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シスコン兄貴奮闘記  作者: 恵/.
第一話 妹を守るため、魔術師になります
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全力で優香といちゃつくぜ!


  ◇



 ……翌日。俺はいつものファストフード店で、魔緒から事の顛末を聞いていた。

「結局、あの綾川って人には逃げられたのかよ?」

「ああ。重傷は負わせたが、途中でな」

 俺の問いに、魔緒はしれっとそう答える。重傷って……しかも「途中」っていうことは、まさか、殺す気だったのか?

「折角手当てしてやろうと思ったんだが、仲間がいたみたいでな」

「そうか……って、仲間?」

「ああ」

 俺や優香を襲った奴ら以外にも、彼女には仲間がいたらしい。そいつが綾川さんを回収したのだろう、と魔緒は言った。

「綾川は磁気操作の能力者だったんだが、他の奴らは恐らく退魔師だな。お前を襲ったのも含めて」

「能力者? 退魔師?」

 また何か、聞いたことのないフレーズが出てきたな。そう思って、俺は魔緒に説明を求めた。

「能力者ってのはそのままだ。特異な能力を持った奴。超能力者とかいえば分かるだろ? 退魔師は……また今度な」

「おい」

 何故そこで説明を渋るんだ? 聞かれると困ることでもあるんか?

「多分、次会う時に専門家を連れてくると思うから、そのときにでも説明してもらえ。俺にはうまく説明する自信がない」

 そんなややこしい内容なのかよ……? まあ、それならいつまでも食い下がってても時間の無駄か。そう思って、俺は別の質問を投げかけることにした。

「で? 結局俺は、これからどうすればいいんだ?」

「現状はとりあえず待機。次に俺が来るまでは、自主練習でもしておけ」

 自主練か……まあ、魔緒も色々と忙しいんだろうし、対応を検討したりしないといけないから、それが妥当なんだろう。

「それから、妹といちゃいちゃするのも忘れるなよ」

「了解」

 追加の指示に、俺は速攻で頷いた。そんなこと言われたら、やらない訳にはいかない。全力で優香といちゃつくぜ!



  ◇



「優香ー! 一緒にお風呂入ろうぜー!」

「死ねっ!」

 その日の夜。一緒にお風呂で兄妹の親睦を深めようと提案したら、間髪置かずに蹴られました。グッジョブ!

「そんな冷たいこというなよ~。たまには裸のお付き合いしようぜ~」

「そ、そんなに私の裸が見たいっていうの……?」

 蹴られてもなお食い下がる俺に、優香は自分の体を抱き締めながら問いかけて来た。なんて答えるかって? 決まってるだろ?

「そりゃ、見たいか見たくないかでいえば、断然見たい」

「今度こそ死ねっ!」

 正直に答えたら、またも強烈な蹴りを入れてきた。……なんだい優香、お兄ちゃんを快楽死させる気かい?

「あ、兄貴が、変態シスコン野朗から変態どMシスコン野朗にランクアップしてる……」

 優香が、俺のことをゴミのように見下してくる。しかし、何といわれても、今の俺にはご褒美でしかないっ!

「……ふふっ、もう終わりかい?」

「き、気持ち悪い……」

 あぁ……なんか、昨日のあれから、変なものに目覚めたみたいだ。ちょっと自分でも引くくらいの、マゾヒズム的なものに。

「というわけで、一緒にお風呂だっ!」

「嫌よっ!」

 それから暫く押し問答を繰り返していたが、結局母さんの介入(主に俺がしばかれただけ)によって、結局バラバラに入浴することとなった。



  ◇



「優香ー! 一緒に寝ようぜー!」

「死に絶えろっ! この犯罪者!」

 入浴を済ませた俺は、優香の部屋へ、枕を片手に突撃訪問。しかし、扉を開けた瞬間に蹴り出されてしまった。

「何堂々と妹と同衾しようとしてるのよっ!?」

 「と」が多い突込みだな……まあ、それはともかく。

「いいじゃないかよ~。たまには人肌の温もりを感じながら眠りたいんだよ~」

 内側から鍵を掛けたのか、開かなくなった扉に張り付いて、俺は食い下がった。しかし、返って来たのは、こんな素っ気無い言葉だった。

「そんなに人肌が恋しいなら、お母さんと寝れば?」

「嫌だよ、あんなババアなんかと―――」

「誰がババアですって……?」

 ふと聞こえてきた声に振り返ると、そこでは母さんが、満面の笑みで佇んでいた。思わずババア呼ばわりしてしまったけれど、未だに実年齢-20歳くらいの若さを保つ母さんの笑顔は、息子の俺でも見惚れてしまいそうだった。―――こんなシチュエーションでなければ、だけど。

「また懲りずに、優香にセクハラしてるみたいだし……ちょっとお仕置きしないとね」

 ―――その日、俺は地獄というものを知った。本当に怖いのは、魔術師みたく得体の知れない相手ではなく、怒らせた女性だということも。



  ◇



 ……それから数日間、俺は優香と全力でいちゃいちゃしようとしたが、毎回母さんに邪魔されてしまった。

「優香ー! ちゃんと温まってるかー?」

「入ってくるなっ!」

「それ、犯罪だから」

 お風呂に突入しようとしたときは、脱衣所に入っただけで摘み出されるし。

「優香ー! あーんしてやるぞー!」

「止めて!」

「食べ物で遊ばないで頂戴」

 優香のために、夕食のハンバーグを分けてあげようとしたら、その日は飯抜きになったし。

「優香ー! アイス買って来たぞー!」

「要らなーい!」

「なら、私が貰うわね」

 優香のためにアイスを買って来たら、母さんに奪われるし。どうしてこんなに妨害するんだろうか? 俺たち兄妹が仲良くするのが、そんなに嫌なんだろうか?



《いや、それは普通の対応だぞ?》

 というわけで、俺の不満を魔緒に相談していたのだが、電話越しの魔緒からはそんな台詞が返って来たのだった。

《というか、最後の一つ以外は兄の領分を越えてるぞ。普通なら通報されてる》

「いいじゃないか、兄妹なんだから」

《どちらかといえば、兄妹だからまずいんだろうが》

 何故か呆れ気味の魔緒は、「もういい」と勝手にその話題を打ち切った。なんだよ、妹といちゃつけと言ったのはそっちだろうに。

《それより、退魔師の件なんだが》

 ……どうやら、ここから先は真面目な話らしい。俺も気持ちを切り替えて、姿勢を正しながら聞くことにした。

《襲ってきた退魔師の特定が出来た。明後日、専門家を連れてそっちへ行く》

「……そうか」

 俺が優香といちゃついている間も、魔緒は仕事してたんだな。社会人、大変だな……。

《それで、一つ聞きたいんだが》

「何だよ?」

 俺が質問の内容を促すと、魔緒はこう尋ねてきたのだった。

《近くに、雀荘はないか?》

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