悪竜襲撃
「起きて!
起きてってば、塩村!」
悲鳴のような少女の声がして、オリバーはやや乱暴に揺すられた。
「ううっ・・・。
ここは?
あっ、笠原さん」
「よかった、生きてて。
何かあったら、PTAがうるさいからね」
「あんた・・・。
塩村、だよね?
どうしてそんなに・・・」
目が覚めたオリバーの目の前には、目のふちを赤くした笠原百合絵がいた。
隣には、三十路顔に化粧を塗ったくった安藤先生が、呆然としている。
いまだはっきりしない頭のまま、オリバーは先生の手鏡を見せてもらった。
「これって、誰?
おれなの?」
「ばかね、私に聞いてもわからないよ、そんなの」
そこに映っていたのは、緑色がかった金髪にエメラルドの瞳をした、色白の少年だった。
耳が葉っぱのように尖っている。
まるで、某指輪物語のエルフの耳のような形。
・・・まだ太っているのが、唯一の難点だ。
しかし。
(きっと、もっとよくなるだろうな)
なにせ、ここは異世界・モルガニウム。
食糧がスムーズに手に入るとは、限らない。
日本にいた時とは比べ物にならないほど、体を動かすだろう。
百合絵は、だまされたような顔をしつつも、持っていた緑色のカーディガンで、オリバーの耳を隠してくれた。
「山田たちに見つからないように。
あいつら、また、どんな悪さをしてくるかわからないから・・・」
「おれらが何だって?」
彼らの背後には、ぼろぼろの制服をまとった不良が五人、鬼の形相で突っ立っていた。
山田が手にしているのは、翼ある白い毛皮で、まだ生温かい血が滴っている。
「あなたたち、こんな危険な場所で、勝手な行動はいけないよ!」
「うるせえ、ババア!」
山田はいまだとばかりに、安藤先生に鉄拳を食らわした。
先生はみぞおちを抑え、動かなくなった。
おーっという、クラスの生徒たちの声。
山田は、朗々とした声を響かせた。
「おい、てめえら、よく聴きやがれ。
おれたちは、この薄汚ねぇ場所がどこなのか、調査していた。
すると、こいつが」
といい、持っていた毛皮を前方にぶん投げた。
「襲いかかってきた。
見ての通り、白い羽有りの化け物だ。
顔が、ヒョウに似ていて、角が一本生えていたんだがなあ」
「おれが、首を切り落としたんだぜぇ」
自慢げに遠藤が続けた。
「だけんど、杉田がやられちまった。
で、おれもやられそうになった時・・・」
筋肉肥大したごつい両腕が、巨大な刃に変わった。
そして、しばらくすると、再び人体に戻っていく。
「魔法だ、魔法なんだ」
いじめっ子の一人、イケメンの長沢がうめくように言った。
「信じられないかもしれないが、事実だった。
おれには、癒しの能力がある。
山田の脛の傷に手をかざしたとたん・・・、治った。
でも、杉田は、あいつはだめだった」
「だから、てめえら、ここは異世界で、魔物がうようよしている場所だ。
地球に戻りたかったら、おれに従って、手段を練るしかないぞ。
もちろん逆らったら・・・」
「この手で消してやる」
クラスの皆は、大騒ぎし始めた。
「どうしよう、お母さんたちに、怒られちゃうよ・・・」
「まじで!
彼氏に連絡とれないよ、ケータイとか、全然通じないし」
「え~!
でも、あたしは、試験受けなくていいから、別にここにいてもいいけどさ」
こう言ったのは、クラスの女王様、上村サリナである。
中二だというのに髪を明るい色に染め、ばっちりと化粧をしている。
大手衣料品店の一人娘で、気が強く、気に入らない者をいじめては楽しんでいる。
「しかしなあ」
男子の一人が、ほっそりとした顎に手を当て、考え込んだ。
「バスガイドも運転手も見当たらないなんて。
おれたちのクラス全員と、安藤先生だけが、転移したのか?
いったい、何のためにだろう?」
彼は、一条慎太郎。学級委員長である。
オリバーと同じ、眼鏡キャラだが、こちらは全く違う。
いわゆる鬼畜メガネというやつだ。
成績優秀、運動神経万能、家は外科医というエリートだ。
しかし性質は、山田以上に極悪で、にっこりと笑いつつ、影に隠れて人を陥れるの大好きな男だった。
当然、オリバーは彼が嫌いだ。
「でも、山田君の言うとおり、バラバラに行動しては、危険ですね」
無表情で、秋山しずかは言った。
彼女も成績優秀の才女だが、とかく無口で表情に欠け、どんな人物かは知られていない。
山田は満足げにうなずいた。
「さすが、秋山は物分かりがいいな。
・・・おれの勘だが、ここにワープした奴は、一人最低一つ、魔法や戦闘技能が与えられているようだ。
もっとも、塩村、おまえには」
いやらしい笑いをしている。
「何もなさそうだがな」
「おい、なんだ、あれは!」
取り巻きの一人、のっぽの八田が東の空を指差した。
ずっと遠く、黒いギザギザしたシミのようなものが、黄色い空にちらついている。
それは次第に勢いと大きさを増し、生徒らはパニックに陥った。
「ドラゴンだ!
ドラゴンが襲ってくるぞ!」
数分後、漆黒の竜が、2-4組の目の前に到着した。
毒蛇のような口からは、容赦なく火炎放射を吐き散らしながら。




