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シスコン兄貴奮闘記  作者: 恵/.
第六話 チョコレートはどす黒い。人生の味。
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……誤魔化せた、のか?


 ……その頃、優香たちは。


「ねぇねぇ優香ちゃん」

「何?」

 チョコレート作りの最中、絵美那さんが私に話しかけてきた。今は湯煎で融かしたチョコを、樹脂製の型に流しているところだった。

「こういう融けたチョコをさ、体のあんなところやこんなところに塗り固めて、「チョコは私だよ(はぁと)」とかやると、男の子はイチコロじゃない?」

「なっ……!」

 絵美那さんのトンデモ発言に、私は思わず硬直した。な、なんてこと言い出すのよ!? 危うく、チョコの入った容器をひっくり返すところだったじゃない!

「でもでも、琢矢君なら瞬殺されると思うけどなぁ~。優香ちゃんが、「私を、た・べ・て」って迫ったら、速攻で野獣に変身☆だよ!」

「そ、そうかな……」

 しかしそこまで力説されると、くだらない案のはずなのに、とても魅力的に思えてしまう。体にチョコを塗るってことは、それを食べるためには、必然的に私の体を舐めなければならないわけで―――

「あの……二人とも、それは駄目ですからね。食べ物を粗末にしてはいけませんよ? それに、そんなことされたら普通に引きます」

「そ、そそそうよねっ! 絵美那さん、なんてこと言ってるのよっ!?」

 すると、花野が呆れたように口を挟んだ。あ、危なかった……花野が突っ込んでくれたお陰で、血迷わなくて済んだわ。そんなことやったら、末代までの恥じゃない。

「えぇー? 優香ちゃんなら絶対やると思ったのにぃ~」

「や、やらないわよっ!」

 絵美那さんが残念そうにしていたけど、私は絶対にやらないからっ! そうよ。そんなの、私のキャラじゃないし。あの兄貴ならすぐにも飛びつきそうだけど、兄貴と「そういう関係」にはなりたくないし。

「なら、私はチョコに惚れ薬でも入れようかな?」

「駄目っ!」

 乱れた思考を律していたら、絵美那さんがまたもや爆弾発言を。どさくさに紛れて、何するつもりなのよ!

「冗談だよ~。入れるのはただの精力剤だから」

「それも駄目っ!」

 ……全く、油断も隙もない。そもそも、薬に頼るなんて、人としてどうなのよ? そういうの、一番嫌いな人だと思ってたんだけど。

「ほんとに冗談だから。薬なんて入れないし、爪とか髪の毛とか体液とかも入れないから、安心して?」

「そこでその選択肢が出てくること自体おかしいと思うんだけど」

「え? だって、食べたものはその人に吸収されて、体の一部になるんだよ? 自分の体が、あの人の体に吸収されるだなんて……って考えたら、キュンって来ない?」

「……来るわけないでしょ」

 絵美那さんの思考が本格的におかしくなってきた。あ、ちょっと分かるかも―――だなんて、これっぽっちも思ってないから。

「そう? 私、琢矢君の―――(自主規制)―――とか、喜んで食べれるけど。寧ろ食べたいけど」

「え……」

 けれど続いた言葉に、私はカルチャーショックを受けた。―――(自主規制)―――食べるの? っていうか、あんなの食べて、病気にならないの?

「私としては、ちょっと嫌がる振りをしつつ、無理やり食べさせられるのがベストなんだけど」

 ……絵美那さん、恐るべし。私には、―――(自主規制)―――をそもそも口に入れるなんて発想がなかったわ。

「優香。真似しちゃ駄目よ? っていうか、絵美那さんも、女の子が―――(自主規制)―――なんて言わないの」

「はーい。じゃあはいせ―――」

「いや、遠回しならいいって意味じゃないから」

 絵美那さんの下ネタ暴走を、光子が止めてくれる。……ごめん光子。私、ちょっと頭が混乱してきた。っていうか、絵美那さんの変態っぷりが増量してるし。昔から下ネタに抵抗がない人だったけど、これは酷い……。



 ……さて、琢矢はどうしたのか。


「それじゃあ、またな」

「ああ」

 喫茶店を出た俺たちは、またもや車に乗り込んで、元いた空き地にへと来ていた。というか、ここまで送ってもらったのだ。魔緒はアンネさんたちと一緒に、車に乗って帰っていく。……さて、俺も帰るか。



「ただいまー」

 そんなわけで、俺はすぐに帰宅した。光子はいないかもしれないが、優香が帰ってるはずなので、出来るだけ早く戻っておきたかったのだ。

「……ん?」

 けれど、家に入った途端、慌しい気配が漂ってきた。何かあったのか?

「あ、琢矢君。もう帰って来たんですか? 早いですね」

 と思った途端、花野が出迎えてくれた。光子の代わりに、うちにいてくれたのか?

「ああ。なんか、魔緒と色々あってさ……優香は?」

「今はお部屋でお休みみたいですから、そっとしてあげて下さい」

「……なんかあったんか?」

「いえ、ただの昼寝だそうです」

 なんだ、そうなのか。調子が悪くなったとか、病気とかじゃないなら、一安心だ。仮にそうなっても、花野はその辺の医者より頼りになりそうだけどな。

「そうか。んじゃ」

「……どこへ行くんです?」

 それから俺はこの場を立ち去ろうとしたのだが、花野に呼び止められてしまう。心なしか、殺気が篭っているような……。

「ど、どこって、自分の部屋だけど?」

「そうですか。では、僕もこれで失礼しますね」

 俺がそう答えると、花野は意外にもあっさり引き下がった。そしてそのまま、どこかへと行ってしまう。……誤魔化せた、のか?

「ふぅ……」

 勿論、俺は自分の部屋に行くわけじゃない。……優香の様子を見に行くつもりなのだが、そっとしておけと言われた以上は、隠しておくしかないだろう。

「さて、行くか」

 優香だって、昼寝の邪魔はされたくないだろうけど、もしものことがあったら心配だ。もしものことがないのであれば、すぐに退散すればいいし。



「うぅ……何で、私がこんなことを?」

 私は自室のベッドで横たわっていた。チョコを作っていたら、突然兄貴が帰って来たので、その対策ということらしい。……自分でも何言っているのか分からないけど、絵美那さんや花野にそう言われて、ただこうしているだけなのだから仕方ない。

「……優香? 寝てるのか?」

「……!?」

 すると、誰かが部屋の扉をノックした。声からすると……兄貴? どうしてここに?

「入るぞ」

「……!」

 扉が開く気配がして、私は咄嗟に目を瞑った。……いや、そんなことする必要はなかったんだろうけど、反射的にそうしてしまったのだ。

「優香?」

 扉が開いて、兄貴が部屋に入ってくるのが、気配で分かった。どうして兄貴がここにいるのか……もしかしたら、これが「作戦」なのかもしれない。兄貴を私の部屋に誘き出して、その隙にチョコ作りの痕跡を消すのだろう。つまり、私は囮なのだ。

「優香……寝てるのか?」

 兄貴は小声で、優しく呼びかけてくる。起きていれば聞こえるけど、眠っていたら気づかない程度の音量で。……もしも私が眠っていた場合、起こしてしまわないようにするための配慮か。

「……寝てるのか。まあ、顔色もいいみたいだし、病気じゃないならいいか」

 兄貴は一人で納得するように呟くと、そのまま部屋を出て行った。……なんだ、私のことを心配してたのか。確かに、兄貴はそうだった。変態で非常識なシスコンだけど、いつも私のことを一番に考えてくれる。―――かつての兄貴からは、想像もつかない程に。

「……すぅ」

 そんなことを考えていたら、段々と意識が遠退いていった。それが眠りに就くことなのだと気づいたときには、私は既に夢の中だった。

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