24話 キノコカップと綾香の実力
画面は移り変わり、ステージへと移動する。
キノコカップというカップで、コースはマリオカートスタジアムだ。一番簡単と思うような、シンプルな構造になっているコースで分岐も無く、反重力と飛ぶというアクションがあるコース。
「このコースでいいよな?」
「うん、綾香さんでもできる簡単なコースのほうがやり易いだろうし、私も雄一に勝てるし」
「いや、結衣に負ける俺じゃねぇよ」
すると、画面に盛大に夜の景色と巨大なビル郡、そしてライトアップされたマリオがカートに乗っている姿が映し出される。更に、盛大に打ち上げられる花火がその夜景を更に色づける。
そして、一瞬だけコースが写される。
突如、画面が四分割され、画面にそれぞれのキャラクターが映し出される。俺のキャラクターであるヘイホーは、右上だ。
その隣に、綾香のベビーマリオがおり、右下に結衣のベビーロゼッタ、左下に妹のクッパがそれぞれのカートに乗りスタンバイをしているところだ。
コースはまるで夜のかの如く薄暗く、明かりといえばコースに点在するライトと巨大パネルからの光、そして観客席の明かりがある程度だ。しかし、ゲームだからか暗くは感じない程度の明るさとなっていて、見やすい程度である。
「雄一には負けない」
「お兄ちゃんには負けない」
やたらと気を張っている両者だが、隣の綾香はリモコンを強く握り締め、少し不安げだった。
四人が写る画面の中央に、黄色い『三』の数字が映し出される。
そして、俺と結衣、妹は数字が二になるのと同時に、二番のボタンを押す。すると、それぞれのキャラクターがアクセルを踏み、ブウゥンと重圧のある音を吐き出す。
これはテクニックで、『ロケットスタート』と言うものだ。開始前にアクセルのボタンを押し、溜めを作ることですばやくスタートができるという技である。
そんな時、思いもよらない一言が俺にかけられた。
「雄一さん、まだ始まってませんよ?」
「えっ……」
そのまま数字は進んで行き、画面に『GO』という数字がでていたとき俺のキャラクターであるヘイホーは勢いよく進んでいくが、俺だけは唖然とし綾香のほうを見ていた。
「そういえば、アクセルってどれですか?」
ボタンの説明などもしていなかったことに、ようやく気づく、それと同時に今まで当たり前の知識と思っていたテクニックに「何?」と聞かれたことに少し驚いてしまう。
「あ、あぁ、そうだった」
少し焦りが隠せない口調だったが、それでも俺はいつもの平常心を取り戻す。
俺がリモコンをおくと、勢いのよい走りをしていたヘイホーは、徐々に減速しだし、コートにとりこのされる。
「アクセルが二番のボタン。あまり使わないけど、バックとブレーキが一番のボタン。カーブとかのハンドル操作は、そのリモコンをそのまま動かせばできる」
「二番のボタンと、ハンドルを動かせは良いんですね?」
「うん」
そういうと、画面で綾香のベビーマリオが動き出す。
「あと、道にある四角いボックスがあったらとって、アイテムだから。使うときは、十字のボタンで使って」
「わかりました」
大体説明し終わったかと思うと、綾香のベビーマリオは逆送しだしていた。
「……、綾香、アクセルは二番のボタンな」
「えっ、あっ、そうでした」
そういうと、綾香のベビーマリオはようやく前進しだす。これで、一安心だろうか。
最初のカーブも無事に回りきれており、操作はもう安心していいだろう。
俺は、自分のリモコンを取るとヘイホーを操る。
二番のボタンを押しながら、前進していく。カーブが見えたと思ったらミニジャンプをし、思いっきりハンドルを切り、ドリフトをする。
ヘイホーの乗る車体が煙を上げながらドリフトを開始する。最初は青色の火花が散っていくが、火花の色が黄色に変わる。その瞬間、火花の色が金色に輝く。それと同時にジャンプボタンである一番を放すと、車体が一気に加速。
風のようなエフェクトをまといながら、ヘイホーのは先ほど出発している綾香を簡単に抜かしてしまう。
「雄一さん、今のってどうやってやるんですか?」
「ん? あぁ、これはカーブのときに二番のボタンを押しながら、一番のボタンを押すとジャンプするから、そのときにハンドルと切ると、ドリフトするだろ?」
俺が、カーブに差し掛かったところで実際にやって見せる。
一旦、リモコンを置いて綾香に教えてあげる。
「それで、火花が青色の時は普通に加速して、金色になるとさっきより加速時間が長くなる」
「へぇ~」
感心した様子で、あやかも実際に試してみる。
カーブに差し掛かったところで、車体がドリフトを開始。青色の火花を散らせながら、コーナーの内側をきわどくついていく。
「綾香、上手じゃん」
「ありがとうございます」
平然と言ってのけるが、結構うまい。妹よりかは上手である。
そして、そのまま俺のヘイホーを抜かしてしまう。
「さてと……」
とりあえず、今の俺の順位は最下位である。綾香はすぐ近くに、いるが一位と二位争いをしている、妹と結衣には追いつけないだろう。それじゃあ、五位くらいを狙ってみるか、と軽い気持ちで簡単な目標を立てて進みだす。
俺のヘイホーがゆっくり前進しだすと、目の前で壁にガンガン当たっている綾香が見えた。
「雄一さん、ハンドリングって難しいですね」
そういいながら、大振りにハンドルを切る綾香だった。その姿は、いつも見慣れた綾香とは少し違う様子で、かわいらしさがあった。
「まぁ、ハンドルはあまり大きく振らなくても反応するから、少しでもいいぞ。それに、疲れるし……」
「そうですか……」
綾香は、そういうと少しづつ前進しながら壁から抜け出そうとするが、ガツンガツンという効果音を響かせながら、壁に向かって前進をしている。
「綾香、一旦貸して」
そう言って、自分のリモコンを置き、身を乗り出しながら綾香のリモコンを借りる。
「えっ、あっ、はい」
俺は、バックを少しして少し進む。壁から少し距離が離れ、進行方向へと車体が向いている状態だ。
「ここから、行けるな?」
「はい、大丈夫です」
そういうと、改めて綾香はちゃんと前進しだした。
俺は自分のリモコンを手に取ると、アクセルを踏み全身をしだす。
「ちょっと……遅れたなぁ」
そういいつつ、進むと地面に光る青いラインが引かれた道が現れる。これは、マリオカート8からの新要素である、犯重力が開始する場所を占めるラインだ。
さりげなく、道の中心においてあるコインを取りつつ、ラインを超える。
すると、タイヤが青色に輝き始め、若干空中に浮いたような上体になる。そして、傾いた傾斜を上っていく。落ちる気配などまったく無しに、壁を登っていく姿は、宙に浮く車にでも乗っている感覚だ。
そして、ラインを踏む前の傾斜は今では平坦な道として、走れるようになる。
最初のカーブで俺は、ミニターボをしつつアイテムをとる。
青色の火花を散らしながら車体は傾き、左上にアイテムがシャッフルされる。そして、選ばれたアイテムは『ミドリこうら』というアイテムだった。
これは、コースを直進に進み相手に当たるとスピンさせるというアイテムだ。直進に進むので、回避されることが多く当てるのが難しい。
しかし、俺の目の前にはコンピューターの相手も、結衣も妹も居ないので別段使う必要が無い。なので、捨てる感覚で投げておく。
俺が、第二のカーブに差し掛かったところで、後ろからものすごい勢いで、黒い大砲の弾のようなものが俺を追い越していく。
たぶんあれは、綾香だろう。
アイテム、キラーのおかげであろう。
キラーというアイテムは、一定時間キラーと言うものになり、猛スピードでコースを進んでいくというアイテムだ。更に、相手に当たると転倒を二回させるという、一発逆転を狙えるアイテムである。
俺を通り過ぎたキラーとなっている綾香は、猛スピードでコースを進んで行き、あっという間に俺の画面から消えてしまう。
再度、俺は最下位になってしまったわけだ。
ミニターボを終了させると、風のエフェクトを纏いながら加速。そして、更にすぐ先にあるカーブでも、ミニターボをさせ、火花が金色へと変化したところで、ボタンを離し、再度加速。
目の前に、また青いラインが表れたのを確認すると、俺はハンドルを構える。
そして、青いラインが見えたのと同時にミニジャンプボタンを押す。
その瞬間に、カートが前転をするかのように空中で回転してみせると、すぐにカートがからグライダーが開き、まるで空を飛ぶかのように飛行する。しかし、実際は落ちているだけである。
そして、そのついでに取ったアイテムがシャッフルされる。選ばれたアイテムは、『アカこうら』だった。
アカこうらは、前にいる敵に自動で追尾して当たってくれるという、先ほどのミドリこうらよりも当てやすいのが特徴である。
しかし、やはり俺の目の前には誰もいないし、前にいるキャラクターはベビーマリオなので、綾香に当てるのも酷な話である。
地面に着地してのと同時に、俺は壁に向かってアカこうらを投げつける。
そして、目の前にカーブが見えてきたので、積極的にミニターボをはさむ。
車体から、見慣れてた青い火花が散っていく。そして、色が金色になったと同時に、俺はボタンを離す。ここからは一直線でゴールである。
白と黒の横断歩道のような模様と、門をくぐるとようやく一ラップが終了である。
これをもうあと二週しなければならない。
しかし、目の前には綾香の姿が見えるが、他のプレイヤーの姿は見えない。
頑張って、追い抜かそうとしたとき、突如画面に『FINISH!!』の文字が現れる。
そして、強制的に画面が変わる。
「えっ……」
「あっ……」
右下には、『トップがゴールしてから三十秒が経過したので、レースを終了しました』の文字が見える。
まさかの事態だった。
隣を見ると、一位であろう結衣が妹に対して誇った顔をしていた。




