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オリバー・スウィフト異世界にいく  作者: 六文字白魔
第一章 旅の始まり・草原の風
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ルンフェの小屋

 北川たちの悪事が原因で、2-4組の生徒らは城を追われることとなった。

 安藤先生も、歩けるようになった時点で、追放となる。

 普段強気の連中、上村サリナたちでさえ、おびえていた。


 (意外とチキンハートなんだな)


 満足にシャンプー出来ずに、ぼさぼさ頭を振り乱す彼女を見て、オリバーは鼻を鳴らした。

 対して、ユリエやルミは、もうあきらめがついたようだった。

 薬草学について勉強しているらしい。

 ラベンダーのよいにおいを漂わせている。


 「オリバー殿」


 城を出る日、ギルバートは心配そうに言った。


 「住むところなどは、どうするつもりじゃ?」


 「いいえ、まだ決めていません。

 他の人たちもそうだと思いますが」


 「なるほど。

 他のテラ・スターの者については、わしは関わりたくないのじゃが・・・。

 オリバー殿、もしよかったら、とある小屋を使いなされ」


 「小屋・・・?」


 ギルバートはうなずいた。


 「アッシュクリフは、城塞都市なので、魔獣や外敵からは守られておる。

 しかし、ルンフェの小屋は、城壁の外にある故、多少危険じゃが・・・」


 「おねがいします、ギルバート卿!」


 オリバーは頭を下げた。


 「実は、とても不安なんです。

 旅行に来たと思ったら、いきなりこっちの世界に来ちゃって。

 まだ、ここの世界の貨幣とかも、分からないし・・・」


 老魔術師は、うなずいた。

 大きなしわしわの手で、水晶玉をいじくっている。


 「ルンフェの小屋は、アッシュクリフの街から一キロ離れた、森の中じゃ。

 魔獣は出ないが、オオカミや、時にはグリーン・ベアが襲ってくるかもしれん。

 まあ、オリバー殿ならば、大丈夫だとは思うが。

 存分に使ってくだされ。

 あと」


 ギルバートは、声をひそめた。


 「他のテラ・スターの方々には、秘密にしなされ。

 とくに、男の方々には・・・」


 「惑乱の術は、あの中の男が、かけたんですよね」


 オリバーは嫌な顔をした。

 その者のたくらみは失敗に終わったが、尻尾はつかめなかったのだ。


 「いずれにしても、おれには友人がいないので、誰にも話しません。

 本当にお世話になります」


 彼は深々とお辞儀をした。


 「じゃ、おれがルンフェの小屋まで、案内しますよ!」


 ギルバートの弟子、赤毛のマーティンが言った。


 「よし、誰もつけてないな。

 あ、これ便利でしょう?

 『生命探知機』って言うんですよ。

 これがあれば、ダンジョンだろうが迷宮だろうが、難易度がさがります!

 最安値で、三万モルくらいかな。

 どうです、お金をためて、買うのは?

 あ、別に、宣伝じゃないっすよ」


 「これ、マーティン!」


 ギルバートは、おしゃべりな弟子を叱った。


 「まったくおぬしは、いらぬことばかりしゃべりおって。

 さっさとオリバー殿を、案内せい!」



               *****


 「ここですよ、近道は」


 マーティンは、城の中庭にある、マンホールを開けて入った。


 「はしごがあるから、お気をつけておりて。

 暗いなあ、ともし火!」


 そこは、地下水道だった。


 「思ったよりも、汚くない・・・」


 「ええ。

 アッシュクリフでは、排水は清めてから、川に流しているんもんで。

 でないと、街の近隣に住まう農夫や漁民の生活が、とんでもないことになりますからね」


 「貨幣について教えてもらいたいんだ」


 「ああ、さっき、おれがモル・・・って言いましたからね。

 はい。

 ここモルガニウムのほとんどの国で、貨幣はモルを使っています。

 ただし、物価は国によって、まったく違いますが」


 「そういえば、金貨は?

 金貨一枚で、何モル?」


 マーティンはうなずき、再び点灯魔法をかけなおした。


 「ここ、レイモーン国では、金貨一枚で、だいたい一万五千モルです。

 もちろん、多少は変動しますが、ここ数年はそれくらいですね。

 ついでもって、パン一本は、大体八十モル。

 レイモーンは、土地が悪いから、なかなか農作物がとれないんですよ。

 だから、食費が高い高い」


 赤毛の少年はべらべらしゃべり、ついに、ツタ状のはしごまでたどり着いた。


 「あ、オリバー殿。

 この地下水路は、時々、シックマウスが出現します。

 ほら、あそこ・・・」


 彼が指差した場所には、水中から赤く光る二つの目がのぞいていた。


 「やつらは、水中呼吸ができるんで、溺死しないんですよ。

 それ!」


 マーティンは短剣を投げ、それは突進してきた巨大鼠の頭に刺さった。

 体長一メートルほどの、黒ずんだきたないネズミだ。


 「弱いけれど、気をつけてください。

 やつらにかまれると、フール熱になります。

 熱病の一種で、魔法が使いにくくなる、やっかいな病気です。

 錬金術師か、僧侶であれば、治せるんですが。

 もし、病気になったら、寺院に行くことをおすすめします」


 はしごを登ると、そこは古井戸だった。

 横に、質素な小屋が建っている。


 「では、お気をつけて」


 マーティンは手を振り、別れの挨拶をした。


 「小屋の中には、簡易魔法を記した書物と、錬金道具があるはずです。

 あと、寝具・調理台もあります。

 では、ごゆっくりとお休みください」


 「ちょ、ちょっと!」


 オリバーはあわてた。

 しかし、赤毛のマーティンは陽気な顔をしつつ、はしごを下りていった。


 (すみかを見つけたのはいいけど、まずは資金を調達しなくちゃな。

 ギルドで仕事を見つけなきゃいけない)



               *****


 そのころ、王城門の付近で・・・。


 「あれ、オリバーはどこかな?」


 ユリエは、荷物を背負いつつ、きょろきょろしている。

 他の生徒らは、泣きながら城を追い出され、今頃は、スラム街をうろついていることだろう。

 安藤先生は、物置小屋で、伏せったきり。

 彼女の言葉に、ルミが、そわそわとしはじめた。


 「あのひと、ギルバートさんと仲がいいから、お城にいられるんじゃないかしら?

 すごい能力の持ち主だから、待遇が違って当たり前よね」


 「彼は、それに乗るような性格じゃない」


 いつのまにかそこにいた、秋山しずかが反論した。


 「それよりも、あたしたちが今後、どうやって生活すべきか、考えなくては。

 オリバーは有能だし、優しい人だよ。

 でも、それに甘えてはいけない。

 あなたたち、彼にべたべたひっついて、迷惑をかけている」


 とたんに、彼女らは険悪なムードになってしまった。

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