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オリバー・スウィフト異世界にいく  作者: 六文字白魔
第一章 旅の始まり・草原の風
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歌うエルフのララバイ

 彼は夢を見ていた。


 夢の中で、オリバーは5歳の子供になっていた。

 太っていて、不器用そうな容姿。

 垢まみれの服で、手も黒っぽく汚れている。


 母が現れた。

 20代半ばの、いかにも水商売風の女だ。

 やせて目がつりあがり、はがれそうなほどの厚化粧だ。

 しきりにわめき散らし、不細工な息子を小突く。

 

 しばらくして、若い男が来た。

 金髪の髪を派手に逆立て、腕に刺青(いれずみ)を入れている。

 彼は、汚らしい幼児をちらりと見て、嫌な顔をした。

 

 「ばっかじゃね?」

 

 「うっせーな!

 だまされて引き取ったんだから、しゃーねーだろ」


 厚化粧の女は、乱暴な口調でしゃべった。

 口紅を塗った口から、唾が飛び散る。


 「んなもん、さっさと、駅のゴミ箱にでも押し込めときゃ、いいんだよ」


 「ゴミ箱ってwww

 出来ることなら、やりてえよ」


 男の目が、気味悪く光った。


 「やってやろうか?

 おれのダチで、そういうの専門の奴がいるぜぇ?」


 その言葉を聞いて、女は、うろたえた。


 「いいや、今のところはダメだよ。

 ほら、あたし、サツに目をつけられてんじゃん。

 今、なにかやったら、やばいんだよね」


 「ふん、まあいいさ。

 じゃ、今夜も楽しもうぜ。

 縁もゆかりもないガキなんザ、放っておけ」



 (縁もゆかりもないって?

 あの人は、おれの母親・・・・だったはず。

 結局は、おれを置き去りにして、どっかにいっちゃったけど。

 これは、どういうことだ?)



               *****


 「オリバー!

 しっかりして!」


 かん高い声。

 少女らの取り乱した、すすり泣く声。


 「意識が戻んねえじゃねぇか!

 この犯罪者め!」


 誰かを怒鳴っている男の声。

 これは長沢だな、とオリバーは思った。


 「ナガサワ、静かにしろでし。

 この子は、謝ってるでし」


 その後、聞こえてきたのは、この世のものとは思えぬほどの歌声だった。


 (天使の歌声・・・か・・・?

 これから、おれは旅立つんだな・・・天国に)


 「オリバーァー!!」


 乱暴に揺さぶられた。


 元・いじめられっ子は、白目をむきつつも、上半身を起こした。


 「ああっ、よかった!

 もう、死んじゃったかと思ったよ」


 「ユリエ、お願いだから、オリバーを安静にしてあげて」


 目の前には、涙でくしゃくしゃになったユリエと、泣きながらも落ち着いたルミがいた。

 怒り心頭の長沢と、あきれ顔のセディがいる。

 そして。


 「エ、エルフ?

 これって、エルフ?」


 栗色のふわふわした髪をポニーテールにした、非常に美しいエルフがいた。

 先のとがった長い耳が、しおれていた。

 紫色の目に、涙がたまっている。


 「ごめんなさい」


 「ど、どうしたの?」


 「こいつが、お前を、間違って撃ったんだって。

 塩村。

 おまえ、もう少しで死ぬところだったんだぞ。

 おれのヒール魔法でも、血が止まらなくって・・・」


 「で、このエルフが、止血したでしゅ。

 この子、オリバーを、ダーク・フラタニティと間違えたらしいでし」


 頭がくらくらする。


 「おれを、フラタニティの構成員だと思ったの?

 どうして?」


 エルフは語り始めた。


 「妹を、やつらに取られてしまいましたの。

 エルフの村を飛び出し、各地で連中の居場所を探して。

 そして、やっとここ、アッシュクリフにたどり着きました。

 数日前、酒場で、とある噂を耳にしたんです」


 「噂?

 どんな?」


 「2週間ほど前、ここの近くに、異世界の者が漂流してきた。

 その者たちは、冒険者ギルドに取り入っているが、ダーク・フラタニティのメンバーである。

 彼らは、誘拐された少女らの運び役でもあるらしい、と」


 セディが渋い顔だ。


 「オマエ、ちゃんと考えろでし。

 闇の組織、しかも、フラタニティのような有名な組織は、流れ者を簡単にメンバーにしないでし!

 しかも、運び役にすることなんて、絶対にありえないでしゅ!」


 「ねえ、噂って、誰から聞いたの?」


 ルミが真顔で聞いた。

 エルフは、瞬間はっとし、急にひきしまった表情になった。


 「ええっと・・・。

 金髪の吟遊詩人です。名前は分からないけれど。

 リュートを持っていて、バラの花の、強い芳香がしました」


 ユリエが目を剥いた。


 「ネイリス・・・って人だわ。

 ほら、わたしに、白バラをプレゼントしてくれた。

 あいつ、フラタニティの一員だったんだ!」


 くやしそうに歯ぎしりする。


 「で、情報を取られたんでしゅね。

 魅了魔法をかけられて」


 セディがため息をついた。


 オリバーがたずねた。


 「ここ、どこなの?」


 「ギルドの2階よ。

 キティさんもびっくりしちゃってね。

 とりあえずみんなで、あなたを運んだの。

 このエルフ、えっと、名前は、セラフーだっけ?」


 「セラフィーナと申します」


 「そうそう、セラフィーナが、

 『シェー!フラタニティじゃない!』

 なんて騒いでたところを、A級冒険者が、取り押さえたの」


 (エルフが、シェー、かよ!)


 「ごめんなさい、ごめんなさい」


 セラフィーナは、泣きはじめた。


 「光魔法を飛ばした時、なぜか、頭がぼうっとしていたんです。

 倒れたオリバー様の腕をめくってみたら、連中のマークがなかったので、とんでもないことをしたと思いました・・・」


 「泣けばいいってもんじゃ、ねえだろうが!」


 「長沢、怒るのはわかるけれど、落ち着いて」


 オリバーはなだめ、彼を椅子に座らせた。


 ルミは、話を続けた。


 「キティさんは、うろたえてしまって。

 で、A級冒険者の、ロビンさんが、いろいろ対処してくれたの。

 オリバーの意識が戻らず、元のように動けなかったら・・・」


 「街の衛兵に、彼女を突き出す、と」


 ユリエが重々しく締めくくった。

 皆、沈痛な面持ちで、オリバーを見つめている。


 「でも、おれは助かり、こうやってみんなと話をしている」


 「彼女の処分は、オマエが決めるでし」


 セディは、誤射エルフをちらちら見ている。

 セラフィーナは、居心地悪げに、縮こまった。


 オリバーはうなずいた。


 「きみが、おれを止血してくれたんだね」


 「はい。

 癒しの歌を歌いました」


 「なるほど。

 きみは、歌で魔法を操るんだ」


 美しいエルフはうなずいた。


 「私の生まれ故郷では、そうなのです」


 「決めた。

 セラフィーナ、きみは、衛兵に引き渡さない。

 その代わり、おれたちと一緒にダーク・フラタニティにさらわれた人たちを、解放しよう!

 あと、冒険仲間になってもらえば、うれしいんだけど・・・」


 「つつしんで、お受けいたします」


 エルフの美少女は、つつましく目を伏せた。

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