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シスコン兄貴奮闘記  作者: 恵/.
第六話 チョコレートはどす黒い。人生の味。
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というわけで、俺はそのまま、ほのかさんにフルボッコにされました

 ……その頃、魔緒は。


「ただいま」

「おかえりなさい。……あら、珍しいお客さんね」

「お邪魔しますわ」

「お邪魔致します~」

 魔緒は自宅にアンネとヴィクターを連れて来ていた。そんな彼らを、魔緒の姉である七海が出迎える。

「また仕事だとさ。暫く泊めてやるつもりなんだが、いいだろ?」

「ええ。私は大歓迎よ」

 どうやら彼女たちは、日本での任務がある度に魔緒の家に来ては、時々泊まっているらしい。

「さ、二人とも上がって。子供たちも喜ぶと思うわ」

「ええ」

「はい~」



「あ~! アンネさんだ~!」

「ヴィクターさんも!」

「あなたたちも、お久しぶりですわね」

「あらあら~」

 家の中では、魔緒の娘たちからも歓迎を受けていた。完全に馴染んでいるようだな。

「そうそう、あなたたちにお土産ですわ」

「わぁ~!」

「ありがと~!」

 アンネは子供たちに、英国製の菓子を渡していた。……これは、英国でも一、二を争う高級品だぞ? 手土産には少々高価じゃないか?

「アンネ。気持ちは嬉しいんだが、あまり高いものを渡されると困ると言っているだろう」

「あら、このくらいでは、わたくしの財布はビクともしませんわ」

 その様子を見かねた魔緒が注意するも、アンネは平然としていた。金銭感覚がそもそも違うのか。やっぱり、いいところのお嬢様なんだろうかな。

「……今回は貰っておくが、今度からは自重してくれよ。ほら、お前たちも、アンネに感謝するんだぞ」

「うん」

「ありがとう、アンネさん」

「礼には及びませんわ。こちらはお世話になる身なのですから、寧ろもっと高価なものを贈るべきなのですわ」

 人の話を全然聞いていないアンネの発言に、魔緒はひたすら頭痛を堪えるのだった。



  ◇



 ……それからアンネたちは、陰陽家の者達と夕食を取り、彼らの家族団欒に混じっていた。ヴィクターのずれた発言に翻弄されたり、アンネの好奇心で家中が物色されたりしたものの、それも込みで楽しい時間を過ごしたようだ。


「アンネ、ヴィクター。子供たちと風呂に入ってくれ」

「そうですわね。では、お風呂頂きますわ」

「はい~。お先に失礼致します~」

 そして夜になり、魔緒は客人たちに入浴を勧めた。ついでに娘たちも一緒に入れようとしているし。

「それでは~、マオもご一緒にいかがでございましょうか~?」

「ヴィ、ヴィクター! 何を言い出すんですの!?」

 すると、またもやヴィクターの問題発言に、アンネが真っ赤になって抗議する。それを見て、助け舟のつもりなのか、魔緒は二人に対してこう言った。

「……生憎、子供たちだけならともかく、お前たちと入浴する気はない」

「あらあら~、マオはロリコンなのでございますね~」

「それ以上ふざけると本気で怒るぞ?」

 さすがの魔緒も、この発言は看過できなかった模様。娘と風呂に入ったくらいでロリコン呼ばわりされるのは、確かに不快だろう。

「アンネ。そこの馬鹿をとっとと連れてけ」

「わ、分かりましたわ……さ、ヴィクター、行きますわよ」

「はい~」

 半ば気圧されるように、アンネはヴィクターを連れて行った。残された魔緒は、額に手を当てて溜息を吐いている。

「……全く、またなの? いいじゃない、ヴィクターさんはああいう人なんだから」

「そういう問題じゃないだろ」

 二人の来客が立ち去った後、一連のやり取りを見ていた七海が声を掛けてきた。……魔緒がロリコン呼ばわりされることは、然程珍しいわけではないらしい。

「そういう問題よ。……ただでさえ、あんたは子供たちを溺愛しすぎてるんだから。誰かが突っ込まないと、過ちが起きそうで怖いのよ。絶対にないって分かってても」

 七海は姉らしく、魔緒を諭すように、そう言い聞かせた。そうなると、魔緒は逆らうことも出来ず、ただ黙って聞いているだけだ。

「そもそも、貴方とあの子達は本当の親子じゃないし。仁海に至っては、血も繋がってないわけだし。今後は自重しなさいよ、色々と」

「……一つ言っておく」

 そして、小言が終わってから、魔緒は呟くようにこう言った。

「娘たちとは、今年に入ってからは、一緒に入浴してねぇ」

「自慢のつもり? 当然のことじゃない」

 辛うじて搾り出した台詞は、姉に一蹴されてしまった。……ご愁傷様。



  ◇



 ……翌日。


「というわけで、先輩はお仕事っすから、今日は私が付き合うっすよ、琢矢君」

 恒例の訓練にて。今日はほのかさんが来ていた。魔緒はアンネさんたちの仕事に付き合っているみたいだ。

「さてと……今日は久々に、模擬戦をやるっす」

「げ……」

 その言葉に、俺は顔を顰めた。ほのかさんの模擬戦は、彼女のスパルタ教育の象徴でもある。はっきり言って、あんまり嬉しいものではない。

「今回は私も攻撃するっすから、気を引き締めるっすよ」

「う……」

 おまけに、今度は完全に打ち合いらしい。前にやったときは俺が一方的に殴ってたのだが、それは俺があまりに弱くて反撃できなかったらしい。つまり、今はそれなりに強くなったと解釈していいのだろうか?

「じゃあ、始めるっす」



「さ、どこからでも掛かって来るっす!」

 白い円盤状の障壁を展開したほのかさんが、胸を叩きながらそう言った。対する俺は素手。前回と違って、得物すらなかった。ほのかさんがそういう条件を出してきたのだ。

「……」

 俺は黙って、「雷光の鎧」と「雷光石火」の魔術を起動。防御力と機動力を確保した上で、ほのかさんの対応に備える。

「はぁ……!」

 とりあえず、ほのかさんの攻撃手段はあの障壁だろう。魔術で発生させた盾を鈍器にして、俺を直接攻撃するはず。だったら、遠距離からの攻撃には対処し辛いと思う。よって俺は、電撃で遠くから仕掛けることにした。

「よっと……!」

 しかし、ほのかさんは白い障壁で電撃を弾いてしまった。絶縁性なのか、それとも他の効果なのかは知らないが、あの障壁を前にしては、俺の電撃は役に立たないみたいだ。……って、どうやって戦えっていうんだよ? こっちはメインウェポンを封じられたに等しいんだぞ?

「たぁ……!」

「っ……!?」

 しかし愚痴を垂れる暇もなく、ほのかさんが踏み込んできた。向こうの射程に入らないうちに俺は後退し、そのまま距離を稼ぎに行く。ほのかさんはあくまで普通に走ってるだけなので、機動力はこちらのほうが上だ。追いつかれることはない。

「くっ……!」

 盾が振り抜かれた隙を狙って電撃を放つが、即座に盾を戻して防いでしまう。そうこうしている間にも、俺は空き地の角に追い込まれてしまった。……しまった。ここでは、逃げるスペースがない。

「覚悟っ!」

「ひぃ……!」

 というわけで、俺はそのまま、ほのかさんにフルボッコにされました。……ほのかさん、容赦ないな。

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