26話 その力はどこから……
「綾香すごいじょうずじゃないか?」
「いえ……そんなことはありませんよ」
そういいながら、少し緊張した面持ちで画面を見つめる。
画面が切り変わる。
次のコースは、スイーツキャニオンというコースだ。
このコースは先程のマリオカートスタジアムや、ウォーターパークに比べ、とてもカーブが多く、ハンドリングが難しいコースとなる。
更に、カーブの先には落下箇所が設置されており、落ちると大きなタイムロスを生んでしまう場所もあるため、先程のコースに比べて難しく感じてしまう。
画面に映し出されたのは、ケーキで作られた山にハチミツの滝。さらには、背景全てがお菓子で構成されたコースだ。
全体的に茶色で、クリームの塗ってないケーキ生地を思わせる。
実質、ケーキの生地が多く使われており、クッキーやチョコレートなど茶色を思わせる色が多く含まれている。
「綾香」
「はい?」
「このコースは、曲がり角が多いから注意な。あと、コースからはみ出たら落下する箇所とかもあるから気をつけて」
「落下する箇所ですか?」
「まぁ、落とし穴でタイムロスって思ってくれれば良いと思う」
俺がそういうと、綾香は「落とし穴……タイムロス……」と唱えだす。
しかし、実際そんな箇所はあまり多くは配置されておらず、あくまで少し配置されているだけだ。カーブの中腹にあったりと、カーブをまっすぐ進むなんて事をしなければ、まず落ちる危険は無い。
画面の中には、CPUを含めたキャラクターがずらっと並んでいる。その中で、一位から四位までを俺達が占めていた。
観客席には、どこかのおとぎの国でみたことがあるような、人型のクッキーがこちらに向かって、声援を送っている。
画面下に『3rdレース』と表示され、画面中央では大きな文字でカウントが始まる。
「綾香、ロケットスタートの仕方は大丈夫だよな?」
「はい。さっき教わりましたし」
「なら良い」
そういうと、俺は数字が二になったと同時にボタンを押す。
俺の操るキャラクターが乗るカートから、灰色の煙がマフラーから溢れ、今か今かとばかりにタイヤが回転しだす。土煙を上げながら、時が来るのを待つ。
カウントダウンがゼロになり『GO!』と表記されたのと同時に、カートは大きくスタートダッシュを切る。
前にいる綾香もうまくスタートダッシュが切れたようで、同じように加速のエフェクトがついている。後ろの二人も、加速エフェクトがついており、俺達をおう構造となっていた。
俺の前に走るのは綾香。スタートしたばかりで、距離はあまり開いていないが、ここからどれだけ離されずに、追い越せるかが重要になってくる。
加速エフェクトが消えたと思ったら、スタートからの直線が切れる。そして、アイテムが並んだカーブが見えてくる。
俺は一歩前で、ミニターボをかける。
ガードレールによって仕切られたコースからはみださないように、コーナリングを切っていく。ギリギリを狙って、ハンドルを回す。
一番内側のアイテムを取る。
画面の左上で、アイテムがランダムでシャッフルされる。
アイテムは、順位によって出てくる確率が違ってくる。
順位が高いほど、バナナやトリプルバナナといった設置するアイテムの確立が高い。逆に、順位が低いほど、ミドリこうらやアカこうらなどが高くなる。更に順位が低くなると、キラーやキノコといったアイテムの確立が増えてくる。
確定したアイテムは、バナナだった。この順位ならば、仕方がないといえる。
アイテムを確認すると、バナナを後ろに設置。当たるか当たらないかは、運しだいなので、なんとも言えない。
そしてすぐさまカーブに差し掛かる。そして、そこでもこまめにミニターボをかける。
トンネル内にはいり、カートがライトをつけコースを照らしていく。しかし、画面が明るいので、効果は薄い。
かなりの急カーブを曲がっていく。
その途中で、ミニターボの火花の色が青から金色へと変わる。その瞬間に、すぐさまボタンをはずし加速。
だが、そこで終わらない。まだカーブは続いているのだ。
そこで、更にミニターボをかけていく。二段構えでの、ミニターボだ。最初のミニターボでは少しだけの加速となるが、二回目は本命での加速。
カーブが終わり、直線の道へと入っていく。そして、火花の色が青から金色へと、色が変わった瞬間に、加速。
グンッとカートが加速して、同じように加速をしている綾香を追い抜く。
「あっ……」
となりで、綾香が小さく声を漏らす。しかし、それ以外に気にならないほど、今はこのレースに集中していた。
結衣も妹も、小さく会話することはあっても、ほとんど無口となっていた。それだけ、この試合は白熱していた。
開始して何秒という短い時間だが、ここで前に離されるわけにはいかないのだ。まだ、二周も残っているのだ。ここで離されたら、追いつくのはかなり困難になってくる。
カートがまだ加速している最中に、トンネルを抜けると同時に青いラインを踏み、カートが空を飛ぶ。
カートからは、グライダーが開き空中でものすごいスピードで飛んでいく。まるで、大砲から発射された、砲弾にでもなっている気分だ。
ハチミツの海が、画面いっぱいに広がり黄色が多くなる。しかし、すぐさま次のコースへと、着地。グライダーが自動で収納される。
ここからは、螺旋階段のようなコースになっている。どれだけミニターボがかけられるかがかぎになってくる。
ケーキのパン生地のような壁に沿って、少しずつミニターボをかけていき、金色へと火花の色が変わった瞬間に、加速。加速が終わったと思ったら、すぐさまミニターボと接続させる。
ミニターボが2回し終わったとき、画面下にアカこうらのアイテムが表示される。これは、後ろからアカこうらが来ていることを知らせるためだ。
アカこうらを避けるのは、不可能といって良いほど難しい。
カートにアカこうらが激突。そして、カートが二回ほど空中で回転すると同時に、加速が止まり速度がゼロになり、完全に停止。
後ろから綾香が加速しながら、俺を追い抜いていく。
「雄一さん、お先です」
嬉しそうに、俺を追い抜かしていく綾香。それに続いて妹と結衣も「ざまぁ」と言いながら追い抜いていく。
少し二人にイラッとしながらも、ここで負けるわけには行かないので、再度アクセルを踏む。カートがゆっくりと、進み、そこからカートの速度が上がっていく。
しかし、ここで俺の順位は一位から四位へと一気に下がったわけだ。ここから、どう追い返していこうと考える。
そしてすぐにでも、かーとはマックススピードに到達する。
そして、カートは目の前にある水の中へと、何の躊躇いもなく突っ込んでいく。さりげなくアイテムをとりつつ前進。
アイテムは、ミドリこうらだった。当てるのが苦手なので、良いとも悪いとも言えないアイテムだ。
カートはコースに引かれている青いラインを踏んだと思うと、反重力モードへと移行。多少の加速時間をはさみながら、コースを進んでいく。
進すんでいくと、水中から陸上へと変わるが、反重力モードのままで走行していく。
少し前には、妹が見え、次に結衣が見えた。
俺は、妹に何とか追いつこうとする。
すぐさまカーブに差し掛かり、俺はここも見逃すことなくミニターボをかけていく。できるだけインコースを意識して、走行。
火花が金色へと変化した瞬間に加速。次のカーブでも、ミニターボをかけ加速。
そして、すぐにも妹の後ろに付く。そして、俺は妹の後ろまで追いつくと、ミドリこうらを使用。
妹は呆気なく、ミドリこうらにあたり大きく回転して、タイムロスをする。
「ちょっと、お兄ちゃんヒドイ」
「いや、ヒドイもないだろ。こういうゲームだし」
ミドリこうらは、まっすぐにしか飛ばないアイテムだ。アカこうらのような自動追尾の性能はない。だがら、わざわざ後ろまで回りこみ、回避できない距離まで近づいてから使用する。
すると、自然と回避できずミドリこうらの餌食となるのだ。
「えっ、コレって私ピンチ」
そういいながら、二位の結衣がいう。
距離だけで言ったら、近いといえば近いが、遠いといえば遠いという、微妙な距離感にある。追いつけそうで、追いつかないといった距離だ。
アイテムは今は何も持っていないが、目の前にアイテムがあり、それを見逃さずに取る。
だが、ここで取ったアイテムはトリプルミドリこうらだった。つくづくミドリこうらに好かれているようだ。
それを確認しつつ、ハンドルを操作してジャンプ台でジャンプ。すると、カートが加速する。
ここからのコースは、うねうねとしてまるでSのようなカーブが続いていく。
ここではいちいちインコースは取っていけないので、ミニターボをかけながらコースの真ん中をうまく突き抜けていく。
結衣との距離もずいぶん近くなって来た。もう少しだ。
だが、この先大きなジャンプ台も設置されており、そこを向けるとスタート地点は目と鼻の先になる。
結衣はとの距離は少しだけ離れているが、俺はミドリこうらを三つのうち二つを使用。カートから投げられた、ミドリこうらは、結衣のいる方向へと向かっていくが、当たるには至らず結衣を追い越していく。
結衣が大きなジャンプ台でジャンプした後、俺もその後ろに続きジャンプ。
もう、結衣との距離は徐々に縮まりつつある。
俺は、残った一つのミドリこうらを、運任せに使う。投げられたミドリ甲羅は、結衣も元へと行き、思いっきり激突。
カートは大きく回転したと同時に停止。
その横を俺が、抜いていく。
「雄一ずるい」
「お前もそれを言うか。こういうゲームだから仕方がないだろ」
そういいつつ、俺はスタート地点を越える。
残り二ラップとなった。




