28話 最終レース『ドッスンいせき』
「あ~、なんか悔しい」
結衣がそういいながら、腕を伸ばしながら画面を見ている。
「綾香さんに負けて、雄一に負けるのが悔しい」
そういいながらこちらを睨んでくる。
「仕方がないだろ、こういうゲームだし」
「だけど、雄一は少しくらい手抜いてくれたっていいじゃん」
「手抜きは駄目だろ」
そういいながらも、結構本気で頑張っているがこちらも綾香に勝てない俺が居るのも事実だ。
「絶対、次は一位とってやるし」
「結衣さん一緒に頑張りましょう。お兄ちゃんに負けちゃいけません」
「……なにそれ、扱い酷くないか」
「本気を出す雄一が悪いし」
「はぁ……」
なぜだか、ため息が出てしまう。
だが、これで次結衣になんていわれるかが怖く感じる。凄い、ぼろくそにいわれるんだろうなぁと思う。
「雄一さん、私も負けませんから……」
「そうだな」
綾香も同じような意見のようだ。
だが、俺だけが迫害されているように感じるのは、気のせいだろうか……。
画面がいつの間にか変わる。
晴天の中、巨大な石でできた遺跡が姿を現す。ほとんどが石で構成されており、近くには森があるところを見ると、遺跡そのものだ。
このステージの名を『ドッスンいせき』と言う。
正面に見える、巨大なドッスンというキャラクターの門のようなものが立っており、その口が入り口となっている。
通路の左右には、石柱が立っており、正面にはドッスンが居る。ドッスンが揺れたと思った瞬間、地面に落下してくる。砂埃を撒き散らしながら、地面へと落下していくドッスン。潰されたらひとたまりもないだろう。
画面が切り替わり、先程の明るい光景とは打って変わって暗い通路へと画面が切り替わる。光源としてあるのは、差し込む太陽の光だけだ。
その雰囲気からは陰気臭さがありつつも、光が差し込むことにより神秘的な光景にも見える。
通路の中央を転がる巨大なギア。トラップとしてはとても苦労しそうだ。
そして、画面は切り替わりまた空の下へと写る。
石柱に取りつつけられた、横断幕が唯一近代的と思える代物だった。
近くの滝からは水が美しく流れ、虹ができている。
「負けないし……」
結衣のコントローラーを握る手が強くなる。そして、睨むかのように鋭い視線で画面を見る。
先程の順位がそのまま反映されている形で、それぞれのカートが所定の位置につく。
画面右上に浮かぶジュゲムが信号機を釣りながら、指でカウントを始める。それと同時に中央の文字が、残り時間を刻み始める。
大きな黄色い文字が少なくなっていくたび、コントローラーを握る力が強くなっていくのを感じ、視線が画面に集中し、まるでそこに存在しているかのような錯覚をさせる。
最後のコース。ここで、負けられるわけが無い。
ボタンを押す力が少しづつ強くなっていき、ボタンが陥没していく。
画面に『GO!』の文字が表示された瞬間、それぞれ一斉にロケットスタートを決める。
空気を切るかのようなエフェクトをまといながら、スタートをすると後ろからベビーマリオを操る綾香とベビーロゼッタを操る結衣が、俺のヘイホーを抜かす。
そのまま、前方に5つ並んぶアイテムをひとつづつ取っていくと、ものすごい勢いで先を進む。
俺の横には妹がおり、ほぼ横並びの状態で進んでいく。
石が敷き詰められた道を、くねくねと短いカーブを含む道を進んでいく。左上でアイテムが決まったらしく、表示されたアイテムはバナナだった。
順位が高い順にこうらなどのアイテムは出づらくなるが、三位という順位でのバナナはあまり嬉しくはない。しかし、使わず捨てるというのも勿体無いので、カートの後ろにくっつけて置く。
正面の巨大な滝を横目にしつつ、薄暗い洞窟の中へ入っていく。
暗さゆえにカートのライトがつき、地面を照らす。しかし、基本的に壁などはどこからか知らない光に照らされ、暗いというほど暗くは無い。
普通にプレイをしていて支障は出ない程度に、雰囲気の暗さが漂っているだけだった。
目の前に迫るカーブに俺は、ボタンをそれぞれ押しミニターボをかける。壁にある反重力を無視して、ミニターボをかけることに集中する。
カートから散る火花が金色に変わったところでボタンを離し、加速をする。スタートダッシュ同様のエフェクトをまといながら、カートはぐんぐんと進んでいく。
そして、目の前に並べられたアイテムに向かって突っ込んでいく。
ここで俺は、アイテムを取った瞬間に、その位置にバナナを設置する。コレにより、アイテムをとった敵は、必然的にバナナに引っかかる仕組みだ。
だが、一歩間違えればアイテムを先にとってしまい、バナナを失ってしまうため、見切りが難しい技となる。
アイテムを取ると洞窟を抜け、青空が拝める場所に出る。しかし、道は二手に分かれており、どちらにもドッスンがスタンバイしているのが目視で確認できる。
結衣は右へと曲がっていき、綾香は左へと、それぞれハンドルを切って曲がっていく。
この分岐には特別意味は無い。左右対称となっており、それぞれオブジェクトの配置は同じになっているので、どちらに曲がろうとも結果は同じだ。
俺は綾香の進んだ左の道を選び進んでいく。
中央に水が張っており、落ちることの無いように少し外側を意識しながら走行していく。
目の前にいる綾香に追いつきたいところだが、あと一歩のところで手が届かない惜しい状況が続く。
道の中央に居座るドッスンがついに顔を現す。ここは通させないと、鬼のような怖い表情を浮かべながら、空中で浮いている。
俺は、ドッスンがプルプルと揺れているのを確認すると、壁に設置してある青色のラインを超え、反重力モードに移行する。
あのプルプルが来たら、ドッスンは地面へと落ちて行き、その下を通過したキャラクターを踏み潰していく。それに引っかからないよう、あえて壁を走行していく。しかし、綾香は地面を走っている。
ドッスンに踏まれてしまうかと目を見張ったが、通過した直後にドッスンが落下し、間一髪で切り抜けたようだ。
俺は壁から降りると、綾香を追いかけるが、距離が少し開いてしまっていた。
そして、分岐が終わると再び洞窟内へと入っていく。また暗闇の中を走っていくのだ。
いつの間にか、俺は結衣を抜かしていたようで、後ろからベビーロゼッタが追いかけてくるのが見える。画面にチラチラとその姿が映っていた。
「絶対負けないんだから……」
そう結衣の口からこぼれた言葉に、どれだけ本気なんだよ、と思いながらも、こちらも易々と負けるわけにはいかないと覚悟する。
洞窟に入った直後のジャンプ台を抜け加速をすると、反重力モードに移行しつつ、すぐのカーブを曲がり洞窟を抜ける。
今度はまるで石橋のような、すぐ外が大空と言うこともあり天空を走っているかのような空間に出る。
再びくねくねとしたカーブを走りながらも、しっかりとアイテムを取る。
中央にドッスンが居座っているのは、何度もプレイしたことがあるので知識として知っている。
そのため、インコースをドリフトしながらドッスンを抜けていく。
ミニターボを解除し加速すると同時に、アイテムを取る。先程同様に、さっきゲットしたバナナを置くことを忘れない。
アイテムがミドリこうらが出たことを確認しつつ、俺は画面にチラリとだけ確認できる柱のオブジェクトを目でしっかりと確認する。そんなことは知らず、綾香はカーブを曲がっていく。
その行動を横目に見つつ、俺はその柱に向かって俺は無防備にも飛び込んでいく。
「えっ……」
結衣から小さい声がもれた。
この柱のオブジェクトは乗り移ることができ、隣のカーブを走らなくてもよくなる、いわゆるショートカットとなるのだ。小さな時間の短縮だが、小さな月重ねが大切なのだ。
そして、ショートカットとなる柱をわたりきると、すぐさまジャンプ台からジャンプをする。カートからグライダーが開き、空中を闊歩するかのように飛行する。
目の前に広がる雲海と、その先に見える自分の進むべき道が見える。自分の少し先を走る綾香に極力飛距離を伸ばし何とか追いつきたいところであった。
序所に地面が近づいてきて、階段が見えてくる。俺はそれさえ飛行によって乗り越え、目の前に見える横断幕を目指し、更に加速しようと願う気持ちでコントローラーを握る。
そして、着地後すぐに横断幕を抜けると、二ラップ目に突入する。
綾香は俺の目の前を走り一位を守っており、すぐ後ろには結衣が走っている。四位にはきっと妹が陣取っていることだろう。追い抜き、追い越されの展開が目に見えるようだった。
一ラップ目同様に、アイテムを取ると洞窟へと抜ける。
少しづつでも距離は詰めたいところではあったが、何か特殊なアイテムが出てきてほしいところだったが、期待はずれバナナが出るばかりであった。
何か起死回生の一手を待ち望んでいるようなムズムズと焦らされているような感覚、そして勝ちたいという思い、それに待ち望んでいたかのような白熱した戦い。ワクワクしないわけが無かった。
心臓の鼓動が少し早まり、呼吸の回数が増えていき、そしてコントローラーがミシッと音を鳴らすのではと思うほどに力む。
勝ちたい――――
純粋にそれだけが頭を巡っていく。
洞窟を難なく抜けると、再び分岐に入る。
綾香は今度は左へと曲がって行く。俺は、それを追いかけるように自然と、左へと曲がっていく。
少しづつだか綾香との距離が縮まっている。綾香にあと少しで追いつきそな距離まで迫っていた。
今度のドッスンは落ちてくる気配は無く、そのままドッスンの下を抜け、再び洞窟内へと入っていく。途中に誰かが置いたのであろう、バナナがあったが気にせず抜けていく。
暗い洞窟内に入ると、すぐさまジャンプ台でジャンプすると同時に反重力モードに移行し、走行していく。それと同時に、小さなカーブなのでミニターボを書けることを忘れず、しっかりと加速をしておく。
あっという間に洞窟を抜け、空中回廊を思わせる場所に辿り着く。そして、アイテムとバナナを取り替えるかのような手際で、アイテムをゲットする。
一人目のドッスンが落ちてくるのを横目にしながら、再びあの柱を確認する。目の前の綾香も先程の俺の行動を学んでか、同じくショートカットを遠慮なく活用していく。
俺も同じく、ショートカットをつかい、ジャンプ台から大きく飛翔。グライダーを広げ、空を飛ぶかのような感覚に陥りながら、すぐ先に居る綾香を見る。
目と鼻の先、いやもっと近く。手を伸ばせばすぐにでも届いてしまいそうな距離に居るが、届かないその距離。離れていても追いつけそうなじれったい距離。コレを追い抜かなくては、打開しなくてはいけない。
走考えると同時に最終ラップに突入した。




