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オリバー・スウィフト異世界にいく  作者: 六文字白魔
第二章 湿った温風と緑の空
32/35

青フクロウ、現れる

 ここは、ガスベラスのギルドの地下部屋。

 青肌オークのザップは、オリバーらを手招きし、中に招き入れた。

 すぐに鍵を閉める。


 「ちょっと!

 私たちを閉じ込めて、何するつもり?」


 ユリエは顔を赤くし、ザップに抗議した。


 「しーっ。

 聞こえちゃまずいから、ここに呼んだのよ」


 部屋の奥にいたのは、4人の紺色装束だった。

 同色の頭巾をかぶり、布で顔を覆っている。


 「ごめんね。

 でも、だますつもりはないから、ちょっと我慢してくれるかしら?」


 声の主は、顔を覆っていた布と頭巾を取った。

 ほっそりした、非常に整った女性の顔が現れる。


 それは、青肌のオーク女性だった。

 背は170㎝くらいで、オーク族の中では、非常に小柄だ。

 身体もきゃしゃなほうで、人間の女性と変わらない。

 目も人間同様白目がある。黄金色で、瞳孔はまるい。

 髪は編んで後ろに垂らしており、きれいなプラチナブロンドだった。

 

 (・・・!

 脅威だ、女の敵だ!)


 人間の少女らはそう思い、ゲームで培ったオーク観を否定した。

 それほどの美貌だった。


 「どういうことか、説明してくれでしゅ」


 「あなたたちだったら、大丈夫そうね。

 わたしたちは、『青フクロウ』よ。

 聞いたことはないでしょう?」


 「『青フクロウ』・・・?」


 「ヒベルニア王国の、秘密諜報組織なの。

 一般人は、知らなくて当然よ」


 「国家スパイなんだね」


 オリバーは納得した。


 「ザップさんもなんだ。

 で、『島フクロウ』の人が、おれたちにどうしたの?」


 「『青フクロウ』だってば。

 まあ、いいわ」


 美人オークは続けた。


 「ここにいるザップから、不法な人身売買について聞いたの。

 ああ、彼は、わたしの双子の兄よ。

 ここで冒険者をしつつ、組織の活動をしていてね・・・」


 「そうですか。

 で、不法な人身売買について、なにか知りたいんですか?」


 聡明なルミが、落ち着いた様子でたずねた。


 「ダーク・フラタニティの活動を、阻止してほしいの。

 私たち『青フクロウ』は、顔が知られているから、潜入捜査ができなくってね・・・」


 「おれは大丈夫だと思うぜ。

 やるときぁ、いつも覆面をしているからな」


 ザップが壁に寄りかかり、腕組みしつつ言った。


 「へえ、兄さんにしては、用意がいいわね。

 本当は、あなたたちのような、年端(としは)の行かない子供に頼むのは、気が引けるんだけど。

 フラタニティを()ったって聞いて、相当な実力を持っていると、確信したわ」


 「誰からきいたでしゅか?

 その話」


 セディは、疑わしそうに聞いた。

 美人オークは、ふふっと笑う。


 「ヒベルニアの諜報機関を、甘く見ちゃだめよ。

 今は、それしか言えないけどね」


 「もし、断ったら・・・?」


 ユリエが挑戦するようにきいた。


 「あなたたちの不利益になるだけでしょうね。

 フラタニティにさらわれた少女らは、焼きごてを押され、頭に毒蔓を巻かれて、廃人にされる。

 スレイヴ・アイヴィは、個体が死ぬまで寄生するからね。

 誰も取ることはできないのよ。

 そして・・・」


 「ニセの焼きごてであることが分かり、ヒベルニアに非難が集中する。

 最悪の場合、また戦争だ。

 そうすりゃ、冒険者も仕事がなくなる」


 紺装束の一人が、つぶやいた。


 「?

 どうして、ヒベルニアって分かるの?」


 「奴隷にされるのは、オークとエルフ、獣人以外の種族の者。

 かつ、重篤な犯罪を犯した者。

 おもな供給先は、ヒベルニア国とレイモーン国、そして東方シルヴァン地方の諸公国・・・。

 額に、大きな(いかり)の焼き印を押すの」


 「か、顔に焼きごてを押すの!」


 ユリエがおびえた声を出す。

 オーク女性はうなずいた。


 「奴隷だからね。

 ところが、別の形の印が押されていたら・・・?」


 「奴隷用の焼きごては、国家管理で、決して贋作が作れないような魔法が施してある。

 盗まれることはない。

 しかし、先日、レイモーン国の鍛冶屋が逮捕されてな」


 ザップが話をした。


 「レイモーンとランゴヴァルトの国境の街・エレーミャの鍛冶屋だ。

 やつが、精巧なこてを制作し、フラタニティのメンバーに売った。

 メンバーの男を摘発し、拷問にかけ、どろを吐かせた。

 やつら目的は、ずばり、レイモーンによるヒベルニアの揺さぶり。

 レイモーンのお偉いさんに、依頼されたってな。

 フラタニティのおとりが、ヒベルニアの仕業だと、奴隷市で嘘の噂を大々的に流す予定だった。

 今、ここランゴヴァルトでは、反ヒベルニア感情が高まっているから、大変なことになる。

 だから、急がないと。

 少女らの顔に、焼き印がつくのも、時間の問題だ」


 「そ、そんな!」


 エルフのセラが、真っ青になって叫んだ。


 「わたしたちは、ランゴヴァルト国内の、フラタニティのアジトを把握している。

 彼らがレイモーンから来るとなると、使用するのは、モール・ウェイの支部ね。

 そこに行って、連中を消去してほしいの。

 やってくれるわよね?」


 「消去・・・っすか?」


 オリバーは呆れ、目の前の美女をじっと見た。


 「ザップの言葉、本当でしゅね。

 オークの女性、美人さんでもこわいでしゅ」


 「聞こえてるわよ、セディ。

 いや、セオドア王子・・・」


 オリバーの耳に、こそこそささやいていたセディは、飛び上がった。


 「どうして知ってるでしゅか?

 まさか、をれを暗殺しようと・・・」


 「王子様、敵の敵は味方っていう言葉、覚えていてね。

 暗殺対象に、こんな仕事を頼むわけないでしょう?

 ・・・ふふっ、ほめてくれたから、教えちゃうわ。

 実は、ヒベルニアは、あなた方を招こうとしているのよ。

 フラタニティに関する仕事を終えた後でね」


 「スパークス、おかしな魔道波をキャッチしたぞ」


 紺色装束の男が、持っていたコンパクトを開き、ささやいた。


 「あれ、化粧道具じゃないのね」


 ユリエは仲間たちにささやき、フフフと笑った。


 「魔法道具の一種でしゅ。

 リエゾン・マシンとかっていうでし。

 残念ながら、レイモーン国内では普及してないけど」


 コンパクトを持った男は、それに耳を当て、眉をひそめている。


 「おかしいな。

 波動が、男のものじゃない。

 人間の少女みたいだ」


 「やつらの罠かもしれない。

 フラタニティは、こすっからいからな。

 少女を脅して協力させ、かく乱しているのかもしれない」


 ザップは口を曲げ、言った。


 コンパクトの男は、意識を集中させている。

 彼の身体からは、青いオーラが立ち込め、3秒後に、それは消え去った。


 「フラタニティじゃない。

 さらわれた少女らが七人、エレーミャの街から西に30キロの地点で、助けを求めている」


 「アンジェたちが!?」


 セラは、いつになくあわてた。


 「すぐに出発しないと!」


 「情報、確かですか?」


 ルミは怖い顔で、コンパクトの男に問い詰めた。


 「これを渡す。

 今の魔道波は、白。

 白い光が導くほうに、まっすぐ行ってくれ。

 そうすれば、おれの言葉が真実だと分かるだろう。

 とらわれた子たちにも、会えるよ」


 「待って!

 フラタニティと、一戦交えることになるでしょうね。

 覚悟はいい?

 あと、モール・ウェイのことは、引き受けてくれる?」


 青美人のスパークスは、強い口調できいた。


 「引き受けます。

 ただ、女子たちの身の安全を、保証してくれますか?」


 オリバーの言葉に、スパークスはうなずいた。


 彼らは、固く握手を交わした。  

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