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ワンコイン・ライブ  作者: 藻塩 綾香
残り7日 初めての出会いと、心構え
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4話目 胸を張れる小さな背中

 とても広いとは良い難い部屋の中で、ベットに横になりながら雄一は携帯端末を操っていた。


 外はすっかりと暗くなっており、部屋から漏れる光だけが唯一の光源と言っても過言ではないほどだ。

 時刻はてっぺんを過ぎたあたりになっている。


 外は、もう寒くなっており冬を感じさせる。


 指を上手く動かして、メール内容の欄に文字を打ち込んでいく。

 雄一のアルバイト先であるコンビニに『明日から一週間休みます』と休みの報告の文章を送るためだ。


 もしくはシフトの変更を願う文章だった。


 文字を打ち終わると、携帯端末の電源を切り、ベットに体を沈める。

 然程ふかふかとは思えないが、体を包み込んでくる感覚は安心感を与えてくれてはいた。

 

 今日の事が頭の中を何回も何回も繰り返しリピートされていく感覚に、時間がたった今でさえ、胸の鼓動が収まらなかった。否、時間が経つ程に、思いが強くなっている感じがするのだ。


 頭に流れるのは、綾香が歌っている歌。その美声は、頭の中では再生は不可能だった。がために、今すぐにでもと思ってしまうほどに、心が騒ぎ立てる。


「はぁ……」


 口からもため息が、心の不満を吐き出すかのように小さく漏れる。


 すると、ピロリロリンと音楽がなり始める。

 携帯端末を手に取り、電源をつけ画面を見つめると、そこには先程送ったメールの返信が書いてあった。


『一週間なら山田さんがシフト変ってくれる筈だから連絡入れておいて。それじゃあ』

 

 と、店長からの短いメールが届いた。しかし、時間がかかりすぎな気もするが、おじいちゃんのような優しい店長なので、文句は言えない。


「よしっ」


 小さくガッツポーズをすると、山田さんに電話をかける。



◆◇◇ ◆◇◇


 朝、重たいまぶたを開き、部屋を見渡す。

 いつもどおりの、綺麗と汚いと中間を保った空間が目に入る。布団の隙間から流れ込んでくる冷たい風が、まだ布団から出すまいとする。もう一眠りしたいところだが、これ以上寝ていたら、本当に寝坊してしまうだろう。


 布団を前に、二つ折りにすると体をベットから這い出るように出る。自分を芋虫かカタツムリかと思ってしまう程だった。


 外を見ると、まだ少し暗く朝と思うには若干勘違いしてしまいそうだった。


「ふん~」

 

 大きく伸びをすると、背骨がポキポキと鳴る。

 そして、大きなあくびもすると、ようやく体が少しずつ温まってきた気がして来た。


 そのまま、一階に下りていくと、必死にご飯を口に詰め込むように食べている妹が居る。


 寝癖がまるで、ススキを思わせるように跳ねており、パジャマも折れ折れになっており、どんな寝かたをしたらこうなるのだろうと不思議になってしまう。


 妹は、兄である雄一とは違いとても優秀だった。中学の部活動である、水泳で全国大会に行くほどのレベルで、勉強の方でもテストで上位には必ずランクインしているくらいだ。


 とても雄一と比べれるほどでもない。


「ほひいはん。ほふれるはら、ほくってって(お兄ちゃん、遅れるから送ってって)」

「はぁ?」


 何語だよ、とツッコミを入れてやりたくはなるような言葉を発する妹に対して、コイツが優秀なのかよと疑問を覚えてしまう。


「遅れるって、いつもより断然早いじゃないか?」


 テレビの画面を見てみると六時三十分となっている。いつもなら、七時三十分に出て行くので断然早かった。


 ごくんと食べ物を飲み込むと、ようやくまともな言葉を話し出す。


「今日は、プールの掃除があって早く学校行かなきゃ行かなくて……」

「そういえば、秋だからな。そんなこともあったな」

「去年は、ちゃんと覚えてたのにね」


 そう言うと、またご飯を口に詰め込む。優しく「喉に詰まらせて死ぬなよ」と言ってやると、ハムスターのように口を膨らませた妹だドヤ顔をかます。

しかし、口に入りきらないほどヒマワリの種を加えたハムスターが、それこそ苦しそうにもがいているようにも見えて仕方が無い。


 が、そんな妹が優秀なのだから不思議で仕方ない。


「それじゃあ、送ってってね」

「ハイハイ……」


 俺は、渋々了承すると部屋に一度戻っていく。

 妹の学校は、自転車通学が許されていないので徒歩か車による送り迎えしか許されていないが、父親も母親もほとんど家にいないので、自転車で送るしかない。


 部屋に着くと、タンスから簡単にジャージとTシャツとパーカーを取り出す。そして、パジャマを脱ぐと一旦置いておく。そのまま着替えを済ます。


 そして一階にまた下りていくと、妹は準備万端と言うほどにカバンを背負って玄関で待っていた。


「早く行こ、お兄ちゃん!!」


 いつの間にか、黒色の制服に身を包み、首元までに短く切られた髪の毛を揺らしながら元気な妹が立っていた。

 思えば、どうやってあのアフロを直したんだろうという疑問が浮上する。


「時間無いから!!」


 そう急かす妹に向って、口に指を立ててやる。

 頭から?マークが出るんじゃないかと思うように、首を曲げる妹に向って一言告げてやる。


「歯磨き粉が飛んでるぞ」


 そう言うと、妹は「嘘っ!!」と言って洗面台に向って走っていった。

 詰めが甘いんだよ。そう、心の中で呟いてしまう。


 簡単にスニーカーを履き、玄関まで出ると冷気が体を叩いてくる。朝の寒さと秋の寒さが混じって、肌寒く感じる。


「寒いな……」


 玄関を出ると、向かいの家の木から、枯れた木の葉が茶色くなって落ちている。そして、空気も気のせいか白色に色づいている気さえする。そんな様子が、一層寒さを感じさせる。

 少し薄着過ぎたかと思うが、今更だと観念すると車庫に置いてある自転車を持って来る。


 すると、ガチャと言う音がしてドアが開かれる。

 づかづかと、大きな歩幅で近づいてくる妹。


「お兄ちゃん、これで良い?」


 そう言って口を目の前まで持ってくる妹に向って「大丈夫だ」と言ってやると、二コッと笑って見せた。


「今の私、きっと可愛かったと思うんだけど?」

「気のせいだな」

「なんか、冷たいってお兄ちゃん」

「気のせいだな」


 そんな他愛も無い会話をしながら、俺は自転車に跨ると、妹はカバンを自転車のカゴに入れて後ろに跨る。そして、細い腕を肩に乗せる。


 大きく身を乗り出して、体を前に伸ばす。


「さぁ、お兄ちゃん。かっ飛ばせ!!」

「かっ飛ばして、落としてやろうか?」

「落ちないから心配しないで」


 二人の重さが加わって重たそうにタイヤが少し沈む自転車に謝りつつ、ペダルを漕ぐと、少しづつだが自転車が前に進みだす。

 はっきり言って、かなり重い。


「お前……太ったか」

「筋肉が付いたと言って!!」

「いでっ!!」


 すると、頭を叩かれた。ヒリヒリと頭から、痛みが伝わってくる。


 それでも、速度が出てくると自転車のペダルも徐々に軽くなっていく。ペダルに足を踏みしめ、ギアを一段下げるが、まだ変らない。さらに一段下げても、変らないのでさらに一段下げるとようやく少し軽くなる。


 やっぱりペダルは重かった。


 雄一が通っていたルートで、自転車を漕いで行くと、ようやく白く大きな校舎が見えてくる。そして、石で作られた正面玄関が見えてくる。


 そのまま、妹が通う学校まで着くと、自転車から降ろす。


「ありがとう、お兄ちゃん」


 辺りに人は余り居らず、その声が一層大きく聞こえた気がして恥ずかしかったが、気にしてないフリをして「おう」とだけ言ってやる。


 俺は唯一胸を張れる奴に。


 そう言って、小さな背中を向けてプールに向っていく妹を見ると、突如Uターンして戻ってくる。


 と、カゴからカバンを持つと再度「ありがとう、お兄ちゃん」と言って笑って走っていった。


「やっぱり、馬鹿だな」


 そう思いながら、自転車を漕いでいく。


 と、ポケットからピロリンピロと音楽が流れ出す。ポケットから携帯端末を取り出すと、メールが来ていた。


『昼の十二時に、駅に集合ォ!!(*≧∀≦)ノ』


 と書かれていた。

tennjaniの妹はじゃじゃ馬ですヽ(*´∀`)ノ

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