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ワンコイン・ライブ  作者: 藻塩 綾香
残り1日 思いを伝えるために
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36話 旅立ちの準備

 ギターを渡しおえた後、二人で家具を見にインテリアショップへと歩を進めた。


 時間帯も昼を過ぎ二時ごろになるだろうか。時間帯的にも店内の人の多さには少し進みにくさを感じてしまう。これだけ繁盛しているというのは、お店側にしてみれば嬉しいだろうが、客としては少しだけ不便に感じる。


 買い物をした直後の客の袋が大きかったら避けて進まなくてはならないし、横並びになって歩いている人がいようならまたも避けて進まなくてはならない。するりするりと避けて進むしかないようだった。


 いざ店内へと進んでみると、人ごみは少し解消され人がまばらに散っており、自分が真っ直ぐ進むことが可能なほどには人が減ってきていた。


「それで綾香、何を買うつもりでいるんだ? 今の部屋の家具を持って行っても問題ないんだろ?」

「そうなんですが、色々と不備なものがあって……」


 少し目を背けながら綾香は答える。

 思い返せば、綾香の部屋に行ったときこれといって何か不備があったようには思えなかったが、実際には色々とボロが出ているのかもしれない。


「まぁ、新居にいくからな。物も一新したほうがすっきりするかもな」


 自分の部屋を想像してみるが、色々と不備というか実際には必要の無いものが転がっていることを思い出す。

 去年使用していた教科書なんか使わないし、本屋で貰った栞なんかも大量に保存してあったりする。


 実際に思い出してみると、本当にどうでもいいものばかりが転がっている記憶が浮かんでくる。


「あまりお金が無いので、必要最低限のものだけを変えるつもりではいるのですが、見当たるかどうか……」

「きっと大丈夫だろ? 無かったら最悪ほかを見て回ればいいからな」

「そうですね」


 そういうと、綾香は天井につるされた看板を見て右へと曲がる。雄一も、その後ろについて曲がる。


「それで、何が欲しいんだ?」

「レンジや炊飯器を置く、小さな台が欲しいんですが、部屋の間取りからあまり大きいのでは入らなくて」


 小さめのレンジ台が欲しいとの事だ。もし見当たらなくても、他の品物を代用するという手も無きにしも非ずだが、あまり好まないかもしれない。小さな工夫としてはアリなのだろうが。


「今度の部屋は狭いのか?」

「いえ、今の部屋とほとんど広さは変わらないのですが、家具の配置に悩んでいて、小さめがいいかなと」

「そういうことか」


 今の部屋でも大きいというわけではない。狭くも無いが、広いとはやはり言いがたい。一人で住まうなら差し支えなさそうだが、雄一が来たときどうにも足を伸ばしてくつろごうとないかなかったのを思い出した。


 直線に進んでいくと、目的の家具が置いてある区間まで来た。キッチンに並ぶ様々な家具が並んでいる。


 巨大な食器棚をはじめとした様々なキッチン収納の数々に加え、テーブルにイスまでセットで配置されており、物に関しては申し分ないように思える。その中から求めている品が見つかるかどうかは別の話だが。


 近くまで来て見てみると、レンジ台ひとつにとっても様々な種類があるのに驚かされる。

 巨大な本棚のようなものから、すごく細長いもの、アンティークな雰囲気をかもしているものまで様々だった。


 綾香は自分の知っているサイズを探すために、この区間を歩いて回る。


「そういえば、どれくらいの値段なら許容範囲なんだ?」

「一万円を下回れば十分ですね。安くても品が悪かったら本末転倒なので、お財布との相談にはなりますが……」

「確かにな」


 雄一は近場のレンジ台に目を向ける。

 大きさ的には真ん中に位置するだろうか、さほど大きくも無くといったサイズだ。上下に収納できるための棚がついており、真ん中に二つ大きく開いている。ここにレンジを収納するのだろう。

 

 値段をふと見てみると、約二万円。

 綾香の希望価格には大きくそむく値段となっている。こう考えると一万円というのは実は厳しいのかも知れない。


「う~ん」


 綾香は商品を見ながら小さく唸る。そして、いくつかレンジ台を見て回って、好きなサイズがあったら値段を確認するが、納得のいくものはあまりないようだ。


「なにかお気に召すものがあったか?」


 少しだけわざとらしく話しかけてみる。


「好みのデザインのものはあるのですが、値段が……」


 やはりそこが悩みどころなのだろう。

 雄一も綾香がチェックしたものは一応目を通してはいるのだが、やはり一万円を下回るというのは難しいようだ。


 九千円のものをひとつ見つけたがあまりにも安物といったもので、少し物足りなさを感じ買うには勿体無いと言わざる得なかった。万が一、本当に見つからなかったら妥協点としての購入も考えているのかもしれない。


 ふと、雄一は自分の財布の中身を考えてみた。


「綾香……」

「はい? なんでしょうか?」


 雄一は自分の財布の紐の結び目の固さを考えてみる。思ったより、するりとほどけてしまいそうだった。


「もしも高いのなら、少しだけなら出してあげることもできるぞ?」

「えっ……」


 綾香は驚いた反応を見せた後、こちらを見る。


 自分で家具というものを買うのは初めてなので、自分の差し出す金額が多いかは計りきれぬ部分も残っているが、綾香のためならある程度は安いのかもしれない。


 自分の金銭感覚がどこか緩んでいることは、自分でも承知してしまうほどに軽かった。


「いや、申し訳ないです!!」

「俺もそんな額は出せないけど、二千円くらいは出してもいいと思ってるけど」

「ちゃんと資金もあるので、それにあわせて買うのが妥当かと」


 今まで見てきたレンジ台の値段を見てみると、一万円は越えるものの二千円や千円オーバーと少しだけ渋ってしまう価格なのだ。どうにかして、買ってあげたいものだが全額というわけにもいけない。だったら、少しだけでも免除してあげることはできる。


「俺も金があるわけじゃないから、全額は無理だけどこれくらいなら」

「だったらなおさら無理なお願いですよ!!」


 綾香の顔が申し訳なさそうに弱弱しく渋っていく。

 そんな表情をどこかちゃんと正面から見ることができなかった。


「……綾香のためなら財布の紐を緩めてもいいかなって」


 雄一は自分が照れているのが分かっている。それがゆえに、顔を綾香に対して少し背けてしまっている。


「雄一さん」


 綾香は少しだけ悩んだ表情を浮かべている。

 承諾してくれるのだろうか、自分でも少し不安になる。


 綾香は優しいので、このまま「なら全額お願いします」なんて事は言わないことは十分に分かっているが、やっぱり渋っているようだった。


「もう少し、見て回りましょうか」


 そういうと綾香は、後ろを向くと歩を進める。


 金は災いの元というが、まさかこういうことを指し示すのではないだろうか。

 雄一は小さな不安を胸に抱いてしまう。


 綾香の素っ気無さというか冷めた対応に、少しだけ不安を覚えてしまう。

 綾香自身はあまり気にしていないようにも見えるが、それでも口を閉ざしているようだった。


 少しだけ重たい空気にさせてしまった事へと罪悪感というか、自分の失態への怒りを覚えながらも綾香の後ろについていく。


 綾香は何食わぬ顔でレンジ台を見て回っているが、雄一にはどうにも居心地が悪かった。自身の失態を知っているからなのか、それとも綾香の態度が冷たく感じるからなのかは、今はわからなかった。


 それでも、自身がそう感じている時点で、少しだけ誤りを犯してしまったという気がしてならなかった。

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