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シスコン兄貴奮闘記  作者: 恵/.
第六話 チョコレートはどす黒い。人生の味。
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―――二人の魔術師による因縁の対決が、今始まりを告げた。

「……はっ。まだまだ、これからだぜ」

 ビルの中にて。緋色のローブを纏った男が、窓から外を見下ろしていた。

「精々、足掻くんだな」

 彼―――黒憑は、嘲るように、眼下に目を向けるのだった。



「どうするんだよ……?」

 魔緒曰く、ここには結界が張られて、俺たちは閉じ込められたらしい。―――つまり、ここには黒憑がいると考えていいのか。

「……よっと」

 すると魔緒は、その辺に落ちていた石を外へ向けて投げた。……しかし、石は途中で火花を散らし、壁にぶつかったように弾かれた。

「「火」のマナは、「温度変化と酸化還元反応」の象徴だからな。恐らく、結界の境界に触れたものを燃焼させるんだろう」

「はい~。そのようでございますね~」

 その結果から、魔緒とヴィクターさんはそう結論付けた。二人の話通りなら、ちょっとぶつかっただけで火達磨じゃないか……怖いな、おい。

「仕方ありませんわね。わたくしが結界を破りますから、タクヤたちはお逃げなさい」

「……いや、そういうわけにもいかないようだぜ」

 魔緒の声に、俺たちはビルのほうを振り返った。すると、入り口のほうに赤い塊―――火の玉が三つ、浮遊していた。

「ウィルオウィスプですのっ!?」

「黒憑の魔術だろうが……やっぱ、おかしい」

 魔緒はその光景に違和感を覚えているようだが、火の玉はそんなことお構いなしに近づいてくる。その内一つが低空飛行していて、生えている草に燃え移りそうで怖い。

「アンネ! ヴィクター! 時間稼ぎ頼む!」

「了解ですわっ!」

「はい~」

 火の玉を迎え撃つべく、アンネさんとヴィクターさんが前に出る。対して魔緒は、魔道書を取り出していた。

「恵みの雨、大地を濡らし、青葉を茂らせ―――動乱の炎を鎮めよっ!」

 アンネさんの詠唱。日本語じゃなくて聞き取れなかったが、凛とした綺麗な声で、魔術を発動させる。すると、彼女の周囲に霧が立ち込め、それが火の玉へ向かっていった。霧は火の玉に触れると、途端に濃度を上げ、火の玉を消し去る。

「やりましたわっ!」

「まだなのでございます~」

 ヴィクターさんの言葉通り、今度はビルの屋上から炎の帯が何本も、俺たち目掛けて飛んできた。まだあるのかよ……。

「大地に眠る精霊よ、不浄を阻む盾となれ~」

 今度はヴィクターさんの詠唱。やはり外国語のようで聞き取れなかったが、いつも通り間延びした口調だった。彼女の魔術により、前方の地面が隆起して、炎の進行を妨害する。

「マオ~。まだなのでございますか~?」

「もう行ける」

 地面が元に戻るのと、魔緒から返答があったのはほぼ同時だった。

「神に捧ぐ、聖女の鼓動。骸に残る、温もりさえも供物と化せ。捧げよ聖女」

 魔緒の詠唱が流れると、突然周囲の気温が下がったようだった。……これって確か、前に黒憑と戦ったときに使ってた魔術だよな?

「……ったく。駄目か」

 しかし、魔緒の表情は険しいままだ。何が駄目だったのか?

「結界が破壊できてねぇ。……対熱系魔術用の「聖女の贄」でも壊れないってことは、自動維持型の結界じゃないな」

「そのようですわね。恐らくは、術者が常に結界を維持しているのでしょう。術者本体を叩かない限り、この結界は破れませんわ」

 どうやら、さっきの魔術で結界を消そうとしたらしい。だが、黒憑が今も結界を維持しているらしくて、それは叶わなかったようだ。

「……ったく。こいつらを退避させるのは無理っぽいな。―――お前ら、今からビルに突入するぞ。全員、戦闘準備をしておけ。特に退魔師組は霊銃の形成をしておけ」

 魔緒は俺たちのほうを向いて、そんな指示を出してきた。……やるのか。黒憑と、また対峙するのか。

「分かったわ」

「はい」

 光子と花野は霊銃を手にし、戦う準備を済ませていた。……俺も、警棒を装備しておくか。あの炎には無意味かも知れんが。

「先頭はアンネ。屋内には罠が仕掛けられている可能性があるからな。お前が適任だろう。しんがりはヴィクター。背後からの不意打ちに備えてくれ」

「分かりましたわ」

「はい~」

 アンネさん、魔緒、俺、光子、花野、ヴィクターさんの順番で、俺たちはビルに入って行った。



「……罠の形跡はありませんわね」

「油断するなよ。お前は奴と術式系統が違うんだから。精霊使いのヴィクターはともかくな。とりあえずお前は、罠を張るのに適した場所を警戒してくれ」

「了解ですわ」

 ビルの中は埃っぽく、人が使っているようには思えなかった。実際、通路の奥のほうは真っ暗で、テナントが入ってる様子はない。

「なあ、何でアンネさんが罠の場所なんて分かるんだよ?」

「アンネは魔術で地雷を仕掛けるのが得意だからな。罠に関しては俺より詳しい」

 なるほど。さっきは霧の魔術を使っていたが、アンネさんの本領はそっちなのか。だったら、先頭を進むのは適任かもしれない。

「あら~!」

 すると、後方からヴィクターさんの声が。何かあったのだろうか?

「……なるほど。出入り口も塞いだのか」

 どうやら、敷地の境界に張られたのと同じ結界が、入り口にも張られたらしい。……これで、退路も断たれたわけか。

「……やっぱりおかしい。黒憑が今までに、結界や罠を使ったことは一度もない。黒憑とは別人なのか……それとも」

 魔緒の言葉は、最後まで紡がれることはなかったのだった。



  ◇



 ……それから俺たちは、ビルの階段を登って行った。階段を登るたび、隔壁のように結界が張られ、俺たちは追い詰められていく。それでも、魔緒は焦ることもなく、ただ上を―――黒憑のほうを見ていた。


「……次だな。気をつけろよ、お前ら」

 そして最上階の手前。魔緒は黒憑の気配を感じて、俺たちに注意を促してきた。……この先に、黒憑が。

「特にアンネ。ドアを開けた途端の不意打ちが来るかもしれない。焼かれないようにな」

「当たり前ですわ」

 最上階にある部屋の扉を、アンネさんが慎重に開ける。部屋の中はだだっ広く、床に埃が薄っすらと積もっていた。窓ガラスにはひびが入り、壁や天井のコンクリートも亀裂が出来ているなど、かなり損傷が激しい。いくら老朽化が進んでいても、ここまで壊れるものなのか?

「……黒憑。久しぶりだな」

 そんな中、窓辺に立つ人影に―――緋色のローブを被った男、黒憑に、魔緒はそんな言葉を掛けた。

「……大勢で押し掛けて来るなんて、えらく騒々しいじゃねぇか」

 すると、黒憑は俺たちのほうを振り返り、八重歯を覗かせながらそう言った。

「らしくない真似するじゃねぇか。お陰で、お前じゃないんじゃないかと思ってたぜ」

「こっちも、なりふり構っていられなくなったんでなぁ。てめぇを、てめぇの仲間ごと焼き払わなきゃならねぇんだからよぉ」

 二人は会話しつつも、魔緒は魔道書を構え、黒憑は右手の先に小さな火の玉を生成していた。一触即発を絵に描いたような光景に、俺も、光子も、花野も、アンネさんたちも、固唾を呑んで見守るしかない。

「そうかい。……だったら、お前のほうも出来てるな? ―――俺に殺される覚悟が」

 先に動いたのは、魔緒だった。電撃を放ちながら、黒憑へと突進していく。

「はっ! たりめぇだ!」

 対する黒憑も、火の玉を巨大化させつつ応戦する。―――二人の魔術師による因縁の対決が、今始まりを告げた。

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