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シスコン兄貴奮闘記  作者: 恵/.
第七話 昔の妹と今の妹
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……女性って、どうしてそんなに勘が鋭いんだろうか? 超能力?


  ◇



 ……俺はほのかさんの案内で、私立草の木学園―――魔緒やほのかさんの職場にやって来た。敷地も校舎も馬鹿みたいにでかい点を除けば、外観は普通の高校と大差ないが……こう見えて、裏では魔術師を育成してるんだからな。至る所に罠が設置してあっても不思議じゃない。


「……琢矢君。あほなこと考えてないで、さっさと行くっすよ」

「なっ……!」

 しかし、まるで思考を見透かしたようなほのかさんの言葉に、俺は驚きを隠せない。……女性って、どうしてそんなに勘が鋭いんだろうか? 超能力?

「考えてることが顔に出てるっすよ」

「あ……」

 と思ったら、完全に俺のせいだった。……俺、ポーカーフェイスの練習でもしたほうがいいのか?

「さ、こっちっす」

 ほのかさんに続いて、俺は学園の門を潜った。今日は休日なので、校内にはあまり生徒がいない。校庭に、運動部員と思しき学生がいるくらいだ。そんな中、俺たちは正面の建物に入っていく。

「ここは管理校舎……つまり、先生や事務員が事務仕事をする建物っす。ボスがいるのもここっすよ」

 それから階段を登って、最上階である四階に辿り着く。そこには木製の扉が一つだけあり、扉には「理事長室」とだけ書かれている。……意外に簡素だな。こういう重役の部屋って、扉もかなり豪華だと思ってたのに。パッと見、普通の扉だ。

「失礼するっす」

 ほのかさんは扉をノックしてから、返事を待たずに扉を開ける。事前に連絡を取っていたらしいが、それにしても不躾な気が……もしかして、ここって案外気軽に入れる場所なのか?

「あら、いらっしゃい。時間通りね」

 部屋の中は殺風景で、大きな机と、簡素な応接セットがあるだけだった。そしてその机について、デスクワークに勤しんでいたのが……胡桃さんだ。

「琢矢君を連れて来たっす」

「ええ。そこに座ってもらって」

 俺が応接セットに腰掛けると、胡桃さんも対面に座る。……向かい合ってみると、彼女の瞳―――琥珀色の双眸に、心が吸い込まれそうだった。

「じゃあ、私はこれで失礼するっす」

「ええ。ありがとね」

 ほのかさんも退出して、俺と胡桃さんの二人っきりになる。……やっぱ、ほのかさんは聞かないんだな。それだけ、魔緒のことを信頼しているのか。

「さてと。魔緒のことだったわよね?」

 胡桃さんの確認に、俺は静かに頷いた。……ほのかさん曰く、胡桃さんは魔緒の過去を知っているらしい。本人の許可なく聞くのは気が引けるが、本人とはコンタクトが取りづらいし、仕方ないと割り切ろう。

「今から話すことは、本人から直接聞いたわけじゃないわ。……だから、限りなく客観的な内容だと思う。けれど、途中で聞くに堪えないと思ったら言って頂戴ね。かなり残酷なこともあるから」

 この忠告にも、俺は頷いた。……無論、全ての話を聞くつもりではあるが、俺のメンタルが耐えられる保証はないからな。

「じゃあまず、私個人の話からするわ。……どうして私が、彼の過去を知っているのかについて」

 前振りなのか、胡桃さんは自分の話から始めだした。……確かに、何で魔緒が話していないことを知っているのかは気になるが。どうでもいいと言えばどうでもいいことだった。

「私が未来を予測できるのは知ってると思うけど……実はこれ、ただの魔術じゃないの。私、魔女だから」

「へ……?」

 しかし、それは初っ端から雲行きが怪しかった。……魔女ですか?

「つまり、異種族よ。人間じゃないわ。……「災厄」の幹部連中と同じ、異種族」

「……!」

 しかしそれは、言葉面よりもずっと重いことで。……「災厄」の中心になっているのも、人間とは違う種族だって言うのか?

「人間とは違う遺伝子構造を持って、生まれながらにして異能を操る。……魔女は三血統があって、それぞれが特徴的な瞳を持っているのよ。紫の瞳を持った「破壊の魔女ディストラクション・ウィッチ」、発動する能力によって瞳の色を変える「七色の瞳の魔女セブンアイズ・ウィッチ」、そして琥珀色の瞳を持つ「未来視の魔女ドゥーム・ウィッチ」。私は三つ目の魔女、「未来視の魔女」なの」

 魔女に関する設定(?)らしきものを語りだした胡桃さん。……ということは、胡桃さんの美しい瞳も、魔女の証なのか?

「私たちに与えられた力は、「過去を知り、未来を読む」というものよ。―――現状だけでは未来を予知できない。未来を知るには過去を知る必要がある。そういう風に進化した種族なのよ。尤も、私はその一部しか受け継いでないから、魔術で多少は補強してるんだけど。それでも、他人の過去を知るくらいの力はあるの。……特に、波乱万丈な人生はね」

 ……要するに、それだけ魔緒の人生も大変だった、ってことだろうか? 見るからにそんな感じはするけど。

「あ、言うまでもないけど、あなたの過去も覗き見したから」

「のぉぉぉーーー!」

 かと思えば、今度は俺に爆弾が投下された。な、なんということだ……! 俺の過去も筒抜けなのかよ……!?

「大丈夫よ。他言はしないから。誰かに聞かれなければ」

 それって、聞かれたら他言するってことですよね……ま、まあ、俺も他人の過去を聞きだしてる最中だし、文句言える立場じゃないんだが。

「……じゃあ、話すわね。陰陽魔緒の人生について」



 ……その頃、絵美那は。


「……ふぅ」

 浜荻家の前にて。絵美那は深呼吸してから、インターホンに手を伸ばす。……これから、優香と会おうとしているのだ。もしかしたら自分のことを覚えていないかもしれないのだから、緊張するのは当然のこと。

「はーい」

 絵美那を出迎えたのは光子だった。事前に携帯で連絡を取り、絵美那を手引きする手筈なのだ。

「さ、入って」

「うん」

 優香と―――琢矢のことを忘れた優香と会うのが、絵美那は恐ろしかった。もしかしたら自分のことも忘れているかも……というのもあるが、一番の理由はそうでない。大切な幼馴染を奪い合っているライバルが、突然、訳も分からず試合放棄しようとしているのだ。「恋愛は正々堂々」を信条としている絵美那からすれば、それは手放しで喜べるものではない。寧ろ、琢矢が傷つく様を目の当たりにし、余計に苦しむだけだ。それが怖いだけ。自己中心的な悩みなのは、彼女自身が一番分かっていた。

「優香ー。お客さんよー」

「誰ー?」

 光子に呼ばれて、優香が絵美那の前にやって来る。……さて、どうなるのか。

「ゆ、優香ちゃん……!」

「あ、絵美那さん。何か用なの?」

「へっ……?」

 絵美那の姿を見て、優香はとても自然に、記憶の異常などなかったかのように、そう言った。……まさか、ここにきて記憶が戻ってたりするのか?

「わ、私のこと、分かるの……?」

「何言ってるのよ? またいつもの妄言?」

 どうやら、絵美那に関する記憶は健在のようだ。……となれば、問題はここからだ。優香が、絵美那との関係を覚えているかどうか。

「じゃ、しゃあ、私と優香ちゃんの関係って……何?」

「関係って……幼馴染でしょ?」

 ……そうか。絵美那は琢矢とずっと一緒で、優香とも関わる機会も多かったから、自身の幼馴染と認識されているのか。しかしこれだけでは、琢矢の記憶との関連が分からない。

「昔はそれほどでもなかったけど、海で会ってからは何度か一緒にいるでしょ? 文化祭に呼んで貰ったし、クリスマスにはプレゼントもくれたし、この前だって一緒にチョコ作りしたじゃない」

「そのチョコって、誰にあげたか分かる?」

 絵美那と過ごした時間は正確に覚えているらしい。なので絵美那は、より突っ込んだ質問で、琢矢に関する記憶を掘り起こそうとした。今年のバレンタインデーでは、優香は琢矢のためにチョコを作っている。それを思い出せば、連鎖的に琢矢のことも思い出せると踏んだのだ。

「誰にもあげてないわよ?」

「え……?」

 しかし、返って来たのは意外な答え。硬直する絵美那に気づかず、優香は言葉を続ける。

「光子や絵美那さんと一緒に、練習で作ったチョコを食べたりはしたけど……当日は誰にもあげてないわよ? あげる相手なんていないし」

 ……どうやら、優香の記憶は、琢矢に関するもの限定で全て消え失せているらしい。絵美那のことは覚えていても、彼女と共有した時間から、琢矢の存在が消されているのだ。それも、破綻のないように整合性を取りながら。琢矢がいなくても成立するように、記憶がうまく改竄されている。

「っていうか、どうしたのよ急に? そんなこと聞くために態々来たの?」

「え、えっと……ご、ごめんね? 変なこと聞いて」

「いいけど……」

 予想以上に面倒な状況に、これは前途多難だと、絵美那は思ったのだった。

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