オリバー、落とされる
初投稿です。
よろしくお願いします。
201X年、5月12日。
市立河中中学校の二年生は、笹山高原へ、二泊三日の宿泊学習のために向かっていた。
バスの中で、一人の少年があくびをしている。
彼は一人で座っていた。
その様子を見て、クラスの女子が馬鹿にしたように笑っている。
カラオケマイクをもった男子数人が、彼に悪口を浴びせつつ、流行のアニメソングを歌った。
担任の安藤先生(28歳・独身・女)は、知らんぷりだ。
さっきから、元彼にメールを打っている。
(ちょ~馬鹿らしい、ありえねえ)
彼は嫌な顔をし、窓の外を見た。
景色は単なる山ばかりで、美しくもなんともない。
「おい、塩ブタ!」
山田快人が、乱暴に少年の頭を殴った。
彼はクラスの不良で、その父親は地主で市会議員だった。
だから、その取り巻きと共にやりたい放題だ。
「聞こえてんのかぁ~、ゴルァ!」
ドスの利いた声で、取り巻きの一人、遠藤大輔が座席を蹴る。
14歳にして身長180センチ以上ある、巨漢だ。
父親はスポーツ選手で、大輔もまたスポーツ万能である。
その体力を利用し、リンチしまくるのだ。
彼は静かに振り向いた。
「聞こえているよ、何か用?」
彼、こと塩村織葉(オリバー)は、おどおどとつぶやいた。
色白でかなり太っていて、おまけに眼鏡。
背が低く、持ち物は中古品ばかり。
シングルマザーの母親は、彼が8歳の時に、パチンコ屋の店員と駆け落ちした。
以来、彼は、児童養護施設から、学校に通っている。
貧乏でイケメンでなく、勉強も運動も苦手。
口下手で引っ込み思案な性格。
だから、ずっといじめられていた。
たった一人だけ、助けてくれた女子がいたのだが、最近はなぜか無視しているようだ。
(笠原さん・・・)
オリバーは、やや近くに座っている、こげ茶色のセミロングヘアの女子を見た。
しかし、彼女はちらりと彼を見やると、あわてて目をそらした。
「おい、塩ブタ、おれ、のど渇いた!
ジュース買ってきて、100%のがいい。
もちろん、おめえの金でな」
「何言ってんだよ。
バスの中に販売機なんてないだろ」
オリバーはもごもごと反論した。
すると、山田と仲間たち(遠藤、北川、八田、長沢、杉田)は大笑い。
「はぁ?
おめえ、やっぱりバカだなあ!
バスから降りてに決まってんだろ!」
彼らはバスの窓を開けた。
そして、オリバーの白い丸っこい体を持ち上げて、落そうとしている!
「ぎゃあっ!
助けて!」
オリバーは眼鏡が落ちるのも構わず、泣き叫んだ。
逆さづりになり、時速60キロで過ぎ去る路面と、もうすこしで激突しそうになる。
いじめっ子たちは笑い、女子たちも笑っている。
安藤先生は無視したままだし。
「あんたたち、塩村を殺す気!
もうやめなよ、警察に電話するよ!」
これは、笠原百合絵の声だ。
(ああ、笠原さん・・・)
オリバーは安心してさらに涙を流した。
不良グループと、笠原百合絵がなにやら言い争っている。
そしてついに、オリバーをぶら下げていた不良の一人が手を離した。
「ぎゃあ~っ!」
いじめられっ子の太った体は、走行中のバスから落ち、地面に叩きつけられた瞬間・・・。
河中中学校2-4組の生徒24人と担任教師を乗せたバスは、白いまばゆい光に包まれて、忽然と消え去った。
あとからは、何もなかったように、2-5組のバスが走り去って行った。