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オリバー・スウィフト異世界にいく  作者: 六文字白魔
第一章 旅の始まり・草原の風
16/35

オリバー、撃たれる

 ここは、ルンフェの小屋。

 早朝の日差しが差し込み、オリバーは腹をさすりつつ、起き上がった。


 (どうして、おれが、寝袋で寝なきゃいけないんだ!)


 質素だがふかふかのベッドで、レイモーン国第三王子・犬耳のセディがいびきをかいている。


 人懐っこいバカ犬のように、結局はここまでストーカーしてきたのだ。

 オリバーはため息をつき、だいぶへこんだ腹をなでた。

 ずいぶんとやせたようだ。

 鏡を持っていないのが残念である。


 調理場に行き、火をおこした。

 ウサギの干し肉と水、塩とセージをぶち込み、簡単なスープを作る。

 粗末この上ない食事だが、食べなければ、死ぬ。


 「おはよう、でし!」


 お騒がせな犬王子が起きてきた。


 「朝から料理とは、お前、マメな性分でしゅ」


 「でしゅって、なんだよ!

 ったく、とんでもない犬を拾ったもんだ」


 セディの青い目が光った。


 「失礼な!

 をれ様は、イヌじゃないでし!

 母上は、オケアノス王国の由緒正しき、聖狼リカロンの末裔でし!」


 「聖・・・狼?

 オオカミの国なんだね!?」


 「母上の家系は、みな、オオカミの素質をもってるでしゅ。

 でも、オケアノスは、自由平等の獣人国。

 イヌ族もネコ族も、鹿族も、みんな仲良く暮らしているのでし」


 「そうか、人間の国よりも、よさそうだな」


 セディの顔が、誇りで輝いた。


 「その通りに違いないでし!

 だから、をれ様は、行くつもりだったのに・・・」


 「北川たちが、金貨を盗んだんだな」


 セディは恨めしげな顔をし、こくりとうなずいた。


 「でも、その前に、ダーク・フラタニティをとっちめるでしゅ。

 あいつらは、民草の敵でし!」


 「兄さんたちは、何も手を打たないんだっけ?」


 犬耳王子は、こくんとうなずいた。

 赤みがかった金髪が、さらりとゆれる。


 「わかった。

 出来る限り、協力するよ、王子様」


 セディはにっこりと笑った。

 とてもじゃないが、オリバーより3つも年上とは思えない。


 「よろしいでし。

 では、をれ様を、セディと呼ぶよろしい」


 握手を求められた。


 「では、セディ、おれをオリバーと呼んでくださいね」


 大小の手が握られ、彼らは仲間になった。

 王子の手が、意外にも硬く、マメだらけなのを、オリバーは後で思い出した。



               *****


 「そ、それでよろし!」


 「なんか、カッコ悪い」


 「ゴワゴワしてるわ、息苦しい」


 セディは、やれやれと頭を振った。

 彼もまた、連れのオリバーと同様、灰色頭巾を被っている。


 「顔を隠すのが、隠密の第一歩でし!」


 「あの、別に、隠密を目指してるんじゃないんだけど」


 「ダメ!

 甘い!」


 王子は激しい身振りだ。


 「異世界人は、目立つでしゅ。

 オリバーは、風詠みの容姿なので、もっと目立つでしゅ。

 をれ様は、誇り高い獣人族なので、目立つでしゅ。

 目立つことは、情報収集に障りがあるのでし!」


 ユリエはため息をついた。


 「オリバー、勘弁してよ。

 王子様だからって、こんな押しが強いのは、ちょっと・・・」


 セディは、彼女に近づいた。

 くんくんと、嗅ぎまくる。


 「きゃあっ、ちょっと!

 変なことしないでよ!」


 「オマエ、術にかかってる!」


 セディは怖い声を出した。

 ルミは、不思議そうに尋ねる。


 「術ですか?

 誰が、そんなことを?」


 「誰か、は分からないでし。

 でも、誰かが、オマエ達から、情報を引き出そうとしてるでしゅ・・・」


 「大変だ!」


 ギルドのドアが開き、長沢が飛び込んできた。

 カウンターのキティ(書類の整理をしていた)が、手を止める。

 

 「塩村、いや、オリバー!」


 「ここにいるよ」


 長沢は、汗まみれの顔を、灰色頭巾を被ったオリバーに向けた。


 「忍者になるのか?

 まあ、その話は置いといて・・・。

 上村サリナと、中島ヒナノが、さらわれたらしい!」


 「落ち着け、長沢。

 もっと詳しく教えてくれないか?」



 

 「・・・というわけなんだ。

 クラスのほとんど皆が、スラムに行かざるを得なくて。

 で、日雇い労働で細々と暮らしてた。

 女子たちによると、上村と中島は、近くの農場に行ったきり、帰ってこない。

 3日前からだそうだ」


 「ダーク・フラタニティの仕業でし!」


 セディがささやいた。


 「これまで、アッシュクリフでは、人さらいなんてなかったでしゅ。

 ただ例外は、あいつらの手先のみで」


 「変な子だな」


 長沢はあきれたように、セディを見ている。

 頭巾をしているので、獣人だとは、気付いていない。


 「変なのは、オマエでし!

 しかも、オマエ、くさい。

 ちゃんと、体を洗えでし!」


 「うるさいなあ、スラムじゃ風呂はねえんだよ!」


 「風呂がなかったら、ラバンドルの呪文を唱えるでし。

 そんなことも、オマエ、知らない?」


 「え!」


 ユリエ&ルミは、身を乗り出した。


 「セディさま!

 ぜひとも教えてくださいな!」


 王子はいかにも満足げだ。


 「よろしいでし。

 をれは優しいので、無料で教えてあげるでしゅ。

 その前に、オリバー、自分の武器を用意しろでし」


 「はあっ?」


 オリバーは、エメラルド色の目を剥いた。


 「何言ってんだよ。

 おれの武器は、魔力でつくりだされた弓なんだ。

 だから、必要ない・・・」


 「ダメダメね、オマエ。

 そんなこと言ってると、筋力が伸びないでしゅよ。

 それどころか、短剣も扱えない、ヘナチョコになるでし」


 「ううっ、どうして、筋力のことを・・・」


 セディは、ため息をついた。


 「昨日戦ってみて、気付いてのでし。

 あと、防御も上げないと、一撃でやられるでしゅよ」


 「この子、すごい」


 ルミが言った。


 「16歳の王子様だなんて、信じられないけど。

 相手の長所や欠点を見抜く力が、すごいわ。

 もしかして、上級の冒険者さん?」


 「ふうっ、わかった、分かったよ。

 じゃあ、これから武器屋に行ってくるから、ちょっと待ってて。

 財布に似合った物を探して、すぐ戻ってくるから」


 「あっ、それはあとで!」


 面目をつぶされたオリバーは、ユリエ達が止めるのも聞かずに、ギルドを飛び出した。


 その時だった。


 (!!!)


 銀の矢が日光のように光り、オリバーの背を貫いた。

 彼は考える間もなく、そこに倒れ込んだ。

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