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オリバー・スウィフト異世界にいく  作者: 六文字白魔
第二章 湿った温風と緑の空
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オークのザップ

 ランゴヴァルト公国は、レイモーン国の南西にある。

 オリバーたちは、荷馬車で大草原を移動しつつ、周囲の安全を確かめた。


 「あと5日で着くっぺよ」


 馬方がズーズ―弁で話した。

 5人プラス荷物で、片道金貨5枚分の料金だ。

 途中、テントで野宿しつつの移動なので、安いと言わざるを得ない。


 「国境を超えると、料金が跳ね上がるんだべ。

 レイモーン国内なら、一人300モルで、お安いんだけんどよぉ」


 「まあ、今回は・・・、仕方ないよね」


 苦虫をかみつぶした顔のユリエが、ささやいた。


 「資金に余裕がないって、つらいよ、まったく!」


 「ねえ、なんだか、暑くない?」


 ルミが、色白の頬を赤くしている。

 セディがうなずいた。


 「暑いも何も。

 ランゴヴァルトは、亜熱帯の国でしゅ!」


 「オーク族の国ですわ」


 心底嫌そうに、エルフのセラが続けた。


 「奴隷を使って、大農場で働かせている、いかがわしい連中なんて!」


 「うーん、いかがわしいって、別の意味でかな」


 ユリエは口をすぼめた。


 「いかがわしいです!

 だって、スレイブ・アイヴィを頭に巻かれた者たちが、鞭うたれて、強制労働ですよ。

 サトウキビの畑でこき使われ、綿工場でこき使われ、一生を送る。

 製品は、どえらい値段で、各国に輸出されているんですわ!」


 「つまり、無報酬で働かせて、上位の者が潤うってこと?」


 額にしわをよせて、オリバーは言った。

 エルフはうなずいた。


 「いかがわしいことですわ。

 生命の冒涜です!

 働く者の意志を奪い、自由を与えず、使い捨てだなんて。

 さすがは、野蛮なオークのやること!

 奴隷たちは、魂を殺されてしまうのです」


 「ねえ、スレイブ・アイヴィって?」


 「真紅のツタです。

 肉食植物で、おもに生物の脳を好みます」


 「うえー!

 脳みそを食らうモンスターか!」


 「ええ。

 オークたちは、それを奴隷の額に巻きつけ、特殊な粉末を彼らに飲ませます。

 すると、奴隷たちは自由意志がなくなり、ゾンビのように、奴隷主の言うがままになるのです」


 「エピキュールの草でしゅね、それは」


 セディが話に参加した。

 

 「いわゆる、麻薬の一種でし。

 ランゴヴァルトでは、行政のみが扱えるでし。

 エピキュールは、亜熱帯の不毛な土地に自生しているって、本で読んだでしゅ。

 アッシュクリフでも、数年前に売人が摘発され、死刑になったでし」


 「し、死刑になるの?」


 ユリエは目を丸くした。

 セディはうなずいた。


 「当然でしゅ。

 エピキュールは、疲れをとるとか言われてるけど、嘘でし。

 あれは、強い幻覚作用と中毒性をもたらす、悪魔の植物でし!」


 「有効利用はできないの?

 たとえば、錬金術で・・・」


 「できないですわ!」


 「できないでし!」


 セラとオリバーは、同時に叫んだ。


 「なるほど。

 この世界の常識では、禁忌なのね、その草は」


 ルミはうなずいた。


 「覚えておくわ。

 なにせ、『郷に入れば郷に従え』だものね」


 そう言い、自分のアッシュクリフ風の衣装を見る。



               *****


 「ほいじゃ、これでおさらばだっぺ」


 馬方は元気よく言い、北東へと荷車を動かしていった。


 「へえ、ここが、ランゴヴァルトの中心都市なんだ。

 ガスベラス・シティ、だってさ。

 なんか」


 ユリエは顔をしかめた。


 「感じ悪い!」


 「おい、人間ども、何をしに来た!」

 

 身長2メートル近い、緑色のごつい男が怒鳴ってきた。

 重装備で、手には大きな斧を持っている。


 「これがオーク?」


 「目の毒ですわね」


 セラは最高に嫌がり、鼻をつまんで横を向く。

 オリバーは、まじまじと、目の前の衛兵を見た。


 緑色の肌。

 鋭い目は、白目がなく、すべて黄色。

 瞳孔は、猫のようにスリット状だ。

 両耳は、エルフのように長く、先端が尖っている。

 下あごの牙が出ており、何やらうなっている。

 筋肉質の体。

 ・・・腹は出ていない。


 「この中に入りたいんですけれど」


 彼はつとめて冷静な声を出した。


 衛兵らは笑いだした。


 「ヒャッハー!

 この人間、何を言い出すかと思えば!

 入りたい、だと?

 ならば、そうだな・・・。

 1,000モルよこせ」


 ユリエの目は、つり上がった。


 「なんですって!

 衛兵が、ワイロを要求するつもりなの!」


 「ワイロじゃないぜ、人間のひよっ子」


 衛兵の一人が、さもバカにしたような口をきいた。

 

 「この街では、人間と言えば、奴隷だ。

 お嬢ちゃん、おれらの通行許可証を持ってないと、すぐに売り飛ばされちまうぜ。

 そうならないように、取り計らってやろうって話だよ」


 「そんな話、嘘ですわ!」


 セラが怒って声を張り上げた。


 「早くそこをおどき、薄汚い、ゲスの極みのブタめが!

 私の鼻は、おまえたちの臭気に耐えられないんですのよ!」


 (お、おっかね~!

 キャラ変わりすぎだろ)


 エルフ以外の旅人たちは、そう思った。


 「ふん、高飛車なエルフめ。

 事あるごとに、おれらをコケにしやがって。

 にしても、おまえ、気に食わねえな・・・」


 オーク衛兵は、なぜかオリバーをにらみ、彼の頭をつかんで、ぐいっと上げた。 


 「い、痛い!

 何するんだよ」


 「オリバー様を離しなさい、この下等生物!」


 オークたちは、黄色い目を光らせ、にやついた。


 「ここで金を払うか、おれらの斧の餌食になるか。

 好きなほうを選べ」


 「仕方がない、ここは・・・」


 オリバーたちは、するりと剣を抜きかけた時だった。



 「止めろ。

 衛兵、こんなところで、油を売ってやがるのか?」


 低い声がこだました。

 黒髪を侍のように束ねた男オークが、背後から現れたのだ。


 「て、てめえは、ザップ!」


 「ほう、いい度胸だ。

 おれと手合わせしたいのか?」


 青肌は、腐敗兵士ににじり寄った。


 「と、とんでもねえ!

 ちょっと、ご、誤解があったみたいでよぉ。

 は、入ってよ、よろしいぞ!」


 衛兵らは汗をかき、人間たちに城門を開いた。



 「よかったな。

 無事に入れただろう」


 青肌オークは言い、人間たちは彼にお礼をした。


 「ありがとうございます。

 もうすこしで、金を絞りとられるところだった」


 「あの・・・、お名前を聞いても、いいですか?」


 ユリエがもじもじしながら、聞いた。

 青肌オークは笑いつつも、教えてくれた。

 下あごの形は人間そっくりで、牙もなかった。

 

 (青ペイントしたエルフっぽい)


 オリバーはふと思った。


 「おれは、ザップという。

 一介の冒険者だ。

 脅されても、金は払うなよ。

 奴ら、女や子供を見下して、卑怯な手を使いやがるからな」


 「助かったでし、ザップ。

 をれ達も、冒険者でしゅよ」


 ザップの口元に、微笑らしきものが浮かんだ。

 

 「こりゃあ、驚いた!

 獣人族の子供が、冒険者とは。

 オケアノス王国では、許可されてないはずだぞ」


 「をれは、子供じゃないでし。

 それに、オケアノス国の者でもないでしゅよ」


 「そうか、すまんな。

 おれの早とちりだったか」


 そう言い、まじまじとセディ一行を見つめた。


 「とりあえず、冒険者ギルドに連れて行ってやろう。

 この大通りをまっすぐ歩いて、左にある。

 すぐ着くぜ。

 話はそれからだ」

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