青フクロウ、現れる
ここは、ガスベラスのギルドの地下部屋。
青肌オークのザップは、オリバーらを手招きし、中に招き入れた。
すぐに鍵を閉める。
「ちょっと!
私たちを閉じ込めて、何するつもり?」
ユリエは顔を赤くし、ザップに抗議した。
「しーっ。
聞こえちゃまずいから、ここに呼んだのよ」
部屋の奥にいたのは、4人の紺色装束だった。
同色の頭巾をかぶり、布で顔を覆っている。
「ごめんね。
でも、だますつもりはないから、ちょっと我慢してくれるかしら?」
声の主は、顔を覆っていた布と頭巾を取った。
ほっそりした、非常に整った女性の顔が現れる。
それは、青肌のオーク女性だった。
背は170㎝くらいで、オーク族の中では、非常に小柄だ。
身体もきゃしゃなほうで、人間の女性と変わらない。
目も人間同様白目がある。黄金色で、瞳孔はまるい。
髪は編んで後ろに垂らしており、きれいなプラチナブロンドだった。
(・・・!
脅威だ、女の敵だ!)
人間の少女らはそう思い、ゲームで培ったオーク観を否定した。
それほどの美貌だった。
「どういうことか、説明してくれでしゅ」
「あなたたちだったら、大丈夫そうね。
わたしたちは、『青フクロウ』よ。
聞いたことはないでしょう?」
「『青フクロウ』・・・?」
「ヒベルニア王国の、秘密諜報組織なの。
一般人は、知らなくて当然よ」
「国家スパイなんだね」
オリバーは納得した。
「ザップさんもなんだ。
で、『島フクロウ』の人が、おれたちにどうしたの?」
「『青フクロウ』だってば。
まあ、いいわ」
美人オークは続けた。
「ここにいるザップから、不法な人身売買について聞いたの。
ああ、彼は、わたしの双子の兄よ。
ここで冒険者をしつつ、組織の活動をしていてね・・・」
「そうですか。
で、不法な人身売買について、なにか知りたいんですか?」
聡明なルミが、落ち着いた様子でたずねた。
「ダーク・フラタニティの活動を、阻止してほしいの。
私たち『青フクロウ』は、顔が知られているから、潜入捜査ができなくってね・・・」
「おれは大丈夫だと思うぜ。
やるときぁ、いつも覆面をしているからな」
ザップが壁に寄りかかり、腕組みしつつ言った。
「へえ、兄さんにしては、用意がいいわね。
本当は、あなたたちのような、年端の行かない子供に頼むのは、気が引けるんだけど。
フラタニティを殺ったって聞いて、相当な実力を持っていると、確信したわ」
「誰からきいたでしゅか?
その話」
セディは、疑わしそうに聞いた。
美人オークは、ふふっと笑う。
「ヒベルニアの諜報機関を、甘く見ちゃだめよ。
今は、それしか言えないけどね」
「もし、断ったら・・・?」
ユリエが挑戦するようにきいた。
「あなたたちの不利益になるだけでしょうね。
フラタニティにさらわれた少女らは、焼きごてを押され、頭に毒蔓を巻かれて、廃人にされる。
スレイヴ・アイヴィは、個体が死ぬまで寄生するからね。
誰も取ることはできないのよ。
そして・・・」
「ニセの焼きごてであることが分かり、ヒベルニアに非難が集中する。
最悪の場合、また戦争だ。
そうすりゃ、冒険者も仕事がなくなる」
紺装束の一人が、つぶやいた。
「?
どうして、ヒベルニアって分かるの?」
「奴隷にされるのは、オークとエルフ、獣人以外の種族の者。
かつ、重篤な犯罪を犯した者。
おもな供給先は、ヒベルニア国とレイモーン国、そして東方シルヴァン地方の諸公国・・・。
額に、大きな錨の焼き印を押すの」
「か、顔に焼きごてを押すの!」
ユリエがおびえた声を出す。
オーク女性はうなずいた。
「奴隷だからね。
ところが、別の形の印が押されていたら・・・?」
「奴隷用の焼きごては、国家管理で、決して贋作が作れないような魔法が施してある。
盗まれることはない。
しかし、先日、レイモーン国の鍛冶屋が逮捕されてな」
ザップが話をした。
「レイモーンとランゴヴァルトの国境の街・エレーミャの鍛冶屋だ。
やつが、精巧なこてを制作し、フラタニティのメンバーに売った。
メンバーの男を摘発し、拷問にかけ、どろを吐かせた。
やつら目的は、ずばり、レイモーンによるヒベルニアの揺さぶり。
レイモーンのお偉いさんに、依頼されたってな。
フラタニティのおとりが、ヒベルニアの仕業だと、奴隷市で嘘の噂を大々的に流す予定だった。
今、ここランゴヴァルトでは、反ヒベルニア感情が高まっているから、大変なことになる。
だから、急がないと。
少女らの顔に、焼き印がつくのも、時間の問題だ」
「そ、そんな!」
エルフのセラが、真っ青になって叫んだ。
「わたしたちは、ランゴヴァルト国内の、フラタニティのアジトを把握している。
彼らがレイモーンから来るとなると、使用するのは、モール・ウェイの支部ね。
そこに行って、連中を消去してほしいの。
やってくれるわよね?」
「消去・・・っすか?」
オリバーは呆れ、目の前の美女をじっと見た。
「ザップの言葉、本当でしゅね。
オークの女性、美人さんでもこわいでしゅ」
「聞こえてるわよ、セディ。
いや、セオドア王子・・・」
オリバーの耳に、こそこそささやいていたセディは、飛び上がった。
「どうして知ってるでしゅか?
まさか、をれを暗殺しようと・・・」
「王子様、敵の敵は味方っていう言葉、覚えていてね。
暗殺対象に、こんな仕事を頼むわけないでしょう?
・・・ふふっ、ほめてくれたから、教えちゃうわ。
実は、ヒベルニアは、あなた方を招こうとしているのよ。
フラタニティに関する仕事を終えた後でね」
「スパークス、おかしな魔道波をキャッチしたぞ」
紺色装束の男が、持っていたコンパクトを開き、ささやいた。
「あれ、化粧道具じゃないのね」
ユリエは仲間たちにささやき、フフフと笑った。
「魔法道具の一種でしゅ。
リエゾン・マシンとかっていうでし。
残念ながら、レイモーン国内では普及してないけど」
コンパクトを持った男は、それに耳を当て、眉をひそめている。
「おかしいな。
波動が、男のものじゃない。
人間の少女みたいだ」
「やつらの罠かもしれない。
フラタニティは、こすっからいからな。
少女を脅して協力させ、かく乱しているのかもしれない」
ザップは口を曲げ、言った。
コンパクトの男は、意識を集中させている。
彼の身体からは、青いオーラが立ち込め、3秒後に、それは消え去った。
「フラタニティじゃない。
さらわれた少女らが七人、エレーミャの街から西に30キロの地点で、助けを求めている」
「アンジェたちが!?」
セラは、いつになくあわてた。
「すぐに出発しないと!」
「情報、確かですか?」
ルミは怖い顔で、コンパクトの男に問い詰めた。
「これを渡す。
今の魔道波は、白。
白い光が導くほうに、まっすぐ行ってくれ。
そうすれば、おれの言葉が真実だと分かるだろう。
とらわれた子たちにも、会えるよ」
「待って!
フラタニティと、一戦交えることになるでしょうね。
覚悟はいい?
あと、モール・ウェイのことは、引き受けてくれる?」
青美人のスパークスは、強い口調できいた。
「引き受けます。
ただ、女子たちの身の安全を、保証してくれますか?」
オリバーの言葉に、スパークスはうなずいた。
彼らは、固く握手を交わした。




