走るんだメロス
「いやだ!走りたくない!」
そう言う子供の名前はメロス、十二才だ。
「メロスしっかりしなさい!」
「いやだ!」
「なら勉強しなさい!」
「いやだ!」
メロスを叱る者がいる。
だがその人は決してお母さんではない。
二週間前からメロスを教えている家庭教師だ。名はアバズレロ、男である。
「僕は、なにも、したく、ない!」
アバズレロは駄々をこねる少年にうんざりしながら横目で本の山をみた。
成人雑誌、俗に言うエロ本というものがそこには積まれている。
「はぁ……君が唯一走るのはエロスの道だけだからねぇ」
「お前そういうこと言うのほんとヤメロスww」
「なんで笑ってんの?」
話が進まないので無理矢理勉強を開始させる。
「おい!離せアバズレロ!あばらはずれろ、死ね!」
「(口の悪いガキだなぁ)はいはい。勉強しようねメロス君。ホメロスはなにで有名かな?」
「女子!」
「ざんねーん、答えは叙事詩だからねー。君はそういう方面に対する記憶だけはめっぽう強いんだから女子の中にじをいれるって覚えようねー」
「女子、中、じ……。まさかアナr」
「メロス君それ以上言ってはいけない」
「はい先生」
どうしてもそういう方面に持ってきたがるメロスにアバズレロは疲れを感じた。
「メロス君真面目に勉強しようよ。君のお父様のミトコンドリア伯爵がお怒りになってしまうよ」
「ンゴww」
「え?なんでそういう反応?」
メロス君はなぜか笑い続ける。
そんな少年の反応にアバズレロは怒るというよりも呆れを感じた。何よりも疲れた。
「アツハッハッハー、デュフフフフフン」
「……」
「デュフフフパパパパン。パンが二個ある、なーんだ?」
「バンッ!パンッ!(手を叩く音)」
「ざんねーん、パンツでしたー」
「言わせたくないからこんなこといったのに!」
「アハハハ」
狂気が空間を支配する。
深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ。
メロス君の相手をしているときにアバズレロはこんなことを思った。
そして帰りたい。
「メロス君、私はもう疲れたよ」
「そう!?じゃあ遊んできていい!?」
「もういいよ……好きにしてくれ」
「わーい。じゃあ近所一周走ってくるねアバズレロ先生」
「君が?走るのかい?」
「うん最近×××で綺麗な下着が干してあるんだ。」
「あー、あそこに住んでる人は60過ぎたオバサンならぬお婆さんだけだよ」
メロスは動かなくなった。
返事がない、ただの屍のようだ。
顔の近くを思いきり踏みつける、こちょこちょする、しかし反応がない。
返事がないただの屍のようだ。
「ふぅー」
メロスを倒したからといってアバズレロに達成感はない。ただ疲れた、それだけのことだ。
退室し、扉を閉める。
「はあー……。
チッ、話が美味しすぎると思ったんだよ!なにが『三週間息子に一日三時間勉強教えたら百ゴールド差し上げます、ただし簡単なテストを息子が解けるようになることが条件です』だ!なんだあのエロガキ!ウザすぎる!」
普段の穏和な口調が崩れ、怒りに震える男の姿。
そんな状態のアバズレロに近づく者がいる。
「アバズレロさん。どうしたんです?」
「はっ、ブルータス!」
アバズレロはブルータスにメロスのことを話した。
「なるほどなるほど。じゃあ俺がメロスの扱いを見せますよ」
「そんなものあるのかい?」
「ありますよ。そういえば上司のカエサルに買え!ってかいた紙を張り付けた猿を送りつけました」
「お、おう」
二人の男はメロスの部屋にはいる。
そこには速くも復活を遂げた少年の姿があった。
「フフフ、猛る、猛るぞ。僕のあそこが、命の元が!興奮していくー!うぉぉぉぉぉ」
「やあメロス。そしてそういうことやるのはやメロス」
「ブルータス!お前もか!」
二人は友情を確認しあった。
それを、絶望した表情で見るアバズレロ。
「さてメロス。問題だ。まず綺麗なお姉さんとブラジャーがある」
「え!?」
驚くアバズレロ。
ある?色々おかしい。
「そいつはてぇーへんだぁー!」
「そして言いました5の5乗+7の7乗+84っていくつだっけ?」
「368,476,752」
「即答!?」
またもや驚くアバズレロ。
「ざっとこんなもんですよアバズレロさん」
「あ、ありえない」
愕然とするアバズレロ。
「そういえばブルータス。昨日レイカちゃんと遊んだんだけど。レイカにレーカレーカレーカレーカレーカレーっていい続けたら泣き出しちゃって」
「ダメじゃないかメロス。女の子には優しくしないと。……レイカ、カレー、プッ」
「そこで笑っちゃダメだろブルータス」
アバズレロが呆れる。
彼はこの仕事を受け入れてからずっとこんな感じだ。
「その泣き顔に僕ゾクゾクしちゃった」
「はい、その発言アウトー」
『イエーイ!!』
「もうこの家の人達イヤだ」
「ほら、アバズレロさん。こうやってメロスに勉強を教えるんですよ」
「つまり?」
「問題にパンツ混ぜとけば大丈夫です」
「……」
「大丈夫ですよ。私は東大にいきたい。英訳するとI want to go to-die(私は死にたい)と呼ばれる所に受かったあなたなら!」
「あ、うまい」
アバズレロは少し感心した。
「じゃあ、もうかえるよメロス君、ブルータス」
「またこいよな!」
「……」
帰るアバズレロ、元気に見送る少年。
その姿は第三者からみれば微笑ましく見えただろう。
次の日、アバズレロはメロス君の待つ家に訪れた。
「はっはっはー、いいぞメロス、頑張れ頑張れ」
拳を振る少年。それを応援するブルータス。
「どうしたんだいメロス君。君が運動を、拳法をするなんて」
「先生のアバラを粉骨ハッハーイするため!」
「(粉骨砕身……)ああ、なるほどね。でもよくエロ方面以外で努力する気になったね?」
「フッ、だって、ハッ、当然だよ、とりゃ、アバズレロ先生」
にんまりと明るく笑う少年。
「だって僕はメロスだから!」
―――完
チャンチャンチャン♪
でも~それは、答えになってない♪
カオスな少年メロス君の三十年後のステータス
走る者 興奮する者 猛るもの(白いものが) 怠け者 狂気持ち 己をさらけ出すことが出来る者 変質者 老人の心遣いが出来る者
前科三犯