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オリバー・スウィフト異世界にいく  作者: 六文字白魔
第二章 湿った温風と緑の空
30/35

節約と物欲の関係

 「ガスベラス。

 商業とカジノの街、かぁ」


 オリバーはつぶやき、ショーウィンドーに飾られた、魔法道具を眺めた。

 

 「一番安くて、値段9500モル。

 とてもじゃないけど、手が出ない」


 「パンも一本、130モルだし!

 ちょっと生活費が高すぎるよね」


 ユリエもうなずいた。

 

 「どうする?

 かなり節約しないと、目減りしちゃうよ」


 「とりあえず、働くでし。

 あとは、外食をしない、とか」


 「余計なものを、買わないようにするわ。

 でも、アッシュクリフと比べて、モノが豊富よね~」


 ルミは、きょろきょろと周囲を見渡し、金持ちのオーク夫人を見て、ため息をついた。

 夫人は、白絹のドレスに同色の扇子を持ち、黒髪を金の紐でまとめ、大きな豪華な馬車に乗り込むところだった。


 「全然大したことない、ですわ。

 なにせ、野蛮なオークの街ですもの」


 エルフのセラは不平を言い、小さな口をへの字に曲げた。


 「アンジェを見つけたら、すぐに出ていきましょう!

 こんな所、二度と来るもんですか。

 どうせ、変なことして儲けてんですわ。

 ちょっと豪華だからって、何がうらやましいのでしょう?」


 「も、もちろん、その通りにするよ。

 生活が持たないからね」


 (エルフとオークって、やっぱり仲が悪いんだな)


 オリバーはそう思い、エルフの整った横顔を見つめた。


 (そういえば、セラっていくつくらいなんだろう?)


 「ちょっと、ルミ!

 あれ、見てよ」


 ユリエは興奮した声で叫び、向かい側の店を指差した。

 

 「ああ、一口でいいから・・・。

 食べたい!」


 「神様お願い!」


 それは、菓子屋(パティスリー)だった。

 白ペイントに、金のツタ模様を施した、しゃれたデザインだ。

 ショーウィンドーには、クリームたっぷりのケーキや、色とりどりのマカロンが飾られている。


 「あらら、食文化は、オークの圧勝みたいね。

 アッシュクリフでは、こんなの見たことがないわ」


 「仕方ないでし。

 レイモーン国では、砂糖がほぼ手に入らないでし。

 甘味は、遠くアールヴハイムから来る樹蜜か、蜂蜜だけでしゅから」


 ユリエの何気ない一言に、セディは反論した。


 (やっぱり、生まれ故郷が一番だと思ってるのね)


 セミロングの少女はそう思い、素朴な帽子を脱いだ。


 「まあ、ともかく、ここ暑いわ。

 アッシュクリフの涼しい気候が、懐かしくなっちゃった。

 セディの教えてくれた魔法、大活躍だね!」


 犬耳王子の青い目が、きらっと輝いた。


 「ラバンドルでしゅね。

 あれさえあれば、皮脂と垢、埃がとり除けるでし」


 「酷い汚れは、洗わないとダメですわ。

 泥とか、血液とかは・・・。

 でも、やっぱり、バスタブに浸かるのが一番ですわね」


 「そっかあ。

 ここって、お風呂屋とかあるのかな?」


 セラは嫌な顔をしつつ、答えた。


 「ありませんわ。

 だって、オークに入浴の習慣がないのですから」


 ルミは、鼻を押さえた。


 「お風呂に入らないの?

 汚い、くさい!」


 「使える水が、足りないんでしゅよ」


 「だって、来る途中、大河が見えたわ!

 そこから水道を引っ張って・・・」


 セディは首を振った。


 「水質が悪くて、使えないんでしゅ。

 たぶん、長く浸かったら、皮膚炎になるでしゅね」


 「どうして?」


 「水質管理がなされてないんでしゅ。

 気付かなかったでしか?

 青臭いにおいが漂っていたでし」


 「金、金で、肝心な環境対策まで手が回らないのね」


 ぼそっとルミが締めくくった。

 エルフがうなずく。


 「その通りですわ。

 金メッキが施された、劣化鉄みたいなものです。

 やがて、メッキがはがれたら、どんなふうになるか・・・」



               *****


 「ここ、絶対住みにくいわ」


 木賃宿の地下一階で、ルミは不満をぶちまけた。


 「宿の値段が、アッシュクリフの2倍だなんて。

 食費も高い、飲料水も高い。

 嫌になるわ」


 「そりゃ、ルミ、あんたが、アレを買っちゃったから・・・」


 ユリエはぼそっとつぶやき、親友を横目で見た。


 ついでもって、木賃宿の地下室は、格安である。

 五人一部屋10モルという、破格の安さだ。

 しかし、治安が悪く、おまけにシックマウスまで出現する可能性がある。

 男女別室を提案するオリバーを説得するのは、簡単でない。

 しかし、安全上仕方がなかった。


 「高かったけど、絶対に役に立つはず。

 本当は、サトウキビの苗を買いたかったんだけど」


 「サトウキビは、レイモーン国に持ちこみ禁止でし。

 見つかったら、金貨3枚の罰金でしゅ」


 板きれで築いたバリケードの向こうから、犬耳王子の声がした。

 狭い部屋を、二つに分けて、寝ているのだ。


 ナップサックを撫でつつ、ルミは言った。


 「コショウにナツメグ、ニンニク、ショウガ。

 バニラにシナモン・・・。

 覚えたての魔法・グリーンサムを試すの。

 肉料理の幅が広がるわ」


 「砂糖があればね・・・。

 セディ、どうして、レイモーンは砂糖を輸入しないの?」


 オリバーは不思議そうに聞いた。


 「ランゴヴァルトは、もとはレイモーン国の属領だったでし。

 でも、70年前、レイモーンはヒベルニアと戦争して、負けたでし。

 その際、ランゴヴァルトは独立して、ヒベルニアの影響下に入ったでしゅ」


 「経済制裁されているんだね」


 「ううん、経済制裁をしているんでしゅよ、レイモーンが。

 砂糖で潤っている国だから、レイモーン国民の消費が落ちると、かなり収益にダメージがあるのでしゅ」


 「へえ、レイモーンに依存してたんだ。

 じゃ、セディの国の人は、もともとはかなりの甘党だったのね」


 ユリエは納得した。


 「政治の問題とはいえ、甘味料が手に入りづらくなったなんて。

 国民がかわいそうね。

 菓子職人は、みんな失業、か」


 「ね、セディ。

 ランゴヴァルトは、ヒベルニアに砂糖を輸出していないの?」


 ルミは質問しつつ、古文書に目を通し始めた。

 魔法の勉強を欠かさないのだ。


 「さあ、ヒベルニアについて、をれは知らないことが多いでし。

 あそこは大国で、魔法立国。

 金にこすっからく、うちの国はさんざんな目にあったでし。

 今度行ってみるでしゅか?」


 「ルミ様、買ったその種、どこに植えるおつもり?」


 エルフのセラが、具体的なことを聞いてきた。


 「土地が手に入ればいいのだけれど・・・。

 当面はムリだわ。

 でも、種だけ用意しているの。

 他の街では、手に入らない種類だろうから。

 お金をためて、いつか、土地を借りるなり買うなりできればいいな。

 特殊な魔法を施してあるから、50年間このままでも、発芽率に問題はないらしいわ。

 魔法に感謝ね」


 「シュガービート」


 ぼそりと、オリバーはつぶやいた。


 「え?」


 「ううん、何でもない。

 もしかして・・・、って思ったんだ。

 もう寝よう。

 明日の朝、ザップさんとギルドで待ち合わせだからね。

 フラタニティの連中の動きを、調べているらしいから。

 事前に、解放できるといいんだけど。

 そうだ、ユリエとルミに聞かなきゃいけない」


 彼は、がばっと上半身を起こした。


 「中島・・・ヒナノさん、だっけ?

 彼女って、どんな人なの?」


 「ええっ?」


 「あれ?」


 彼女らは同時に声を上げた。


 「おれ、クラスの女子に嫌われてたからさ。

 あまり、誰さんがどうのこうのって、知らないんだよね。

 どんな子なの?」


 「実は、私も知らないの」


 ユリエは言った。


 「ルミは?」


 「小学校6年の時、同じクラスだったわ。

 顔と名前は知ってるけど、性格は分からない。

 お話したことないし、彼女、中学に入ってから、一度も登校していないみたいね」


 「ええっ!」


 オリバーのエメラルド色の目が、瞬時に大きく開かれた。


 「ひきこもりなの、中島さん。

 たまたま宿泊学習に来た時に、転移しちゃったのね」

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