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シスコン兄貴奮闘記  作者: 恵/.
第七話 昔の妹と今の妹
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早く帰って横になれば、多少は気が晴れるかもしれない。そう思って、私は家へと急いだ。


  ◇



 ……さて、アンネとヴィクターの仕事はうまくいっているのか。


「ひぃっ……!」

 室内に木霊する、男の悲鳴。ここはとある雑居ビル―――黒憑と戦ったのとは別だが、近い場所にある―――の一室で、部屋の中には男が数名ほど倒れている。先程悲鳴を上げた男も、床に押し付けられているのだった。

「ふんっ……。男がこんなにいてこの程度とは、ジャパンの将来が心配ですわ」

「草食系男子なのでございます~」

 そして、彼らをコテンパンにしているのは、アンネとヴィクター。どうやら、この事務所らしき部屋に押し入ったようだ。……魔術師の二人に対抗できる一般人はそうそういないと思うのだが、それを突っ込む役はこの場に存在しなかった。

「け、警察に……」

「お黙りなさいっ!」

「ひぃっ……!」

 床に落ちている電話機に手を伸ばした男。しかし、アンネに一喝されてそれもままならない。……強盗かよ? 完全に押し掛け強盗だよな?

「さてと……。ヴィクター、どうですの?」

「はい~。魔力も精霊も異常ないのでございます~」

「となると、ただの下っ端ですわね……クライアントを尋ねても、どうせ逃げられてしまうでしょうし」

 二人はどうやら、ここを魔術結社の支部か何かだと思ったらしい。けれど、魔術の痕跡がないので、ただの雇われだと判断したようだ。二人の勘違い……では、済まされないな、これは。

「あなたたちは、クライアントから何を指示されていましたの?」

「ク、クライアント……?」

「とぼけるんじゃありませんわっ!」

「ひぃっ……!」

 高圧的な態度で男を詰問し、責め立てるアンネ。……その傍らで、ヴィクターは読書を再開していたが。仕事しろと言うべきなのか、アンネを見ていると判断に困る。

「このアドレスからの依頼があったはずですわ。さっさとその内容を話しなさい」

 アンネはスマホを取り出すと、そこに一つのメールアドレスを表示し、男に見せる。すると男は、問われた内容について、大人しく喋り始めた。

「そ、それなら、ガキを一人拉致って来いって話だよ……」

「拉致?」

 男の言葉に、アンネは眉を顰めた。……っていうか、顧客のアドレスを記憶しているのかよ。凄いな。その記憶力でもう少しまともな職に就こうぜ。

「ああ。俺たちはヤクを捌くだけで、そういう仕事は請け負ってないんだが……報酬があまりにも莫大で、何人かはそっちに行ったぜ」

「詳細を教えなさい」

「それなら、そこのパソコンにメールが残ってるぜ」

 男が指差した机上のノートパソコン。アンネは男をロープで拘束してから、それを操作する。そしてメール用のソフトを立ち上げ、お目当てのアドレスを探し始めた。

「「crimers666@」―――これですわね」

 アンネが探していたのは、あるアドレスの、ローカル部と呼ばれる先頭の箇所。後半のドメインはバラバラなものの、このローカル部を必ず使う組織があるのだ。

「……え?」

 それから、そのメールを開くと、そこに書かれていたのは―――

「ヴィクターッ! 急ぎますわよっ!」

「はい~」

 その内容を確認した途端、アンネはヴィクターを引き連れて、部屋を出て行ったのだった。



 ……その頃、優香は。


「優香、ほんとに大丈夫? 顔色悪いわよ?」

「大丈夫だってば……」

 下校途中。私はいつものように、光子、花野の二人と家路に着いていた。因みに、光子が言っているのは、私の体調のこと。確かに、今日はいつもより調子が悪いけど、そこまで酷くない。体は普通に動くし、視界も良好だ。光子が少し心配しすぎなだけだと思う。

「そう? もし途中で倒れそうになったら、携帯で連絡してよ?」

「はいはい」

 光子の言葉を適当にあしらって、私は光子たちと別れた。……光子が実家に帰ったから、途中で独りぼっちになるのよね。別にいいんだけど。

「……ふぅ」

 でも、今日はちょっと心細い。別に体がおかしいわけじゃないけど……昨日からずっと、頭の中がモヤモヤしているのだ。頭の奥に霧が掛かって、記憶が曖昧になっているような感じだった。

「……帰ろ、っと」

 早く帰って横になれば、多少は気が晴れるかもしれない。そう思って、私は家へと急いだ。



 ……優香と別れた光子は。


「優香……ほんとに大丈夫かしら?」

 光子は親友の身を案じ、深々と溜息を漏らしていた。優香は昨日、脳がフリーズして意識を失っていた。それが原因で、彼女は今日も体調が優れないのではないか。光子はそう思っているのだ。

「そこまで心配されるのなら、式神の一つでもつけましょうか?」

「そこまでしなくてもいいとは思うけど。あの子……魔似耶、だっけ? あの白猫さんがちゃんと見守ってくれてるみたいだし。いざとなったらそっちが対処してくれるはずよ。必要がないのに、無理に親友の私生活を覗きたくないし」

 執事の提案も却下し、光子は帰宅を急ぐ。一度荷物を置いて着替えた後、いつものように琢矢たちと合流するためだ。特に今日は、優香の体調について話さなければならないし。メールで伝えてもいいのだが、優香の体調が悪いというのも光子の直感に近いし、直接会わないとうまく伝わらないだろうと判断したのだ。

「……!?」

 しかし、その足が止まった。彼女のように、特殊な技能を持った者にだけ感じることが出来る気配。それを察知したからだ。

「お嬢様」

「分かってる」

 花野の声に落ち着いて返しながら、光子は周囲に目をやった。……彼女たちを覆うように展開された、通常では認識すら出来ない壁。即ち結界が、辺りに張られているのだ。

「外部から姿を見えなくするタイプの結界みたいだけど……術者が、結界内にいないようね」

「物質の透過を妨げる結界も張ってあります。……閉じ込められた、ということでしょうか?」

「そうみたいね……でも、このタイミングで、しかも閉じ込めてくるなんて」

 結界の種類を特定し、状況を素早く理解。そして、術者の目的を考え始める光子。

「……優香が危ないわっ!」

 そしてすぐ、大切な親友に思い当たった。今、優香に一番近いところにいると言ってもいい光子たち。そんな彼女たちを足止めするなど、優香に危害を加えるつもりなのは明白だ。

「花野、結界を破るわよ」

「はい、お嬢様」

 そしてすぐさま、二人は結界を破壊しに掛かるのだった。

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