さらばイケメン
声は、ほの暗い洞窟に当たり、天井の岩石が落下した。
「気をつけるでし!
超音波攻撃でし!」
セディが注意喚起をし、毒を塗った手裏剣を、コウモリに投げつけた。
化け物は羽ばたきし、それらを地面に落してしまう。
「セディ、大丈夫か?
化け物には、これがいい」
風の刃が襲いかかり、魔物を巻き込んで回転する。
「残念ですが、効かないね。
そこの、風詠み!」
巨大コウモリは、ネイリスの姿に変わった。
酒場の粋な身なりをし、片手には、赤い液体の入ったグラスを持っている。
空中に浮かびあがり、にやりとセクシーな笑みを見せた。
「ヴァンパイアですわ!」
セラフィーナは叫び、光の弾をを出現させた。
「そのとおり。
人間をへし折るなど、私にとっては朝飯前なんだけどねえ」
ネイリスは、わざとらしく悲しげな表情をする。
「少し、お遊びといこう。
なにせ、300年ぶりだからね。
風詠みの者を見るのは」
言うが早いが、闇の刃が、オリバーに襲いかかる。
彼はネコのようにすばしっこく避け、浮遊魔法を唱えた。
空中にて、彼はネイリスと対峙する。
「ウウウウッ、
グフフ!」
セディたちの背後には、死んだフラタニティ構成員どもが、立ちはだかった。
死にたての、新鮮なゾンビである。
「さて、外野には、ゾンビと戯れてもらう」
ネイリスは尖った牙を出し、含み笑いをした。
「ゾンビは任せて!」
ユリエは、フレイムソードで、目の前の死人を斬った。
しかし、しばらくすると、死人の身体は元通りにくっつき、襲いかかってくる。
「吸血鬼を倒さないと、ダメかも」
ルミは叫んだ。
その肩に、ゾンビは食いつこうとする。
「オリバー、なるべく早く頼むでし!」
セディは、金色の斧で、そのゾンビを叩き割りつつ、叫んだ。
「無理でしょうね。
さて、風詠み!」
ネイリスは闇の渦巻きを作り、投げつけてくる。
「効かないよ。
サンダーボルト!」
雷電は、吸血鬼の身体をつんざいた。
不意を突かれたヴァンパイアは、しかし、狡猾だった。
「痛いなあ。
でも、さすが、風使いだ。
まあ、私のほうが上手だけどね」
そう言い、オリバーの背後に瞬間移動した。
裂けた口を開き、そのまま、白い牙を少年の首にうずめた。
「ギャアアッ!」
断末魔にも等しい、悲痛な声がこだました。
「オリバー!
き、吸血鬼め、こ、これでもくらえ!」
乱暴な口調になったルミは、あろうことか、体力回復のポーションを投げつけた。
ポーションは、ネイリスの腕に当たり、その部分が酷くただれている。
吸血鬼は、赤目を剥きだした。
「よくもやったね、冷血女め!」
「あんたに冷血呼ばわりされたくないわ!」
ルミは半泣きになりつつ、残りのポーションを投げつけた。
それらの一部は、見事にヒットし、ヴァンパイアの麗しい姿が超劣化している。
「分かったでし!
セラ、あの吸血鬼に、回復魔法をお願いでし!」
「え?」
ゾンビを突き刺していたエルフが、一瞬手を止めて首をかしげた。
「アンデッドは、ヒーリングを受け付けないでしゅ。
それどころか、弱点に・・・」
洞窟内に、癒しの歌が響き渡った。
美しい声とメロディは、吸血鬼を圧倒した。
「ヒイィィッ!
ヒデブ!」
ネイリスは、狂気じみた悲鳴と共に落下した。
脚がほとんど骨だけになっている。
その隣で、オリバーは気を失って倒れていた。
ゾンビらは白い灰になって、崩れ落ちた。
あわてて、オリバーのもとに駆け付ける、セラとルミ、セディ。
ユリエは、フレイム・ソードで吸血鬼にとどめを刺すべく、魔物に近付いた。
「覚悟なさい!」
ネイリスは弱々しく、皮肉な笑みを浮かべた。
赤い目に、血の涙が浮かぶ。
「これで自由だ。
本当は、風詠みの者に討たれたかったが・・・」
「ど、どうして?」
「私も、かつて風詠みだったからだ」
そう言ったきり、事切れてしまった。
彼がフレイムソードをつかみ、自らの胸に突き刺したのだ。
あっという間に灰化していく。
「オリバー様!
どうして、どうして・・・」
セラの目に、涙が盛り上がる。
ヒーリングを唱えても、効果がないのだ。
「あ、まさか・・・」
ルミはとっさに、オリバーの首の傷をつまみ、血液ごと絞り出した。
「な、何をするのでし!」
仰天するセディたちを横目に、彼女は必死に作業を繰り返す。
「蛇の毒と一緒かも。
吸血鬼の毒が、オリバーの中に入っているかもしれないから。
急所は外れているから、多少の出血は仕方ないわね。
セラ、毒の無効化はできるかしら?」
「え、ええ。
でも、ヴァンパイアの毒は、たぶん無理」
ユリエが戻ってきた。
背後からは、少女らの歓声が響き渡る。
「早くここから出よう!
そして、彼を、寺院の人たちに診てもらうの!
それしか、思いつかないよ」
「で、でも、どうやって、オリバーを運ぶでしゅか?
をれ様、自信がないでし・・・」
「仕方がないね、手伝ってやるよ!」
牢の開錠に成功したらしい、少女らが、野太い声を張り上げた。
そろいもそろって、筋肉隆々、たくましい方々である。
「この吸血野郎、あたいらのことは、いらないとかって、コケにしやがってさ!」
「そうそう、こんなところで灰になるとか、罰が当たったんだぜぇ!」
セディの顔は、真っ青だ。
「をれ様たちが出しゃばらなくっても、自分で戻ってこられそうだったでし・・・」
少女の中には、上村サリナも混ざっていた。
(彼女は、筋肉隆々ではない)
サリナはじっとりと、オリバーやユリエ、ルミを見た。
そして、ただ一言。
「ヒナノが、さらわれたままだよ」
セラフィーナは、ため息をついた。
「私の妹がいない。
連れて行かれたのですね」
「どこに連れていかれたのかな?」
ユリエは真顔で聞いた。
その顔を、サリナは食い入るように見たが、答えた。
「ブルーノーズの街だってさ。
あとは、知らんわ」
救出者と、筋骨たくましい少女ら23人は、裏道を通り、洞窟を脱出した。
「さて、ここからが問題でしゅ」
セディは言い、犬耳をしおらせた。
ソウルクラッシュの森を、大勢で抜けなければいけない。
現在、深夜3時。
死霊どもは、さぞや活発に動くことだろう。
「おーい、皆の者!
無事かぁ!」
多くの松明が、森に現れた。
それらはどんどん近付き、一段の衛兵らが姿を現す。
「セ、セオドア様!
こんな所にいらっしゃったか!」
セディの青い目は、飛び出しそうになっている。
「どうして、をれがここにいるのを、知ってるでしゅか?」
衛兵は説明した。
「ギルバート様が、王子の危険を察知し、我らをここによこしました。
あ、ここにいる、冒険者殿も、協力してくれて・・・」
たいまつに照らされた人物は、A級冒険者・ロビンとその仲間だった。
「ありがとうございます」
ユリエとルミは頭を下げ、セラは優雅にお辞儀をした。
ロビンは紙煙草を捨てた。
屈強な少女らと、担がれている青ざめた少年を、ちらりと見る。
「なるほど。
そっちの小僧が、またトラブったんだな」




