが落っこちないようにしな。
こんな所で、ケツを見せてもしょうがないだろう」
「・・・。
・・・」
ヒナノは魔法道具をしまい、どんよりした目をしつつも、先を急いだ。
川に沿って歩いて行くのだ。
*****
「あれ、迷っちゃったニャあ~!」
アンジェは叫び、戸惑ったようにきょろきょろしている。
「おかしいな。
川に沿って歩ったところが、こんな汚い沼地かよ?」
「ねえ、ここ、どこか知ってる?」
「知ってるわけないでしょ!
だいたいここ、レイモーン国ですらないわよ。
うちの国が、こんなに蒸し暑いわけない」
「ん?
これ、変な光が出っぱなしだ・・・」
ヒナノは、パソコンもどきの側面から、まだ白い光が発せられているのに気付いた。
「壊したんじゃないだろうな?」
乱暴なリースルがすごむ。
「ううん。
でもさっき、いじくってるときに、ここのボタンを押して、助けてくれって小声で言ったんだけど」
「それって、壊したんじゃねえか!」
「リースル、落ち着いてよ。
メルーカ製のものは、そんなことじゃ、壊れないよ。
なにせ、トップメーカーだもん」
ブランド好きらしい、ヴィクトリアがなだめた。
「でもよ、この女、すごい怪力じゃねえか。
モノを壊す能力が、あるんじゃないのか?」
「あたし、魔法持ってないよ」
「じゃあ、どうして、檻をこじ開けたの?」
「知らないよ、そんなの・・・」
ヒナノは目をしぱしぱさせた。
「ったく、あんた、泣き虫だな。
一体どこの国の者だよ?」
ヒナノが口を開きかけた時だった。
遠くから、雷が轟くような音が聞こえた。
「嵐が来る・・・?」
「まさか、こんなに天気がいいじゃないの」
ぶくぶく・・・。
ぶくぶく・・・。
背後の沼から、大きな水泡が出現した。
少女らは振り向いた。
そこには、巨大な大蛇が鎌首を持ち上げ、しゅうしゅうと威嚇していた!
「逃げろォ!」
リースルは叫び、6人の少女らはそれに従った。
大蛇は、真珠色の目をきらめかせ、のろのろと追ってくる。
その太さは、成人の胴体5人分ほどで、長さは4メートル以上あるようだ。
「そ、そこのくぼみ?
いや、洞窟に入るぞ!
すぐに横に曲がれ!
動物は、急に曲がれないから!」
少女らはそれに従った。
が、ヒナノはぬかるみに足をとられ、思いっきり転倒する。
「ひ、ひゃあ!」
彼女はしわがれた声を出し、目の前に迫ってくるボアを避けようと、ばたばたする。
爬虫類は、久しぶりの餌に喜び、丸飲みしようと、大きく口を開いた。
「まあ、これを食らっておけ」
男の声がこだまし、大蛇の舌に、両手剣が突き刺さった。
ヘビは苦痛のためのけぞり、怒りとともに、新参者めがけて突進しようとした。
「レベルアップしてほしいなあ」
少年の声と共に、真空の刃が魔物を直撃した。
グリーンブロンドの少年が、ぐったりしたヘビの隣に浮かんでいる。
「こんなところに、ショートカットがあるなんてね」
「し、塩村くん・・・!?」
ヒナノが、上ずった声を上げると、少年は振り向いた。
エメラルド色の目が、いぶかしげに細められている。
「ああ、きみが中島さんだね。
よかった、無事で」
そう言い、すーっと地面に着地した。
ヒナノの目には、涙があふれた。




