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オリバー・スウィフト異世界にいく  作者: 六文字白魔
第一章 旅の始まり・草原の風
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ソウル・クラッシュの惨劇

 森の最深部には、洞窟がある。

 アッシュ川の上流が、そこから源を発している。

 森は死霊と猛獣だらけなので、常人では、まず近づくことすらできない。


 洞窟暮らしは最適だ。

 水に困ることはなく、木材も豊富なので、火をおこすのも苦労しない。

 食糧や寝具等は、森の近くを通るキャラバンを襲ってかっぱらったものだ。


 それにしても。


 ダーク・フラタニティの弱体化は、一目(りょう)然だった。

 そのうちの一人、洞窟入口を守る男が、悲鳴を上げた。


 「ひゃああっ!

 か、棺おけだ!

 棺おけが流れ着いてきたぞ」


 もう一人の男が、あきれたように怒鳴った。


 「バッキャロウ!

 下流から上流に向かって、モノが流れるかっつうの。

 全く、だからこんなの、スカウトするなって・・・」


 悲鳴を上げた男は、黙って指をさした。

 その先には、タンスのようなものが、5つ。

 プカプカと、川面に浮かんでいる。


 「こ、こりゃあ、アレだ。

 下流で、洪水があったんだ。

 こんなでっかいモンが流れてくるくらいだから、相当な被害だろうな」


 彼らは恐る恐る、箱を寄せ、中をのぞいてみた。


 「空っぽだ。

 チクショー、はらはらさせやがって」


 悲鳴を上げた男が、景気よく箱を蹴とばした。

 次の瞬間、箱は音もなく破裂した。


 「なかなかいい眺めだな」


 「派手に飛んで行ったでし。

 ユリエの破裂魔法、恐ろしいでしゅ」


 「しーっ、気付かれたわ。

 もう6人も来た」


 「ゴキブリ並みの感知能力だね。

 じゃ、行くよ!」


 「な、なんだ、おまえら!

 侵入者だ!」


 フラタニティの構成員は声を張り上げる。

 しかし、それが洞窟に響くよりも早く、トルネードカッターの餌食となった。


 「おえ、もはや人型じゃない」


 ユリエは口元をおさえつつ、うめいた。


 「ユリエ様、これが悪人の最期でございます」


 セラフィーナは、つとめて平静を装っている。

 が、彼女の顔も、やや青ざめている。


 オリバーは、肩をすくめた。


 「残酷だけれど、やらなきゃ、やられるからね」


 「そうでし。

 をれ様たちが、解放しなければ、誰が女の子たちを助けるでしゅか?」


 「2足す6で、8人。

 あと、7人はいるのよね」


 ルミは、冷酷なほどの落ち着きぶりを発揮した。

 そして、ポーションを一本空け、魔力を回復させる。


 「ボス対策は、計画通りやりましょう。

 それにしても」


 あたりを見渡した。


 「洞窟内に、こんな広い湖があるなんてね。

 ここ、結構過ごしやすそうね!」


 「さすが、水属性だな」


 オリバーは、ややあきれたように、ルミを見つめた。



               *****


 「おい、食事はまだか!」


 ダーク・フラタニティの親分は、手下に怒鳴った。

 手下はあわてて、食糧貯蔵室に駆け込み、すぐに戻ってきた。


 「い、いねえでゲス!

 料理番も、見張りの奴らも、みんな消えてるでゲス!」


 「なに、いねえだと?

 どういうことだゴルァ!」


 親分は勢いよく、酒の瓶を握りつぶした。

 興奮したゴリラのように、鼻孔が開く。


 「いねえもんは、いねえでゲス。

 そういや、さっき、入口のほうで、変な物音がしたような」


 それを聞き、親分の背面から、少女らの金切り声が聞こえた。

 古びた牢屋の中で、様々な種族の少女らが、30人ほど押し込められている。


 「うるせえぞ、メスガキどもが!」


 親分は怒鳴り、牢を蹴った。


 「ったく、どいつもこいつも、並みかそれ以下じゃねえか。

 あの方に、どう申し開きすりゃあいいんだよ?

 おい、スウィート・トラップ!」


 「何ですかね、親分」


 顔を出したのは、あの吟遊詩人だった。

 酒場でリュートをいじくり、ユリエに白バラを贈った、金髪のネイリス。

 彼は、鏡を見つつ、にやりと笑った。


 「来ましたよ、風詠みが」


 「バカな!

 奴は、貴様が術にかけたエルフに、殺させたはず・・・」


 ネイリスの笑みは、ものすごいことになっていた。

 目は真っ赤に輝き、口が大きく裂ける。


 「風詠み相手に、普通の人間が(かな)うわけないでしょう?

 そんなことも分からないなんて・・・」


 「き、貴様、吸血鬼・・・!

 ギャアアアッ!!」


 断末魔の悲鳴がこだまし、血しぶきが上がった。


 ネイリスは満足して、立ち上がる。

 口が、血まみれだ。

 牢の中の少女らが、狂ったような悲鳴を上げる。


 「さて、お嬢さんたち」


 ネイリスは赤い目を細め、猫なで声を出した。


 「あなた方のうち、十人並みは、ランゴヴァルト行きです。

 それ以外は・・・」


 彼は口を開け、白く硬い牙を見せた。


 「うううっ・・・」


 死んだばかりのフラタニティ構成員が、ゆっくりと起き上がった。

 ネイリスは手短に説明した。


 「おまえ、手前の女7人を連れて、隠し道から馬車に乗せろ。

 そして、北の街道へ、ひたすら走れ。

 ブルーノーズの街に着いたら」


 ゾンビの白っぽい目を見つめる。


 「そうしたら、おまえの役目は終わりだ。

 永遠に土に戻るがよい」


 


 オリバーらは、岩石の(わな)やら、矢の罠やらを、かろうじてくぐり抜けた。


 「古典的な技術だね」


 「油断大敵!

 セラ、後ろ!」


 「私、罠は苦手ですわ」


 「気をつけるでし!

 一瞬先は、闇、でし!」


 フラタニティの構成員は、強いことは強いが、エルフの魔法には勝てなかった。


 「光魔法の偉大さが、身にしみて分かったよ」


 緑色の軽剣についた血をぬぐいつつ、オリバーがほめた。

 人間の少女二人は、面白くない顔だ。


 「いいえ」


 セラフィーナは、つつましく否定した。


 「ユリエ様とルミ様のお力がなければ、洞窟までたどり着くことすらできなかったでしょう。

 私は、ただ歌っただけですから」


 「そんな事ないよー。

 セラってば、けんそんしちゃって」


 「そうよ、私も、セラを見習って、もっと魔法力を高めないと」


 「セラのフォローは、偉大でし」


 セディは、こそこそとオリバーの耳に吹き込んだ。


 「さて、あそこがボスの部屋でし!

 では、皆で突入~」


 「待て、セディ!

 見ろよ、ありゃ、何だ?」


 最深部の部屋からは、灰色の煙が立ち上っていた。

 それは次第に凝縮し、巨大なコウモリの姿になる。


 「お久しぶりです、ユリエさん。

 ・・・あ、やっぱり、私、罠にかける相手を間違えたみたいです。

 まあいいや。

 おや、風詠みのオリバーさん」


 コウモリは赤い目を細め、超音波の声で話しかけてきた。

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